上 下
16 / 64

第16話 聖女、責任問題?

しおりを挟む
 翌朝。

「ふぁ~~、よく寝た~~」

 とてもぐっすり眠ったわたしは、窓の外から聞こえる小鳥のチュンチュンな鳴き声で、パッチリと目を覚ました。

 うーん、爽快ソーカイ!
 これだけ気持ちよく寝たのって、いつ以来だろ?

 なにせシェンロンの王宮にいた時は、朝から晩まで時間に追われるように、巫女の仕事をこなしてたからね。
 全体的に睡眠時間が足りてなくて、朝は気合で眠気を吹っ飛ばすみたいなことが多かったのだ。

 それもこれも、バーバラがちっとも仕事しなくて、わたしが2人分の仕事をやってたからだけど!
 
 そして起きてすぐに、わたしは現状を思いだした。
 なんとわたしはいまだに、上半身裸のライオネルに抱きしめられていたんだ!

 さすが王子様、眠っている顔もイケメンだなぁ……。
 はふぅ、幸せ……。

 ぐっすり眠れたのは、もしかしなくてもこのおかげかな?
 なんちゃって!

 などとアホなことを考えていると、ライオネルが目を覚ました。

「あれ、クレア……? おはよう……。……なんでボクは、君のことを抱きしめてるんだ……? えっと、昨日の夜……って、ご、ごめん!」

 大きく目を見開いたライオネルが、わたしから手を離して掛け布団をはねのけた!
 そのままガバッと勢いよく起き上がる。

「その、本当に申し訳ない! これは誓って、よこしまな気持ちがあったわけじゃないんだ! 寝ている間に、まったくの無意識で抱きしめてしまって! わざとじゃなくて! いいや、言い訳なんて男らしくないな、本当にごめん! この通りだ!」 

 ライオネルが地面と平行になるくらい、思いっきり頭を下げた。
 すごく慌ててるのが、なんだかちょっとおかしかった。

「おはようございます、ライオネル。えっと、まずは顔をあげてください」
「いいや、許してもらえるまではあげないよ」

「できればライオネルとは顔を見てお話したいなって、思うんですけど」

 わたしは昨日、平謝りした時にライオネルに言われたセリフを、そっくりそのまま言ってみた。
 ライオネルにもその意図は伝わったみたいだ。

「そうか、うん、それもそうだな……」

 ライオネルが顔をあげた。
 その顔は、申し訳ないって気持ちでいっぱいだった。

 王子様なのに、偉そうなところが全然なくて誠実な人だなぁ……。

「まず、わざとじゃないのはわかってますので、ご安心ください。ライオネルは、そんなことをする人じゃないですし」

 わたしが笑顔でそう言うと、

「そ、そうか!」
 ライオネルは、ホッと安心した顔をした。

「だから許すとか許さないとか、それ以前の問題です。たんなるアクシデントですもん」

「そう言ってくれると助かるよ、クレア」

「いえいえお構いなく」
 それにどっちかって言うと、役得だったのはむしろわたしの方だし。
 むふっ。

 そんなわたしを見てライオネルが言った。

「クレア、こうなった以上は責任をとるよ」
「はい? 責任ですか……?」

「許してくれたとはいえ、事実は事実だから」
「はぁ……」

 急になんの話をしてるんだろう?

「クレア、ボクのきさきになってくれないかい?」

「えっと、きさきって、王族の妻のことですよね? 妻……? つま? ツマ!? わたしがライオネルの!? うええぇぇっ!?」

 わたしは思わずアホな声をあげてしまった。

「若い女性を抱いて一夜を共にしたんだ。男としてちゃんと責任をとるよ」

「あはは、またまたご冗談を……」
 一夜を共にしたって言っても、抱きしめられただけだし。

「いいや、ボクこんな大切なことで冗談は言わないよ」

 最初は冗談かと思ったんだけど、ライオネルの顔はマジだった。
 マジのマジ、マジまんじだった。

 ってことは、ここまでの話を整理すると……わたしが王族になっちゃうってこと!?
 しかもイケメン王子さまのライオネルが、わたしの夫!?

