49 / 64
第49話 クレア襲撃(下)
しおりを挟む
「ふぅ……どうにか勝ったか」
ライオネルは緊張を解くと、大きく息を吐いた。
「でも怪我をしています!」
わずかにかすったんだろう。
ライオネルの左腕の軍服が切れて、その下の肌がわずかに血でにじんでいる。
「ああ、これならかすり傷さ。心配はいらないよ」
「良かったぁ」
それを聞いて、わたしもほっと一安心だった。
「本当は生かしたまま捕まえて、黒幕が誰なのかを吐かせたかったんだけどね……だけどものすごい剣の使い手だったから、正直ボクも手加減する余裕はなかったよ――、っとと……」
突然フラリと、ライオネルの身体がグラついたかと思うと、その身体がバタンと地面に倒れたのだ――!
「ど、どうしたんですかライオネル!? かすり傷だったんじゃ――」
わたしは慌ててライオネルを助け起こす。
すると、ライオネルが苦しそうに言うんだ。
「くっ……意識がもうろうとしてきた……これは、そうか……どうやら、刃に強力な毒が塗ってあったようだ……」
「毒!? そんなっ!?」
『お前もすぐに俺の後を追うだろうよ……くくっ』
拉致工作員のあの最後の捨て台詞は、こう言うことだったんだ!
毒の刃がかすったのが、分かってたからだったんだ!
「これは、本気でまずいな……ぐ、クレアすまない……どうやらボクはここまでのようだ――」
ライオネルはそう言うと、力なく目を閉じた。
「ライオネル! ライオネル! しっかりしてください! ライオネル!」
だけどわたしがどれだけ呼びかけても、ライオネルはぐったりとしたまま返事をしないのだ。
顔は土気色をしていて、呼吸もほとんどしていない。
隊長さんがすぐに医者を呼ぶように部下に命令したけど、それじゃきっと間に合わない――!
――だったら、わたしがやるんだ!
わたしのやるべきことを、わたしにしかできないことを――!
わたしはライオネルを地面に寝かせると、すっくと立ちあがった。
「すーーー、はーーー」
一度大きく深呼吸をする。
そして意識を集中すると、『神龍かぐら』を舞い始めた。
水龍さまに『奉納の舞』を捧げるのだ。
今は祭壇も舞台も、道具も、ここには必要なものが何もなかった。
完全な身一つでの『奉納の舞』は、さすがに初めての経験だ。
でも、わたしはやってみせる!
絶対にライオネルを助けるんだから!
水龍さま、お願いです、わたしに力を貸してください――!
大切な人への強く深い想いを乗せて舞い踊るわたしは、
『クレアのピンチに私、参上!』
すぐに水龍さまとのコンタクトに成功した。
「水龍さま、どうかライオネルの毒を解毒してください!」
わたしは水龍さまにお願いをした。
『まかせてー。毒の分解くらいよゆーよゆー。じゃ、いっくよー、神通力フルパワー! おりゃーーっ!』
ライオネルの身体が、水龍さまの神通力が具現化した、青い光で包まれる。
すると――!
「あれ、ボクは……? たしか毒の刃で斬られたはずじゃ……?」
ライオネルが、それはもうあっさりと目を覚ましたんだ!
「水龍さまの力で、解毒してもらったんです」
「そんなことが――。やれやれ、だめだなボクは。クレアと水龍さまには助けてもらってばかりだ。本当に頭が上がらないよ」
ライオネルはそんなことを言うんだけど、
「あはは、助けてもらってのるはわたしの方ですよ。今日のことだけじゃありません。初めて会った時もそうでした。わたしのほうこそ、ライオネルにいっつも助けてもらってるんですから」
それにわたしはただ、水龍さまにお願いして、水龍さまの力を借りてるだけなんだもん。
すごいのはわたしじゃなくて、水龍さまだよね。
「じゃあそうだね、助けてもらったのは、お互いさまってことで。改めてありがとうクレア」
「はい、お互い様です! 今日は助けてくれたありがとうございました。これからも助け合っていきましょうね」
「もちろんさ。クレアには、これからもずっとボクの隣にいてほしい」
「えへへ、ライオネルも、ずっとわたしの隣にいてくださいよ?」
「ああ、約束しよう」
わたしとライオネルは、小指を絡め合って指切りげんまんをした。
こうして。
拉致工作員によるわたし襲撃事件は、大きな被害を出すこともなく、無事に解決したのだった。
めでたしめでたし。
ライオネルは緊張を解くと、大きく息を吐いた。
「でも怪我をしています!」
わずかにかすったんだろう。
ライオネルの左腕の軍服が切れて、その下の肌がわずかに血でにじんでいる。
「ああ、これならかすり傷さ。心配はいらないよ」
「良かったぁ」
それを聞いて、わたしもほっと一安心だった。
「本当は生かしたまま捕まえて、黒幕が誰なのかを吐かせたかったんだけどね……だけどものすごい剣の使い手だったから、正直ボクも手加減する余裕はなかったよ――、っとと……」
突然フラリと、ライオネルの身体がグラついたかと思うと、その身体がバタンと地面に倒れたのだ――!
