上 下
46 / 64

第46話 聖女、今日も水龍さまと世間話をする。

しおりを挟む
「――と、いうわけなんですよ」

『へぇ、そんなことになってたんだねー。クレアも大変だねー』

 わたしは今日も今日とて、水龍さまとのほほーんと井戸端会議をしていた。

 あんなことがあった後だけど、ライオネルからはいつも通りに過ごしてほしいって言われてるしね。

 何よりやっとブリスタニア王宮の人の顔と名前が一致してきたばかりの宮廷素人のわたしに、国と国の問題でできることなんてないわけで。

「水龍さまはこの件でなにかご存じですか?」

 わたしにできることと言えば精々せいぜいこうやって、世間話ついでに水龍さまに聞いてみるくらいだった。

 ちなみにさっきせっかく覚えたお花の名前なんだけど、実は間違ってたの……。

 挨拶をしてすぐに最初の話題で水龍さまに言ってみたらね?
 『ブーゲンジニアじゃなくて、ブーゲンビリアだよー』
 って言われちゃったんだ。

 おかしいなぁ、ちゃんと覚えたと思ったのに。
 なんで間違えちゃったんだろ?

 まさか最初から覚え間違いしてた、なんてことはないよね?
 まさかね、あはは。
 さすがのわたしもそこまでおバカじゃないんだから。

 話を戻そう。

『んー、他国のことはあんまし分からないかなぁ。神龍のところにクビ突っこむとメンドそうだし、そもそもシェンロン王国じゃ私は顕現できないしなー』

 わたしの質問に、水龍さまは今日もほやほやーっとのんびり答えてくれる。

「そうですよね……」
 というわけで、わたしは完全に打つ手なしなのだった。

『あ、でもでも。最近までクレアはシェンロン王国に住んでたんでしょ? 酷い目にあってたとはいえ、生まれ育った国が大変な目にあっているのは複雑な気分でしょう?』

「はい。シェンロンにはわたしを育ててくれた孤児院と、シスターさんもいますから……」

『みんな無事だといいねぇ』
 心配した水龍さまが祈るように言ってくれる。

 ほんと龍と巫女っていうより、年の離れた妹を心配する優しいお姉ちゃんって感じだよね。

「まぁ、あまり考えても仕方ありませんので。ライオネルが探りを入れてくれるって言ってくれてますので、その結果を待とうと思ってます」

『うんうん、それがいいよー。昔から、果報は寝て待てってね』

「じゃあこの話はこれくらいにして……ところで水龍さま、ライオネルとの事なんですけど。水龍さまにこの前アドバイスをもらったとおりにしたら、すごく喜んでくれまして! 今日はその報告をしたいなって思うんですけど」

 わたしは努めて元気よく言った。

 湿っぽい話はもう終わりにして、ここからはいつもみたいに楽しくお話しましょう、っていう意思表示だ。

 だってわたしは『水龍の巫女』だもん。
 水龍さまに心配かけるんじゃなくて、水龍さまを楽しませるのがわたしの使命なんだから!(キリッ

『わわっ、それ聞きたい聞きたい! わくわく!』

 水龍さまもわたしの意図をくみとってくれて、いつもよりも元気よく話に乗ってくれる。

「実はですね――」
『ふんふん!』

 そこからはわたしと水龍さまは、いつものように楽しくおしゃべりをしたのだった。
しおりを挟む
感想 133

あなたにおすすめの小説

国外追放を受けた聖女ですが、戻ってくるよう懇願されるけどイケメンの国王陛下に愛されてるので拒否します!!

真時ぴえこ
恋愛
「ルーミア、そなたとの婚約は破棄する!出ていけっ今すぐにだ!」  皇太子アレン殿下はそうおっしゃられました。  ならよいでしょう、聖女を捨てるというなら「どうなっても」知りませんからね??  国外追放を受けた聖女の私、ルーミアはイケメンでちょっとツンデレな国王陛下に愛されちゃう・・・♡

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!

沙寺絃
恋愛
ルイン王国の神殿で働く聖女アリーシャは、早朝から深夜まで一人で激務をこなしていた。 それなのに聖女の力を理解しない王太子コリンから理不尽に追放を言い渡されてしまう。 失意のアリーシャを迎えに来たのは、隣国アストラ帝国からの使者だった。 アリーシャはポーション作りの才能を買われ、アストラ帝国に招かれて病に臥せった皇帝を助ける。 帝国の皇子は感謝して、アリーシャに深い愛情と敬意を示すようになる。 そして帝国の皇子は十年前にアリーシャと出会った事のある初恋の男の子だった。 再会に胸を弾ませるアリーシャ。しかし、衝撃の事実が発覚する。 なんと、皇子は三つ子だった! アリーシャの幼馴染の男の子も、三人の皇子が入れ替わって接していたと判明。 しかも病から復活した皇帝は、アリーシャを皇子の妃に迎えると言い出す。アリーシャと結婚した皇子に、次の皇帝の座を譲ると宣言した。 アリーシャは個性的な三つ子の皇子に愛されながら、誰と結婚するか決める事になってしまう。 一方、アリーシャを追放したルイン王国では暗雲が立ち込め始めていた……。

