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第27話 ネックレス
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「――とまぁ、そういうわけなんです」
水龍さまの神通力を元に戻すためのミッションを、無事にクリアしたことを、わたしは朝一で水龍さまに報告した。
水龍さまは神通力が戻ったのを分かってたから、だからわたしが説明する前から、上手くいったのは分かってたみたいだけどね。
ライオネルとの関係が変わらなかったように、『水龍の巫女』の仕事も、今までと特には変わらない。
優しい水龍さまはわたしに理不尽な要求をすることもないし、むしろ気をつかってくれたりもする。
シェンロンで気難しい神龍さまにお仕えしていたときみたいに、まる1日ぶっつけで『奉納の舞』を踊ったりなんてことも、もちろん1回もない。
おかげでわたしの仕事は快適そのもの――というか、もはや仕事というか年上の友だちか面倒見のいい先輩と、世間話をしてる感覚だった。
それはそれで、ブリスタニアの皆さんに申し訳ない気がするんだけど。
なにせ『水龍の巫女』としてのわたしのお給金は、皆さんから集めた税金から出てるわけだし。
『ねぇねぇクレア。神通力がもどったとか、そんなどうでもいいことより、もっとイケメン王子さまとのラブい話を聞かせてよ~』
そして水龍さまは、わたしの恋バナにいたく興味があるらしく。
「どうでもいいことって……」
わたしが苦笑すると、
『だってそれはもう終わったことだもん。無事に解決、万事オッケー。でもクレアがイケメン王子さまの婚約者になって、大変なのはこれからなわけでしょ?』
水龍さまは、すごく親身な感じでそう言ってくれたんだ。
「た、たしかに……」
『例えばほら、貴族たちの血で血を洗う権力闘争に、クレアが巻き込まれちゃったりするんだよ! 高い塔の窓際に追い詰められたクレア! そんなクレアの大ピンチに、颯爽と助けに現れたイケメン王子さま! お前たち、ボクのクレアに手を出すな! ってね! きゃー!!』
水龍さまはニャハー!とかヒャー!とか大きな声で、楽しそうにキャーキャー言っている。
もはやハシが転がっても笑う、10代女子のノリだった。
「あはは、そういうのはあまり無さそうです。王さまをはじめ、王族の人たちはみんな仲がいい上に、皆さんそろって、貴族の方や国民からも人望があるみたいで」
贅沢することと、自分たちの派閥を大きくすることに明け暮れてたシェンロンの貴族たちとは、大違いだ。
風通しがよくて、より良い国にしていくためにみんなが一致団結してる感じ。
だから、すごく居心地がいいんだ。
『そうなんだー。でも王子さまの婚約者になったら、クレアはここにはあまり来れなくなるよねー。それはちょっと残念かも?』
「それこそまさかです。わたしは『水龍の巫女』ですから、水龍さまには毎日会いに来ますもん。当然ですよ」
『あはは、前にも言ったけど毎日はいいよ? クレアも大変だろうし。私、暇なときは寝てるから、そんなうるさくいうつもりはないしー』
「ですが先代の『水龍の巫女』がいなくなってから、水龍さまは何年もお一人で過ごされてました。きっとさみしかったと思うんです。だからわたしは毎日来て、水龍さまに楽しんでもらいたいなって思います」
『ううっ、クレアは本当にいい子だねぇ……うんうん、じゃあ無理のない程度にお願いするねー』
「お任せください!」
『うんうん。じゃあ、そんな偉いクレアには、これをあげるよ』
水龍さまがそう言うと、わたしの手の中に、何か小さくて硬いものが出現した。
見ると、
「ネックレスですか? 宝石がすごく綺麗です……って、もしかして、ダイヤモンド……!?」
小さいけれどキラキラ透明に輝く――だけどうっすらと水色がかったようにも見える――それはとてもとても綺麗な宝石がついた、ネックレスだった。
『クレアの婚約祝いねー』
「こ、こんなすごいものいただけません!」
『いいからいいからー』
「で、ですが――」
ただでさえ水龍さまには良くしてもらってるのに、こんなものまでもらってしまったら、もはや『水龍の巫女』じゃなく『水龍のヒモ』だよ……。
あ、ヒモっていうのは、貴族でもないのに働かずに誰かに養ってもらう、特別な職業のことね。
私も良くは知らないんだけど、世の中にはそういうのがあるんだって。
不思議だよね。
『ちなみに! ダイヤの中には、わたしの力を入れておいたんだ。もしピンチになった時は使ってね。ブワーってすごいことが起こるから。ちなみに何が起こるかは、その時のお楽しみだよー』
「えええええっ!?」
だってそんな、水龍さまの力が込められた宝石とか、下手したら国宝級じゃない!?
王家に先祖代々受け継がれていっちゃうヤツだよ!?
