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第32話 聖女、散策デートする。
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リリーナさんに晩ご飯の準備をお任せした後。
わたしとライオネルは、湖のほとりを散策デートすることにした。
「風がとっても気持いいです~」
涼やかな風が、わたしの頬を何度もなでてゆく。
もう夏だっていうのに、不思議とすごく爽やかな風だった。
「大きな湖で空気が冷やされるから、この辺りは夏でも涼しい風が吹くんだ。それで避暑地として有名なんだ」
ライオネルが説明をしてくれる。
「そうだったんですね。納得です。ほんと気持ちいいですー」
「ここはボクが昔から何度も来てる、大のお気に入りの場所でね。だからクレアが気に入ってくれてよかったよ」
「はい、本当に素敵なところで、わたしここ、大好きです!」
「まぁ夏に涼しい分だけ、冬は寒いんだけどね。雪がガッツリ積もってね」
「あはは、それは仕方ないかもです」
「あれは7年くらい前だったかな。真冬に父と兄2人に連れられて寒中行軍の訓練をした時は、本気で死ぬかと思ったよ」
ライオネルが遠い目をしてしみじみと言った。
「そ、それはたいへんでしたね……あ、ウサギさんだ!」
楽しく会話をしながら歩くわたしとライオネルの目の前を、ウサギが1匹ピョンピョンと走って横切っていった。
「ここは山も近いから動物も多いんだ。大型の危ないのはいないけど、運がよければ鹿やキツネも見られるよ」
「鹿もいるんですね、出てくるといいなぁ」
わたしとライオネルはしばらく湖畔を散策をしてから、次にボートに乗ることにした。
向かい合わせに座って、ライオネルがボートを漕ぐ。
ボートは湖をすいすいと進んでいった。
まるで手足を扱うみたいに、自由自在にボートを操るライオネルを見て、
「ライオネルはボートを漕ぐのも、得意なんですね」
わたしは感心しながら言った。
すると、
「ブリスタニアは水辺が多いから、ボート遊びが盛んなんだ。ボクも子供の頃に父からスパルタで叩きこまれてね」
ライオネルからは、そんな答えが返ってくる。
「えっとその、それはちょっと、大変そうですね?」
あのムキムキ王さまのスパルタとか、考えるだけでおそろしいよ。
わたしなら、絶対に逃げ出す自信と確信があるね。
「でもそのおかげで今、クレアをこうやってエスコートできるんだ。そういう意味ではよかったかな?」
ライオネルはどこまでも前向きだ。
そういうところも、とっても素敵なのだった。
「それにしてもすごく綺麗な湖ですね。水が澄んでいて、底まで見えちゃってます」
「ここはブリスタニアで一番澄んだ湖だからね。条件にもよるけど、最大で20メートル底まで、見えるそうだよ?」
「すごいです……でもほんと綺麗……」
わたしはうっとりと、透き通るような湖を眺めていた。
すると、
「でもクレアのほうが、もっと綺麗だよ」
ライオネルが唐突にそんなことを言った。
「ふぇ……?」
あまりに突然すぎたので、わたしはアホな声で返事をしてしまう。
「……」
そんなわたしの反応を見て、ライオネルがすごく気まずそうな顔をした。
「いえその、もちろん、ライオネルにそう言われると嬉しいんですけれど。でもあの、なんて言いますか……」
ライオネルが気分を悪くしちゃったかなって思って、慌ててフォローをするわたしだったんだけど、
「ボクらしくなかったかな?」
ライオネルは、どうも思い当たる節があるみたいだった。
「は、はい、そんな感じだったんです! それでビックリしちゃって!」
「すまない、クレア。実は姉さんから、参考にしなさいって言われてロマンス小説を借りたんだ。その中にあった、王子のセリフを真似してみたんだけど……、うん、ボクにはちょっと似合わなかったかな」
「そ、そんなことありません! わたし、すっごく嬉しかったですもん!」
ただちょっとだけ、意外だっただけなのだ。
なによりライオネルはわたしのために、らしくないと自分でも思うセリフを言ってくれたんだもん。
そんな優しいライオネルの心づかいを無下にするなんて、そんなのわたしが嫌だもん!