聖女召喚に巻き込まれた挙句、ハズレの方と蔑まれていた私が隣国の過保護な王子に溺愛されている件

バナナマヨネーズ
恋愛
聖女召喚に巻き込まれた志乃は、召喚に巻き込まれたハズレの方と言われ、酷い扱いを受けることになる。 そんな中、隣国の第三王子であるジークリンデが志乃を保護することに。 志乃を保護したジークリンデは、地面が泥濘んでいると言っては、志乃を抱き上げ、用意した食事が熱ければ火傷をしないようにと息を吹きかけて冷ましてくれるほど過保護だった。 そんな過保護すぎるジークリンデの行動に志乃は戸惑うばかり。 「私は子供じゃないからそんなことしなくてもいいから!」 「いや、シノはこんなに小さいじゃないか。だから、俺は君を命を懸けて守るから」 「お…重い……」 「ん?ああ、ごめんな。その荷物は俺が持とう」 「これくらい大丈夫だし、重いってそういうことじゃ……。はぁ……」 過保護にされたくない志乃と過保護にしたいジークリンデ。 二人は共に過ごすうちに知ることになる。その人がお互いの運命の人なのだと。 全31話

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

お堅い公爵様に求婚されたら、溺愛生活が始まりました

群青みどり
恋愛
 国に死ぬまで搾取される聖女になるのが嫌で実力を隠していたアイリスは、周囲から無能だと虐げられてきた。  どれだけ酷い目に遭おうが強い精神力で乗り越えてきたアイリスの安らぎの時間は、若き公爵のセピアが神殿に訪れた時だった。  そんなある日、セピアが敵と対峙した時にたまたま近くにいたアイリスは巻き込まれて怪我を負い、気絶してしまう。目が覚めると、顔に傷痕が残ってしまったということで、セピアと婚約を結ばれていた! 「どうか怪我を負わせた責任をとって君と結婚させてほしい」  こんな怪我、聖女の力ですぐ治せるけれど……本物の聖女だとバレたくない!  このまま正体バレして国に搾取される人生を送るか、他の方法を探して婚約破棄をするか。  婚約破棄に向けて悩むアイリスだったが、罪悪感から求婚してきたはずのセピアの溺愛っぷりがすごくて⁉︎ 「ずっと、どうやってこの神殿から君を攫おうかと考えていた」  麗しの公爵様は、今日も聖女にしか見せない笑顔を浮かべる── ※タイトル変更しました

妹と寝たんですか?エセ聖女ですよ?~妃の座を奪われかけた令嬢の反撃~

岡暁舟
恋愛
100年に一度の確率で、令嬢に宿るとされる、聖なる魂。これを授かった令嬢は聖女と認定され、無条件で時の皇帝と婚約することになる。そして、その魂を引き当てたのが、この私、エミリー・バレットである。 本来ならば、私が皇帝と婚約することになるのだが、どういうわけだか、偽物の聖女を名乗る不届き者がいるようだ。その名はジューン・バレット。私の妹である。 別にどうしても皇帝と婚約したかったわけではない。でも、妹に裏切られたと思うと、少し癪だった。そして、既に二人は一夜を過ごしてしまったそう!ジューンの笑顔と言ったら……ああ、憎たらしい! そんなこんなで、いよいよ私に名誉挽回のチャンスが回ってきた。ここで私が聖女であることを証明すれば……。

私は王子の婚約者にはなりたくありません。

黒蜜きな粉
恋愛
公爵令嬢との婚約を破棄し、異世界からやってきた聖女と結ばれた王子。 愛を誓い合い仲睦まじく過ごす二人。しかし、そのままハッピーエンドとはならなかった。 いつからか二人はすれ違い、愛はすっかり冷めてしまった。 そんな中、主人公のメリッサは留学先の学校の長期休暇で帰国。 父と共に招かれた夜会に顔を出すと、そこでなぜか王子に見染められてしまった。 しかも、公衆の面前で王子にキスをされ逃げられない状況になってしまう。 なんとしてもメリッサを新たな婚約者にしたい王子。 さっさと留学先に戻りたいメリッサ。 そこへ聖女があらわれて――   婚約破棄のその後に起きる物語

処理中です...