「ど、どうしたんですかライオネル!? かすり傷だったんじゃ――」
わたしは慌ててライオネルを助け起こす。
すると、ライオネルが苦しそうに言うんだ。
「くっ……意識がもうろうとしてきた……これは、そうか……どうやら、刃に強力な毒が塗ってあったようだ……」
「毒!? そんなっ!?」
『お前もすぐに俺の後を追うだろうよ……くくっ』
拉致工作員のあの最後の捨て台詞は、こう言うことだったんだ!
毒の刃がかすったのが、分かってたからだったんだ!
「これは、本気でまずいな……ぐ、クレアすまない……どうやらボクはここまでのようだ――」
ライオネルはそう言うと、力なく目を閉じた。
「ライオネル! ライオネル! しっかりしてください! ライオネル!」
だけどわたしがどれだけ呼びかけても、ライオネルはぐったりとしたまま返事をしないのだ。
顔は土気色をしていて、呼吸もほとんどしていない。
隊長さんがすぐに医者を呼ぶように部下に命令したけど、それじゃきっと間に合わない――!
――だったら、わたしがやるんだ!
わたしのやるべきことを、わたしにしかできないことを――!
わたしはライオネルを地面に寝かせると、すっくと立ちあがった。
「すーーー、はーーー」
一度大きく深呼吸をする。
そして意識を集中すると、『神龍かぐら』を舞い始めた。
水龍さまに『奉納の舞』を捧げるのだ。
今は祭壇も舞台も、道具も、ここには必要なものが何もなかった。
完全な身一つでの『奉納の舞』は、さすがに初めての経験だ。
でも、わたしはやってみせる!
絶対にライオネルを助けるんだから!
水龍さま、お願いです、わたしに力を貸してください――!
大切な人への強く深い想いを乗せて舞い踊るわたしは、
『クレアのピンチに私、参上!』
すぐに水龍さまとのコンタクトに成功した。
「水龍さま、どうかライオネルの毒を解毒してください!」
わたしは水龍さまにお願いをした。
『まかせてー。毒の分解くらいよゆーよゆー。じゃ、いっくよー、神通力フルパワー! おりゃーーっ!』
ライオネルの身体が、水龍さまの神通力が具現化した、青い光で包まれる。
すると――!
「あれ、ボクは……? たしか毒の刃で斬られたはずじゃ……?」
ライオネルが、それはもうあっさりと目を覚ましたんだ!
「水龍さまの力で、解毒してもらったんです」
「そんなことが――。やれやれ、だめだなボクは。クレアと水龍さまには助けてもらってばかりだ。本当に頭が上がらないよ」
ライオネルはそんなことを言うんだけど、
「あはは、助けてもらってのるはわたしの方ですよ。今日のことだけじゃありません。初めて会った時もそうでした。わたしのほうこそ、ライオネルにいっつも助けてもらってるんですから」
それにわたしはただ、水龍さまにお願いして、水龍さまの力を借りてるだけなんだもん。
すごいのはわたしじゃなくて、水龍さまだよね。
「じゃあそうだね、助けてもらったのは、お互いさまってことで。改めてありがとうクレア」
「はい、お互い様です! 今日は助けてくれたありがとうございました。これからも助け合っていきましょうね」
「もちろんさ。クレアには、これからもずっとボクの隣にいてほしい」
「えへへ、ライオネルも、ずっとわたしの隣にいてくださいよ?」
「ああ、約束しよう」
わたしとライオネルは、小指を絡め合って指切りげんまんをした。
こうして。
拉致工作員によるわたし襲撃事件は、大きな被害を出すこともなく、無事に解決したのだった。
めでたしめでたし。
1
お気に入りに追加
3,319
あなたにおすすめの小説
国外追放を受けた聖女ですが、戻ってくるよう懇願されるけどイケメンの国王陛下に愛されてるので拒否します!!