わたしは中腰になって、ライオネルがいかに素敵で、こうやっていつもわたしを幸せにしようとしてくれていることを、身振り手振り交えて説明しようとしたんだけど――、
「はわわっ!?」
慌てて立ちあがったせいで、ボートがグラグラと揺れてしまって――、
「待って、クレア! 急に立っちゃだめだ――!」
血相を変えたライオネルが、自分も立ちあがりながら、慌ててわたしに手を伸ばす。
しかし後わずかというところで、その手は空を切り――わたしは湖にドボンした。
わたしとライオネルは、湖のほとりを散策デートすることにした。
「風がとっても気持いいです~」
涼やかな風が、わたしの頬を何度もなでてゆく。
もう夏だっていうのに、不思議とすごく爽やかな風だった。
「大きな湖で空気が冷やされるから、この辺りは夏でも涼しい風が吹くんだ。それで避暑地として有名なんだ」
ライオネルが説明をしてくれる。
「そうだったんですね。納得です。ほんと気持ちいいですー」
「ここはボクが昔から何度も来てる、大のお気に入りの場所でね。だからクレアが気に入ってくれてよかったよ」
「はい、本当に素敵なところで、わたしここ、大好きです!」
「まぁ夏に涼しい分だけ、冬は寒いんだけどね。雪がガッツリ積もってね」
「あはは、それは仕方ないかもです」
「あれは7年くらい前だったかな。真冬に父と兄2人に連れられて寒中行軍の訓練をした時は、本気で死ぬかと思ったよ」
ライオネルが遠い目をしてしみじみと言った。
「そ、それはたいへんでしたね……あ、ウサギさんだ!」
楽しく会話をしながら歩くわたしとライオネルの目の前を、ウサギが1匹ピョンピョンと走って横切っていった。
「ここは山も近いから動物も多いんだ。大型の危ないのはいないけど、運がよければ鹿やキツネも見られるよ」
「鹿もいるんですね、出てくるといいなぁ」
わたしとライオネルはしばらく湖畔を散策をしてから、次にボートに乗ることにした。
向かい合わせに座って、ライオネルがボートを漕ぐ。
ボートは湖をすいすいと進んでいった。
まるで手足を扱うみたいに、自由自在にボートを操るライオネルを見て、
「ライオネルはボートを漕ぐのも、得意なんですね」
わたしは感心しながら言った。
すると、
「ブリスタニアは水辺が多いから、ボート遊びが盛んなんだ。ボクも子供の頃に父からスパルタで叩きこまれてね」
ライオネルからは、そんな答えが返ってくる。
「えっとその、それはちょっと、大変そうですね?」
あのムキムキ王さまのスパルタとか、考えるだけでおそろしいよ。
わたしなら、絶対に逃げ出す自信と確信があるね。
「でもそのおかげで今、クレアをこうやってエスコートできるんだ。そういう意味ではよかったかな?」
ライオネルはどこまでも前向きだ。
そういうところも、とっても素敵なのだった。
「それにしてもすごく綺麗な湖ですね。水が澄んでいて、底まで見えちゃってます」
「ここはブリスタニアで一番澄んだ湖だからね。条件にもよるけど、最大で20メートル底まで、見えるそうだよ?」
「すごいです……でもほんと綺麗……」
わたしはうっとりと、透き通るような湖を眺めていた。
すると、
「でもクレアのほうが、もっと綺麗だよ」
ライオネルが唐突にそんなことを言った。
「ふぇ……?」
あまりに突然すぎたので、わたしはアホな声で返事をしてしまう。
「……」
そんなわたしの反応を見て、ライオネルがすごく気まずそうな顔をした。
「いえその、もちろん、ライオネルにそう言われると嬉しいんですけれど。でもあの、なんて言いますか……」
ライオネルが気分を悪くしちゃったかなって思って、慌ててフォローをするわたしだったんだけど、
「ボクらしくなかったかな?」
ライオネルは、どうも思い当たる節があるみたいだった。
「は、はい、そんな感じだったんです! それでビックリしちゃって!」
「すまない、クレア。実は姉さんから、参考にしなさいって言われてロマンス小説を借りたんだ。その中にあった、王子のセリフを真似してみたんだけど……、うん、ボクにはちょっと似合わなかったかな」
「そ、そんなことありません! わたし、すっごく嬉しかったですもん!」
ただちょっとだけ、意外だっただけなのだ。
なによりライオネルはわたしのために、らしくないと自分でも思うセリフを言ってくれたんだもん。
そんな優しいライオネルの心づかいを無下にするなんて、そんなのわたしが嫌だもん!
わたしは中腰になって、ライオネルがいかに素敵で、こうやっていつもわたしを幸せにしようとしてくれていることを、身振り手振り交えて説明しようとしたんだけど――、
「はわわっ!?」
慌てて立ちあがったせいで、ボートがグラグラと揺れてしまって――、
「待って、クレア! 急に立っちゃだめだ――!」
血相を変えたライオネルが、自分も立ちあがりながら、慌ててわたしに手を伸ばす。
しかし後わずかというところで、その手は空を切り――わたしは湖にドボンした。
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