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第48話 クレア襲撃(中)

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「く――っ!?」

 飛んできた薔薇によって不審者がよろめいた隙に、わたしを守るようにして、わたしと不審者のあいだにライオネルが割って入った。

「クレア、無事か!?」
 ライオネルが背中越しに問いかけてくる。

「はい無事です、ライオネルのおかげで! でも、どうしてライオネルがここに?」

「シェンロンの特殊工作員が、クレアを拉致しようとしているって情報を得てね。調べてみると、どうも工作員はすでにブリスタニア王宮に潜入してるってことが分かったから、慌てててかけつけたのさ。良かった、ギリギリ間にあったみたいだ」

 さらにライオネルに続いて、ブリスタニア王宮を守る近衛兵たちが次々と駆け付けてくる。

 デデン!
 形勢は一気に逆転した!

「ライオネル殿下、危険です。どうぞお下がりください。この不審者は、私どもが取り押さえましょう」
 隊長さんっぽい人が進言する。

「いいや、こいつの相手はボクがする」
 しかしライオネルはそう言って、スラリと剣を抜いた。

「ですが――」

「こいつは相当な手練てだれだよ。ボクほどになれば見ればわかる。いたずらに死者を出したくない」

「ですが大切な御身おんみに、もしものことがあっては――」

「ボクの命同様に、君たちの命だって大切さ。悲しむ人がいるのは、ボクも君たちも同じだからね。それにボクは第3王子。既にそれぞれの領地を治めている優秀な2人の兄がいる」

「ライオネル殿下……なんとありがたきお言葉。ですがそれでも――」

「それにね、ボクは今すごく怒ってるんだ。大切な婚約者であるクレアが、連れ去られようとしたんだから。これはもう、怒らずにはいられないよね?」

 いつでも誰にでも優しく笑っているライオネルが激怒した顔を、わたしは今日、初めて見たんだ。

 歴戦れきせん猛勇もうゆうって感じのブリスタニア王に、負けず劣らずの怖い顔をして、猛烈な怒気を拉致工作員に向けてたんだ。

 だけどそれは、わたしのことを思うが故の、愛深き故の、怒りの発露で――!

「近隣に並ぶものなしと称される当代随一の剣の使い手、“真紅の閃光”ライオネル・クリムゾンレッド・ブリスタニアか――」

「へぇ、ブリスタニアの王族にも詳しいんだね? 雇い主に教えてもらったのかな?」

「ちっ――」

「シェンロンで使われているような、ブリスタニアなまりのない綺麗な共通語を話してるけど、雇い主はシェンロンの誰かなのかな?」

「……答える義理はない。悪いが王族といえど、俺は目的のためには容赦ようしゃはせんぞ」
不逞ふていやからめ、のぞむところだ」

 短いやり取りを終えると、ライオネルと拉致工作員の戦いがはじまった!

 キンキンキンキンキンキンキンキン――!

 剣と剣がぶつかっては激しく火花を散らす、ものすごい戦いが繰り広げられる。

 なにがどうすごいかは、どんくさいわたしでは説明不能なんだけど。
 でも、どちらも目で追えないくらいに、神速の剣の技で切り結んでたんだ。

「くっ、”真紅の閃光”ライオネル。噂には聞いていたが、まさかこれほどとはな――」

 戦いは最初は互角(たぶん)だったけど、すぐにライオネルがどんどんと押しはじめた。

「君こそそれほどの剣の腕を持ちながら、か弱い女の子を拉致する工作員になり果てるなんてね。いったい誰から命令を受けたのかな? 『神龍の巫女』バーバラ、もしくはその婚約者ハリソンってところかい?」

「答える義理はないと言ったはずだ! 死ねっ、ライオネル! ハァァァッ――!!」

 拉致工作員が神速の踏み込みから、必殺の一撃を打ちはなった。

 ライオネルと拉致工作員が、一瞬の間際に交錯する。

「ライオネルっ!」
 直後に鮮血が飛び散って、わたしは思わず悲鳴を上げた。

 そして、わたしの目の前でゆっくりと崩れ落ちた――拉致工作員が。

 拉致工作員の必殺の一撃を、ライオネルはギリギリで交わして、カウンターで斬って捨てたのだ。

 正直わたしにはちっとも見えてなかったんだけど、状況的にそうだと思われる。

 ごめんね、運動音痴で……。
 動体視力もあんまりよくないんだ……。

 そしてライオネルのカウンタ一閃は、拉致工作員に完全な致命傷を与えていた。

「バカな……この俺が敗れるなどと……」
 倒れた拉致工作員は、血を吐きながら、信じられないって表情でライオネルを見上げている。

「確かにお前は強かったよ。だけど怒りがボクを強くしてくれたんだ。お前だけは絶対に許さないと、ボクの心が高らかに燃え上がったこと、それが紙一重の勝因となったのさ」

「く……くくっ、いかにも王子らしい物の言いようだな……だがやはり甘いな……お前もすぐに俺の後を追うだろうよ……くくっ、かはっ……」

 拉致工作員は最後に捨て台詞のようなものを残すと、そのまま死んで動かなくなった。


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