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第51話 バーバラ SIDE 4 ~シェンロン~(下)
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「し、しばらくはここに居ましょう。様子を見て、逃げるか隠れるか算段をたてないと――」
しかしバーバラがホッとしたのも、つかの間のことだった。
なんと言うことだろうか。
暴徒たちが屋上庭園へとなだれ込んできたたのだ――!
「見ろ、ニセ巫女バーバラだ!」
「本当にここにいたぞ!」
その一団を見てバーバラは目を疑っていた。
そこにはなんとさっきの下級貴族と、うつむいたハリソンの姿があったからだ。
2人ともパンツ一丁にされて、首にリードのついた首輪をはめられていた。
「このハリソンとかいう情けないヤツの言うとおりだったな!」
「自分が殺されると思ったら、すぐにペラペラとしゃべりやがって」
「な――っ! ハリソン! あ、あ、あんた! あんた裏切ったわね!? 婚約者として散々目をかけて取り立ててやったのに! よりにもよって、この私を売ったのね!?」
「お、俺だって自分の命が大事なんだよ! 死んだら意味ないだろ! バーバラの居場所を教えたら、命だけは見のがしてくれるって言われたんだ!」
「くっ、このっ! あとで覚えてなさいよ! お父さまに言いつけてあんたなんて、上級貴族の身分を剥奪して、国外追放にしてやるんだから!」
バーバラの脅しに、
「へっ、へへっ、後があるならな? おい、お前ら、あいつがバーバラ・ブラスターで間違いないぞ! ニセモノの『神龍の巫女』で、お前らからしぼり取った税金で贅沢三昧してるバーバラ・ブラスターだ!」
しかしハリソンは、こともあろうに暴徒どもを煽りたてるようなことを、言いだしたのだ!
「な――!」
立て続けになされたハリソンの信じられない裏切り行為に、バーバラは絶句した。
「見ろよ、あの高価なドレスを! 指輪もネックレスも髪飾りも靴も! 全部ぜんぶ、お前ら庶民が汗水たらして稼いだ金を、湯水のように使って買ってるんだ!」
ハリソンの言葉に、暴徒たちが色めき立つ。
「あんな綺麗な服を着て――うちの年頃の娘は、もう何年も新しい服が買えなくて、母ちゃんのおさがりを我慢して着てるってのに!」
「こんな奴のせいで、秋にはさらに大増税だって話だぞ――!」
「しかも巫女の力がないのに、『神龍の巫女』の振りをしていた反逆者だぞ!」
「へっ、こうなった以上、タダじゃ済まさねぇ!」
「ああ! 死ぬよりひどい目にあわせてやる!」
恨みと憎しみで目を染めた男たちが、バーバラに近づいてくる。
「ひぃ――っ!?」
バーバラは震えながら後ずさりした。
しかしすぐに、屋上庭園の欄干に行きついてしまう。
ここは狭い屋上庭園。
もうバーバラに逃げ場は、残されていなかった。
バーバラの脳裏には、この薄汚い庶民どもに凌辱の限りを尽くされて、最後は全裸で市中引き回しをされたあげく、むごたらしく殺されてしまう自分の姿がありありと思い浮かんでいた。
支配者たる上級貴族を敬うことすらできない、こんな知性の劣った汚らわしい庶民どもに――。
4大貴族ブラスター公爵の一人娘たるこの私が、いいように嬲られるのだ――。
「なんで、なんで私がこんな目に……なんでこの私が、こんな目にあわなくちゃいけないの……? 私はバーバラ・ブラスター……4大貴族ブラスター公爵の一人娘で、贅沢で輝きに満ちた最高の人生を送ることを神に許された、一握りの高貴な存在なのに――」
――だっていうのに、あんな汚らしい庶民に、この高貴な公爵令嬢である私が、好き放題に蹂躙されるなんて、考えられない――!
そんな理不尽は、絶対に受け入れられない――!
次の瞬間、バーバラは欄干の上に登った。
下を見ると、群衆が波のように王宮へと、文字通り押し寄せていた。
そして王宮を守るはずの近衛兵たちは、まったく抵抗らしい抵抗を見せていなかった。
むしろ民衆と一緒になって行動しているように見えた。
彼らは――軍人たちは、私たち貴族を見放したのだ――。
「はっ、はは――」
バーバラの口から乾いた笑いが漏れた。
これはもう助からないな、とバーバラは完全に悟っていた。
助けはもう、来ないのだ――。
だったらもう、することは決まっている。
ここから飛び降りて、死ぬしかない。
凌辱されてひどい目にあわされてから殺されるよりは、まだそっちの方が少しはマシだろう。
だけど、このまま死ぬわけにはいかない。
飼い犬の分際で、飼い主である上級貴族に逆らった品性下劣な犬畜生どもに、一矢報いてやらねば気が済まないのだから――!
「ふっ、あはっ、あははははっ! 私は死ぬわ! あんたらにいいようにされるくらいなら、ここから飛び下りて死ぬわ! でもね!」
バーバラはそこで言葉を切ると、最高に感じ悪い笑みを浮かべて、呪いの言葉を吐いた。
「残念だけど、私が死んでも『神龍災害』はおさまらないの! つまりあんたたちは、これからずっと神龍の怒りに苦しみ続けるのよ! 未来永劫、神龍が気まぐれで怒りを収めてくれるまで、ずっと! ずっとね!! あははははははっっ! ざまーみろ! ざまーみろ!! ご愁傷さま!!」
高笑いをしながら、怨念のような恨みと、呪詛の言葉を残して、バーバラは欄干から飛んだ。
バーバラの目に、地面がスローモーションで近づいてくる。
数秒後。
贅沢と無法の限りを尽くしたクズ令嬢バーバラ・ブラスターは、あっけないほど簡単にその生涯を閉じたのだった。
しかしバーバラがホッとしたのも、つかの間のことだった。
なんと言うことだろうか。
暴徒たちが屋上庭園へとなだれ込んできたたのだ――!