「ふええええええぇぇぇぇぇぇぇっっっ!!??」
 わたしはもう一回、すっとんきょうな声をあげちゃったんだけど、

「受けてくれるかな?」
 ライオネルは真剣な顔のままだった。

 こ、これっていわゆる、「玉の輿こし」ってやつだよね!?

 女の子の理想を具現化したような、求められる要素を全て高い水準で満たしたライオネルだ。
 そんなライオネルに、もちろん庶民のわたしなんぞが文句があろうはずがない。

 だからわたしは――、

「申し訳ありませんが、お受けできません」

 はっきりとお断りした。

「理由を聞かせてもらってもいいだろうか?」

 ライオネルが、すこし悲しそうに言った。

「だってこういうのは、お互いの気持ちがなにより大事ですから」

 ライオネルは素敵な男の人だ。
 ムリヤリわたしみたいなちんくちりんと結婚して責任をとらせるなんて、そんなこと絶対にしたくないもんね。

 だからわたしは、涙をんでお断りしたのだ……(´;ω;`)ウゥゥ。

「そうか、そうだね……。すまなかった、忘れてくれ。クレアの気持ちも考えずに、こんなことを言ってしまって、ボクはバカだな」

「……? ええ、はい……?」

 えっと、わたしの気持ち……?
 ライオネルのじゃなくて?

 あ、言い間違えたのかな?
 寝起きだから、まだ頭が回ってないのかも。

 でもイチイチ指摘をしたりはしない、優しいわたしなのだった。

 ライオネルはすごく良くしてくれたんだもん、あげ足とりなんかぜったいにしないんだもんねー。
しおりを挟む
感想 133

あなたにおすすめの小説

ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!

沙寺絃
恋愛
ルイン王国の神殿で働く聖女アリーシャは、早朝から深夜まで一人で激務をこなしていた。 それなのに聖女の力を理解しない王太子コリンから理不尽に追放を言い渡されてしまう。 失意のアリーシャを迎えに来たのは、隣国アストラ帝国からの使者だった。 アリーシャはポーション作りの才能を買われ、アストラ帝国に招かれて病に臥せった皇帝を助ける。 帝国の皇子は感謝して、アリーシャに深い愛情と敬意を示すようになる。 そして帝国の皇子は十年前にアリーシャと出会った事のある初恋の男の子だった。 再会に胸を弾ませるアリーシャ。しかし、衝撃の事実が発覚する。 なんと、皇子は三つ子だった! アリーシャの幼馴染の男の子も、三人の皇子が入れ替わって接していたと判明。 しかも病から復活した皇帝は、アリーシャを皇子の妃に迎えると言い出す。アリーシャと結婚した皇子に、次の皇帝の座を譲ると宣言した。 アリーシャは個性的な三つ子の皇子に愛されながら、誰と結婚するか決める事になってしまう。 一方、アリーシャを追放したルイン王国では暗雲が立ち込め始めていた……。

孤島送りになった聖女は、新生活を楽しみます

天宮有
恋愛
 聖女の私ミレッサは、アールド国を聖女の力で平和にしていた。  それなのに国王は、平和なのは私が人々を生贄に力をつけているからと罪を捏造する。  公爵令嬢リノスを新しい聖女にしたいようで、私は孤島送りとなってしまう。  島から出られない呪いを受けてから、転移魔法で私は孤島に飛ばさていた。  その後――孤島で新しい生活を楽しんでいると、アールド国の惨状を知る。  私の罪が捏造だと判明して国王は苦しんでいるようだけど、戻る気はなかった。

王子として育てられた私は、隣国の王子様に女だとバレてなぜか溺愛されています

八重
恋愛
リオは女しか生まれない呪いをかけられた王族の生まれで、慣習通り「王子」として育てられた。 そして17歳になったリオは隣国との外交担当に任ぜられる。 しかし、外交公務で向かった隣国にて、その国の第一王子フィルに女であることがバレてしまう。 リオはフィルがまわりに秘密をばらさないか心配になり、しょっちゅうフィルのもとに通う。 フィルはそんなリオを冷たくあしらうが、ある日フィルはリオを押し倒す。 「男を甘く見るな」 急な恋愛展開をきっかけに、二人は急接近して……。