真時ぴえこ
恋愛
「ルーミア、そなたとの婚約は破棄する!出ていけっ今すぐにだ!」
皇太子アレン殿下はそうおっしゃられました。
ならよいでしょう、聖女を捨てるというなら「どうなっても」知りませんからね??
国外追放を受けた聖女の私、ルーミアはイケメンでちょっとツンデレな国王陛下に愛されちゃう・・・♡
婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです
秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。
そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。
いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが──
他サイト様でも掲載しております。
聖女召喚に巻き込まれた挙句、ハズレの方と蔑まれていた私が隣国の過保護な王子に溺愛されている件
バナナマヨネーズ
恋愛
聖女召喚に巻き込まれた志乃は、召喚に巻き込まれたハズレの方と言われ、酷い扱いを受けることになる。
そんな中、隣国の第三王子であるジークリンデが志乃を保護することに。
志乃を保護したジークリンデは、地面が泥濘んでいると言っては、志乃を抱き上げ、用意した食事が熱ければ火傷をしないようにと息を吹きかけて冷ましてくれるほど過保護だった。
そんな過保護すぎるジークリンデの行動に志乃は戸惑うばかり。
「私は子供じゃないからそんなことしなくてもいいから!」
「いや、シノはこんなに小さいじゃないか。だから、俺は君を命を懸けて守るから」
「お…重い……」
「ん?ああ、ごめんな。その荷物は俺が持とう」
「これくらい大丈夫だし、重いってそういうことじゃ……。はぁ……」
過保護にされたくない志乃と過保護にしたいジークリンデ。
二人は共に過ごすうちに知ることになる。その人がお互いの運命の人なのだと。
全31話
ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!
沙寺絃
恋愛
ルイン王国の神殿で働く聖女アリーシャは、早朝から深夜まで一人で激務をこなしていた。
それなのに聖女の力を理解しない王太子コリンから理不尽に追放を言い渡されてしまう。
失意のアリーシャを迎えに来たのは、隣国アストラ帝国からの使者だった。
アリーシャはポーション作りの才能を買われ、アストラ帝国に招かれて病に臥せった皇帝を助ける。
帝国の皇子は感謝して、アリーシャに深い愛情と敬意を示すようになる。
そして帝国の皇子は十年前にアリーシャと出会った事のある初恋の男の子だった。
再会に胸を弾ませるアリーシャ。しかし、衝撃の事実が発覚する。
なんと、皇子は三つ子だった!
アリーシャの幼馴染の男の子も、三人の皇子が入れ替わって接していたと判明。
しかも病から復活した皇帝は、アリーシャを皇子の妃に迎えると言い出す。アリーシャと結婚した皇子に、次の皇帝の座を譲ると宣言した。
アリーシャは個性的な三つ子の皇子に愛されながら、誰と結婚するか決める事になってしまう。
一方、アリーシャを追放したルイン王国では暗雲が立ち込め始めていた……。
お堅い公爵様に求婚されたら、溺愛生活が始まりました
群青みどり
恋愛
国に死ぬまで搾取される聖女になるのが嫌で実力を隠していたアイリスは、周囲から無能だと虐げられてきた。
どれだけ酷い目に遭おうが強い精神力で乗り越えてきたアイリスの安らぎの時間は、若き公爵のセピアが神殿に訪れた時だった。
そんなある日、セピアが敵と対峙した時にたまたま近くにいたアイリスは巻き込まれて怪我を負い、気絶してしまう。目が覚めると、顔に傷痕が残ってしまったということで、セピアと婚約を結ばれていた!