『クレアはおどろく顔も可愛いねー。じゃあま、そういうことで。あ、拒否は認めませんので。これは水龍である私から『水龍の巫女』クレアへの、命令ですからー』
水龍さまがいたずらっぽく笑いながら、そう言った。
ここまで言われてしまったら、もはや拒否する方が失礼にあたるというものだ。
「水龍さま、ありがとうございます。肌身離さず身につけておきますので!」
わたしは最大限の感謝の気持ちを込めて、お礼を言った。
『お礼なんていいって、いいって。おっと、もうこんな時間だね。楽しい時間ってすぐ過ぎちゃうんだよねー。私はいつものように、そろそろお昼寝するから。クレアも帰っていいよー』
「それではお暇いたします、どうか良い夢を」
『おやすみー』
こうして。
わたしは水龍さまから、水龍さまの力が込められた国宝級のダイヤのネックレスを、受け取ったのだった。
水龍さまの神通力を元に戻すためのミッションを、無事にクリアしたことを、わたしは朝一で水龍さまに報告した。
水龍さまは神通力が戻ったのを分かってたから、だからわたしが説明する前から、上手くいったのは分かってたみたいだけどね。
ライオネルとの関係が変わらなかったように、『水龍の巫女』の仕事も、今までと特には変わらない。
優しい水龍さまはわたしに理不尽な要求をすることもないし、むしろ気をつかってくれたりもする。
シェンロンで気難しい神龍さまにお仕えしていたときみたいに、まる1日ぶっつけで『奉納の舞』を踊ったりなんてことも、もちろん1回もない。
おかげでわたしの仕事は快適そのもの――というか、もはや仕事というか年上の友だちか面倒見のいい先輩と、世間話をしてる感覚だった。
それはそれで、ブリスタニアの皆さんに申し訳ない気がするんだけど。
なにせ『水龍の巫女』としてのわたしのお給金は、皆さんから集めた税金から出てるわけだし。
『ねぇねぇクレア。神通力がもどったとか、そんなどうでもいいことより、もっとイケメン王子さまとのラブい話を聞かせてよ~』
そして水龍さまは、わたしの恋バナにいたく興味があるらしく。
「どうでもいいことって……」
わたしが苦笑すると、
『だってそれはもう終わったことだもん。無事に解決、万事オッケー。でもクレアがイケメン王子さまの婚約者になって、大変なのはこれからなわけでしょ?』
水龍さまは、すごく親身な感じでそう言ってくれたんだ。
「た、たしかに……」
『例えばほら、貴族たちの血で血を洗う権力闘争に、クレアが巻き込まれちゃったりするんだよ! 高い塔の窓際に追い詰められたクレア! そんなクレアの大ピンチに、颯爽と助けに現れたイケメン王子さま! お前たち、ボクのクレアに手を出すな! ってね! きゃー!!』
水龍さまはニャハー!とかヒャー!とか大きな声で、楽しそうにキャーキャー言っている。
もはやハシが転がっても笑う、10代女子のノリだった。
「あはは、そういうのはあまり無さそうです。王さまをはじめ、王族の人たちはみんな仲がいい上に、皆さんそろって、貴族の方や国民からも人望があるみたいで」
贅沢することと、自分たちの派閥を大きくすることに明け暮れてたシェンロンの貴族たちとは、大違いだ。
風通しがよくて、より良い国にしていくためにみんなが一致団結してる感じ。
だから、すごく居心地がいいんだ。
『そうなんだー。でも王子さまの婚約者になったら、クレアはここにはあまり来れなくなるよねー。それはちょっと残念かも?』
「それこそまさかです。わたしは『水龍の巫女』ですから、水龍さまには毎日会いに来ますもん。当然ですよ」
『あはは、前にも言ったけど毎日はいいよ? クレアも大変だろうし。私、暇なときは寝てるから、そんなうるさくいうつもりはないしー』
「ですが先代の『水龍の巫女』がいなくなってから、水龍さまは何年もお一人で過ごされてました。きっとさみしかったと思うんです。だからわたしは毎日来て、水龍さまに楽しんでもらいたいなって思います」
『ううっ、クレアは本当にいい子だねぇ……うんうん、じゃあ無理のない程度にお願いするねー』
「お任せください!」
『うんうん。じゃあ、そんな偉いクレアには、これをあげるよ』
水龍さまがそう言うと、わたしの手の中に、何か小さくて硬いものが出現した。
見ると、
「ネックレスですか? 宝石がすごく綺麗です……って、もしかして、ダイヤモンド……!?」
小さいけれどキラキラ透明に輝く――だけどうっすらと水色がかったようにも見える――それはとてもとても綺麗な宝石がついた、ネックレスだった。
『クレアの婚約祝いねー』
「こ、こんなすごいものいただけません!」
『いいからいいからー』
「で、ですが――」
ただでさえ水龍さまには良くしてもらってるのに、こんなものまでもらってしまったら、もはや『水龍の巫女』じゃなく『水龍のヒモ』だよ……。
あ、ヒモっていうのは、貴族でもないのに働かずに誰かに養ってもらう、特別な職業のことね。
私も良くは知らないんだけど、世の中にはそういうのがあるんだって。
不思議だよね。
『ちなみに! ダイヤの中には、わたしの力を入れておいたんだ。もしピンチになった時は使ってね。ブワーってすごいことが起こるから。ちなみに何が起こるかは、その時のお楽しみだよー』
「えええええっ!?」
だってそんな、水龍さまの力が込められた宝石とか、下手したら国宝級じゃない!?
王家に先祖代々受け継がれていっちゃうヤツだよ!?
『クレアはおどろく顔も可愛いねー。じゃあま、そういうことで。あ、拒否は認めませんので。これは水龍である私から『水龍の巫女』クレアへの、命令ですからー』
水龍さまがいたずらっぽく笑いながら、そう言った。
ここまで言われてしまったら、もはや拒否する方が失礼にあたるというものだ。
「水龍さま、ありがとうございます。肌身離さず身につけておきますので!」
わたしは最大限の感謝の気持ちを込めて、お礼を言った。
『お礼なんていいって、いいって。おっと、もうこんな時間だね。楽しい時間ってすぐ過ぎちゃうんだよねー。私はいつものように、そろそろお昼寝するから。クレアも帰っていいよー』
「それではお暇いたします、どうか良い夢を」
『おやすみー』
こうして。
わたしは水龍さまから、水龍さまの力が込められた国宝級のダイヤのネックレスを、受け取ったのだった。
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