「見ろ、ニセ巫女バーバラだ!」
「本当にここにいたぞ!」
その一団を見てバーバラは目を疑っていた。
そこにはなんとさっきの下級貴族と、うつむいたハリソンの姿があったからだ。
2人ともパンツ一丁にされて、首にリードのついた首輪をはめられていた。
「このハリソンとかいう情けないヤツの言うとおりだったな!」
「自分が殺されると思ったら、すぐにペラペラとしゃべりやがって」
「な――っ! ハリソン! あ、あ、あんた! あんた裏切ったわね!? 婚約者として散々目をかけて取り立ててやったのに! よりにもよって、この私を売ったのね!?」
「お、俺だって自分の命が大事なんだよ! 死んだら意味ないだろ! バーバラの居場所を教えたら、命だけは見のがしてくれるって言われたんだ!」
「くっ、このっ! あとで覚えてなさいよ! お父さまに言いつけてあんたなんて、上級貴族の身分を剥奪して、国外追放にしてやるんだから!」
バーバラの脅しに、
「へっ、へへっ、後があるならな? おい、お前ら、あいつがバーバラ・ブラスターで間違いないぞ! ニセモノの『神龍の巫女』で、お前らからしぼり取った税金で贅沢三昧してるバーバラ・ブラスターだ!」
しかしハリソンは、こともあろうに暴徒どもを煽りたてるようなことを、言いだしたのだ!
「な――!」
立て続けになされたハリソンの信じられない裏切り行為に、バーバラは絶句した。
「見ろよ、あの高価なドレスを! 指輪もネックレスも髪飾りも靴も! 全部ぜんぶ、お前ら庶民が汗水たらして稼いだ金を、湯水のように使って買ってるんだ!」
ハリソンの言葉に、暴徒たちが色めき立つ。
「あんな綺麗な服を着て――うちの年頃の娘は、もう何年も新しい服が買えなくて、母ちゃんのおさがりを我慢して着てるってのに!」
「こんな奴のせいで、秋にはさらに大増税だって話だぞ――!」
「しかも巫女の力がないのに、『神龍の巫女』の振りをしていた反逆者だぞ!」
「へっ、こうなった以上、タダじゃ済まさねぇ!」
「ああ! 死ぬよりひどい目にあわせてやる!」
恨みと憎しみで目を染めた男たちが、バーバラに近づいてくる。
「ひぃ――っ!?」
バーバラは震えながら後ずさりした。
しかしすぐに、屋上庭園の欄干に行きついてしまう。
ここは狭い屋上庭園。
もうバーバラに逃げ場は、残されていなかった。
バーバラの脳裏には、この薄汚い庶民どもに凌辱の限りを尽くされて、最後は全裸で市中引き回しをされたあげく、むごたらしく殺されてしまう自分の姿がありありと思い浮かんでいた。
支配者たる上級貴族を敬うことすらできない、こんな知性の劣った汚らわしい庶民どもに――。
4大貴族ブラスター公爵の一人娘たるこの私が、いいように嬲られるのだ――。
「なんで、なんで私がこんな目に……なんでこの私が、こんな目にあわなくちゃいけないの……? 私はバーバラ・ブラスター……4大貴族ブラスター公爵の一人娘で、贅沢で輝きに満ちた最高の人生を送ることを神に許された、一握りの高貴な存在なのに――」
――だっていうのに、あんな汚らしい庶民に、この高貴な公爵令嬢である私が、好き放題に蹂躙されるなんて、考えられない――!
そんな理不尽は、絶対に受け入れられない――!
次の瞬間、バーバラは欄干の上に登った。
下を見ると、群衆が波のように王宮へと、文字通り押し寄せていた。
そして王宮を守るはずの近衛兵たちは、まったく抵抗らしい抵抗を見せていなかった。
むしろ民衆と一緒になって行動しているように見えた。
彼らは――軍人たちは、私たち貴族を見放したのだ――。
「はっ、はは――」
バーバラの口から乾いた笑いが漏れた。
これはもう助からないな、とバーバラは完全に悟っていた。
助けはもう、来ないのだ――。
だったらもう、することは決まっている。
ここから飛び降りて、死ぬしかない。
凌辱されてひどい目にあわされてから殺されるよりは、まだそっちの方が少しはマシだろう。
だけど、このまま死ぬわけにはいかない。
飼い犬の分際で、飼い主である上級貴族に逆らった品性下劣な犬畜生どもに、一矢報いてやらねば気が済まないのだから――!
「ふっ、あはっ、あははははっ! 私は死ぬわ! あんたらにいいようにされるくらいなら、ここから飛び下りて死ぬわ! でもね!」
バーバラはそこで言葉を切ると、最高に感じ悪い笑みを浮かべて、呪いの言葉を吐いた。
「残念だけど、私が死んでも『神龍災害』はおさまらないの! つまりあんたたちは、これからずっと神龍の怒りに苦しみ続けるのよ! 未来永劫、神龍が気まぐれで怒りを収めてくれるまで、ずっと! ずっとね!! あははははははっっ! ざまーみろ! ざまーみろ!! ご愁傷さま!!」
高笑いをしながら、怨念のような恨みと、呪詛の言葉を残して、バーバラは欄干から飛んだ。
バーバラの目に、地面がスローモーションで近づいてくる。
数秒後。
贅沢と無法の限りを尽くしたクズ令嬢バーバラ・ブラスターは、あっけないほど簡単にその生涯を閉じたのだった。
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