「どうか怪我を負わせた責任をとって君と結婚させてほしい」
こんな怪我、聖女の力ですぐ治せるけれど……本物の聖女だとバレたくない!
このまま正体バレして国に搾取される人生を送るか、他の方法を探して婚約破棄をするか。
婚約破棄に向けて悩むアイリスだったが、罪悪感から求婚してきたはずのセピアの溺愛っぷりがすごくて⁉︎
「ずっと、どうやってこの神殿から君を攫おうかと考えていた」
麗しの公爵様は、今日も聖女にしか見せない笑顔を浮かべる──
※タイトル変更しました
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
侯爵令嬢セリーナ・マクギリウスは冷徹な鬼公爵に溺愛される。 わたくしが古の大聖女の生まれ変わり? そんなの聞いてません!!
友坂 悠
恋愛
「セリーナ・マクギリウス。貴女の魔法省への入省を許可します」
婚約破棄され修道院に入れられかけたあたしがなんとか採用されたのは国家の魔法を一手に司る魔法省。
そこであたしの前に現れたのは冷徹公爵と噂のオルファリド・グラキエスト様でした。
「君はバカか?」
あたしの話を聞いてくれた彼は開口一番そうのたまって。
ってちょっと待って。
いくらなんでもそれは言い過ぎじゃないですか!!?
⭐︎⭐︎⭐︎
「セリーナ嬢、君のこれまでの悪行、これ以上は見過ごすことはできない!」
貴族院の卒業記念パーティの会場で、茶番は起きました。
あたしの婚約者であったコーネリアス殿下。会場の真ん中をスタスタと進みあたしの前に立つと、彼はそう言い放ったのです。
「レミリア・マーベル男爵令嬢に対する数々の陰湿ないじめ。とても君は国母となるに相応しいとは思えない!」
「私、コーネリアス・ライネックの名においてここに宣言する! セリーナ・マクギリウス侯爵令嬢との婚約を破棄することを!!」
と、声を張り上げたのです。
「殿下! 待ってください! わたくしには何がなんだか。身に覚えがありません!」
周囲を見渡してみると、今まで仲良くしてくれていたはずのお友達たちも、良くしてくれていたコーネリアス殿下のお付きの人たちも、仲が良かった従兄弟のマクリアンまでもが殿下の横に立ち、あたしに非難めいた視線を送ってきているのに気がついて。
「言い逃れなど見苦しい! 証拠があるのだ。そして、ここにいる皆がそう証言をしているのだぞ!」
え?
どういうこと?
二人っきりの時に嫌味を言っただの、お茶会の場で彼女のドレスに飲み物をわざとかけただの。
彼女の私物を隠しただの、人を使って階段の踊り場から彼女を突き落とそうとしただの。
とそんな濡れ衣を着せられたあたし。
漂う黒い陰湿な気配。
そんな黒いもやが見え。
ふんわり歩いてきて殿下の横に縋り付くようにくっついて、そしてこちらを見て笑うレミリア。
「私は真実の愛を見つけた。これからはこのレミリア嬢と添い遂げてゆこうと思う」
あたしのことなんかもう忘れたかのようにレミリアに微笑むコーネリアス殿下。
背中にじっとりとつめたいものが走り、尋常でない様子に気分が悪くなったあたし。
ほんと、この先どうなっちゃうの?
妹と寝たんですか?エセ聖女ですよ?~妃の座を奪われかけた令嬢の反撃~
岡暁舟
恋愛
100年に一度の確率で、令嬢に宿るとされる、聖なる魂。これを授かった令嬢は聖女と認定され、無条件で時の皇帝と婚約することになる。そして、その魂を引き当てたのが、この私、エミリー・バレットである。
本来ならば、私が皇帝と婚約することになるのだが、どういうわけだか、偽物の聖女を名乗る不届き者がいるようだ。その名はジューン・バレット。私の妹である。
別にどうしても皇帝と婚約したかったわけではない。でも、妹に裏切られたと思うと、少し癪だった。そして、既に二人は一夜を過ごしてしまったそう!ジューンの笑顔と言ったら……ああ、憎たらしい!
そんなこんなで、いよいよ私に名誉挽回のチャンスが回ってきた。ここで私が聖女であることを証明すれば……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる