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第33話 ドボン

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 わたしは湖の中に盛大にドボンした。

 ドボンした瞬間、自分のドンくささに呆れてしまうくらいに、それはもうものの見事に、水の中にドボンしてしまった。

「あっぷ、うっぷ、えっぷ……」

 水の中で、わたしは必死で手足をバタバタするんだけど――、

「ぶくぶくぶく……」

 ううっ、服が張り付いてうまく泳げないよ……。
 泳ぐっていうか、俗にいう犬かきだけど。

 だってわたし、泳いだことないし……。
 だって神龍国家シェンロンは内陸国家だもん。

 もし1人なら、わたしはこのまま溺れて死んじゃってた。
 だけどここには、ライオネルがいた――!

「クレア、今助けにいくから!」

 そう言うや否やライオネルは飛びこんで、水の中でわたしを抱き寄せた。

 ライオネルの力強い腕にぎゅっと抱きしめられて、わたしは一安心するとともに、

「ふぁ……」
 って、嬉しい気持ちになった。

 そのままボートに引き上げてもらって、ふぅ、やれやれ。
 わたしは事なきを得たのだった。

「ドジをして、すみませんでした。それと助けてもらって、ありがとうございます」

 ボートに上がったわたしは開口一番、謝罪と感謝の気持ちを伝えた。

 だけど、

「謝る必要なんてないよ。クレアが無事で本当によかった。それにボートで急に立ちあがると危険だって、伝えてなかったボクのほうに大きな非がある。危ない目にあわせてしまって、本当に申し訳ない。この通りだ、許しいてほしい」

 ライオネルは自分の方が悪かったって、言ってくれるんだもん!

「そんな、ライオネルは悪くなんてありません! わたしがどうしようもなく、ドンくさいだけで――」

「いいや、これは絶対的にボクが悪い――」

 そう言いかけたライオネルが、急にピシリと固まった。

 あれ、どうしたんだろう?

 うーん、心なしか顔が赤いような?
 しかも視線があちこちいったりきたり、わたしを見ないように彷徨さまよいだしたし?

「どうしたんですか、ライオネル? なんだか挙動不審ですけど?」

 わたしが尋ねると、

「う、うん……その、クレアの服がね?」

 割とはっきりと話すライオネルにしては珍しく、なんともあやふやな言葉が返ってくる。

「わたしの服ですか……?」

 ライオネルに言われたわたしは、きょとんとしながら自分の服を確認してみた。

 湖にドボンしてびしょ濡れだったわたしは、当然服も濡れている。

 びしょ濡れだけど、夏なので寒いってことはない。
 パンツまでぐっしょり濡れちゃったから、ちょっと気持ち悪いけどね。

 ううっ、できればパンツ絞りたいなぁ……さすがにライオネルの前で、そんなはしたない真似はできないけれど。

 だってパンツ脱いだら、ノーパンになっちゃうし。

 ライオネルもノーパンでパンツを絞るアホなわたしをみて、ドン引きするに違いない。
 百年の恋も冷めちゃうよ。

 ノーパンが原因で婚約破棄になんてなっちゃったら、末代までの恥だ。
 ノーパンのクレアとか言われちゃうんだ。

 とまぁね?

 そんな風に上から下までびしょ濡れだったわたしは、半そでの薄手のブラウスが濡れ透けしてしまっていて。
 つまり、下着が完全に見えちゃってたんだ。

 数日前、リリーナさんと街に買い物に行って購入した、おニューのブラジャーだ。

 明るいライムグリーンがすごくおしゃれで、フリルとか細かいところまで可愛くて、すぐに一番のお気に入りになったんだ。

 それが濡れてスケスケのブラウスを通して、バッチリ見えてしまっていた。

 そっか。
 ライオネルがわたしを見ないようにしていたのは、このせいだったんだね。

 うんうん、そういうことね。
 納得なっとく。

 見ないようにしてくれるなんて、ライオネルはほんと紳士だよね――って、そうじゃなくて!?

「ふぇぇぇっっ!?」

 わたしはあわてて両腕を抱いて、見えちゃってる下着を隠した。

「ご、ごめん……なるべく見ないようにするから」

「は、はい……」

 とはいえ、ここは狭いボートの中。
 どうしてもわたしの姿は、ライオネルの視界に入ってしまうわけで。

「早く帰って、温かいお風呂に入らないとね。風邪をひいちゃうかもしれないし」

「そ、そうですよね……お風呂入らないとですよね」

 わたしとライオネルは、ボートを下りてコテージに帰るまで、ギクシャクとした会話を続けたのだった。
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