お堅い公爵様に求婚されたら、溺愛生活が始まりました

群青みどり
恋愛
 国に死ぬまで搾取される聖女になるのが嫌で実力を隠していたアイリスは、周囲から無能だと虐げられてきた。  どれだけ酷い目に遭おうが強い精神力で乗り越えてきたアイリスの安らぎの時間は、若き公爵のセピアが神殿に訪れた時だった。  そんなある日、セピアが敵と対峙した時にたまたま近くにいたアイリスは巻き込まれて怪我を負い、気絶してしまう。目が覚めると、顔に傷痕が残ってしまったということで、セピアと婚約を結ばれていた! 「どうか怪我を負わせた責任をとって君と結婚させてほしい」  こんな怪我、聖女の力ですぐ治せるけれど……本物の聖女だとバレたくない!  このまま正体バレして国に搾取される人生を送るか、他の方法を探して婚約破棄をするか。  婚約破棄に向けて悩むアイリスだったが、罪悪感から求婚してきたはずのセピアの溺愛っぷりがすごくて⁉︎ 「ずっと、どうやってこの神殿から君を攫おうかと考えていた」  麗しの公爵様は、今日も聖女にしか見せない笑顔を浮かべる── ※タイトル変更しました

運命に勝てない当て馬令嬢の幕引き。

ぽんぽこ狸
恋愛
 気高き公爵家令嬢オリヴィアの護衛騎士であるテオは、ある日、主に天啓を受けたと打ち明けられた。  その内容は運命の女神の聖女として召喚されたマイという少女と、オリヴィアの婚約者であるカルステンをめぐって死闘を繰り広げ命を失うというものだったらしい。  だからこそ、オリヴィアはもう何も望まない。テオは立場を失うオリヴィアの事は忘れて、自らの道を歩むようにと言われてしまう。  しかし、そんなことは出来るはずもなく、テオも将来の王妃をめぐる運命の争いの中に巻き込まれていくのだった。  五万文字いかない程度のお話です。さくっと終わりますので読者様の暇つぶしになればと思います。

国外追放を受けた聖女ですが、戻ってくるよう懇願されるけどイケメンの国王陛下に愛されてるので拒否します!!

真時ぴえこ
恋愛
「ルーミア、そなたとの婚約は破棄する!出ていけっ今すぐにだ!」  皇太子アレン殿下はそうおっしゃられました。  ならよいでしょう、聖女を捨てるというなら「どうなっても」知りませんからね??  国外追放を受けた聖女の私、ルーミアはイケメンでちょっとツンデレな国王陛下に愛されちゃう・・・♡

聖女召喚に巻き込まれた挙句、ハズレの方と蔑まれていた私が隣国の過保護な王子に溺愛されている件

バナナマヨネーズ
恋愛
聖女召喚に巻き込まれた志乃は、召喚に巻き込まれたハズレの方と言われ、酷い扱いを受けることになる。 そんな中、隣国の第三王子であるジークリンデが志乃を保護することに。 志乃を保護したジークリンデは、地面が泥濘んでいると言っては、志乃を抱き上げ、用意した食事が熱ければ火傷をしないようにと息を吹きかけて冷ましてくれるほど過保護だった。 そんな過保護すぎるジークリンデの行動に志乃は戸惑うばかり。 「私は子供じゃないからそんなことしなくてもいいから!」 「いや、シノはこんなに小さいじゃないか。だから、俺は君を命を懸けて守るから」 「お…重い……」 「ん?ああ、ごめんな。その荷物は俺が持とう」 「これくらい大丈夫だし、重いってそういうことじゃ……。はぁ……」 過保護にされたくない志乃と過保護にしたいジークリンデ。 二人は共に過ごすうちに知ることになる。その人がお互いの運命の人なのだと。 全31話

「次点の聖女」

手嶋ゆき
恋愛
 何でもかんでも中途半端。万年二番手。どんなに努力しても一位には決してなれない存在。  私は「次点の聖女」と呼ばれていた。  約一万文字強で完結します。  小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...