上 下
9 / 64

第9話 聖女、謁見する。

しおりを挟む
 ライオネルに連れられたわたしが、謁見えっけんの間に行くと。

 すぐに、

「王様のおな~り~~!」
 大きなドラがバイーン!ってならされて、ブリスタニア王がやってきた。

 そして、
「ひ、ひぃぃぃっっっ……!」

 王さまを見たわたしは、思わず情けない悲鳴を上げた。

 というのも、

「そなたがクレア殿か」

 よく通る声でそう言った王さまは、筋骨リューリューでムキムキの筋肉マンだったからだ。

 ライオネル(23歳だって言ってた!)のお父さんだから、もう50歳くらいだろうに、まるで30代みたいに若々しくて、そしてガチムチだった。

 リアル筋肉の鎧を着てらっしゃった。

 歩く時も大またで、ノシノシ!って感じ。

 しかもね、顔が怖いの。
 すごく怖いの。

 ほっぺには古い刀傷まであるんだもん。

 加えて目がやばかった。
 ぜったいこれ、今から人を殺す肉食動物の目だよ……ふえぇぇっ、わたし殺されちゃうの!?

 冒険物語に出てくる「砂漠の傭兵王」とか、「歴戦れきせん猛勇もうゆう」ってこんな顔してるのかなぁ……。

 そして腰には剣をさしている。

 王宮でよく使われている、きれいな細工のされた、見栄え重視の儀礼用の剣じゃあない。
 実戦で使うための、シンプルでガチな剣だった。

 きっと気に入らない返事をした相手は、あれで容赦なく斬り殺すんだ……。

 ブリスタニア王ににらみつけられて、わたしの覚悟はとっくに秒で吹き飛んでいた。

 だってわたし、へっぽこでヘタレなんだもん……。
 わたしは内心ブルブルと震えていた。

 うう……っ!
 優しい人だって言ってたのに、どこがよ!?

 キングウルフだってこんなに怖くなかったよ!?

 ライオネルの嘘つき!

 ――なんて思ってたら、

「話はすでに息子――ライオネルから聞いておる。クレア殿、すでに我々は打つ手を失っておる。こたびのこと、どうかクレア殿によろしく頼みたい。神龍国家シェンロンで『神龍の巫女』を長年務め、聖女とまで言われたその手腕で、どうかブリスタニアを救ってほしい」

 ブリスタニア王はそう言うと、わたしに向かって深々と頭を下げたんだ――!

「うえぇっっ!?」

 ブリスタニア王の突然の行為に、わたしはアホな声をあげてしまった。

 だって、だってだって!

 王様が庶民に対して頭を下げるなんて、信じられないよ!?

 だって王様っていうのは、一番偉い人なんだよ?
 で、庶民は庶民なんだよ?
 ぜんぜんちっとも偉くないんだよ?

 なのに頭を下げるなんて――。

 うん、やっぱり――やっぱりブリスタニア王は、ライオネルのお父さんなんだね。

 わたしはそれがよくわかった。

 ちょっと――ごめん、ちょっとじゃないや――かなり外見が怖いでだけで、心の中は優しい王さまなんだ。

 なにより、今までわたしは、誰かからこんなに期待されたことは一度もなかった。
 しかも相手はなんと、この国の王様、一番偉い人なんだ。

 ここまで期待されたら、頑張らなくちゃだよねっ!(。>д<)

「わかりました王様、すぐに取りかかります!」

 だからわたしは、強い決意でお返事したんだ。
 すると、

「まことかクレア殿! ありがたい! では必要なものがあれば、ライオネルに言うがよい。できる限り用意しよう」

 ブリスタニア王はそう言って、もう一度深々と私に頭を下げてから、謁見えっけんの間から退出していった。

「ふぅ……」

 わたしは緊張感から解放されて、一安心。
 ちいさく息をいた。

「だから緊張しなくていいって、言ったでしょ?」
 ライオネルが言ってくるけど、

「だって、すごく顔が怖かったんだもん! 筋肉もムキムキだし!」
「ああ、父の趣味は筋トレなんだ」

「しゅ、趣味が筋トレ……? で、でも目を細めてずっとわたしをにらんでて……」

「あれは単に近眼だからさ。目を細めないと、相手の顔がよく見えないんだ」

「ふえええぇぇっ!? なにそれ!?」

「まったく、メガネをすればいいだけなのにね。メガネは陰キャに見えるからイヤだって、駄々をこねるんだから」

「ぽかーん……(*'▽')」
 王様の秘密を知らされて、わたしは開いた口がふさがらなかった。

「さ。とりあえず、謁見えっけんも済んだことだし……そうだね、今日はもう夜も近いから、仕事は明日からするとして。まずは君の部屋に案内するよ」

 ライオネルはそう言って、わたしを王宮の一室に案内してくれた。
しおりを挟む
感想 133

あなたにおすすめの小説

ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!

沙寺絃
恋愛
ルイン王国の神殿で働く聖女アリーシャは、早朝から深夜まで一人で激務をこなしていた。 それなのに聖女の力を理解しない王太子コリンから理不尽に追放を言い渡されてしまう。 失意のアリーシャを迎えに来たのは、隣国アストラ帝国からの使者だった。 アリーシャはポーション作りの才能を買われ、アストラ帝国に招かれて病に臥せった皇帝を助ける。 帝国の皇子は感謝して、アリーシャに深い愛情と敬意を示すようになる。 そして帝国の皇子は十年前にアリーシャと出会った事のある初恋の男の子だった。 再会に胸を弾ませるアリーシャ。しかし、衝撃の事実が発覚する。 なんと、皇子は三つ子だった! アリーシャの幼馴染の男の子も、三人の皇子が入れ替わって接していたと判明。 しかも病から復活した皇帝は、アリーシャを皇子の妃に迎えると言い出す。アリーシャと結婚した皇子に、次の皇帝の座を譲ると宣言した。 アリーシャは個性的な三つ子の皇子に愛されながら、誰と結婚するか決める事になってしまう。 一方、アリーシャを追放したルイン王国では暗雲が立ち込め始めていた……。

孤島送りになった聖女は、新生活を楽しみます

天宮有
恋愛
 聖女の私ミレッサは、アールド国を聖女の力で平和にしていた。  それなのに国王は、平和なのは私が人々を生贄に力をつけているからと罪を捏造する。  公爵令嬢リノスを新しい聖女にしたいようで、私は孤島送りとなってしまう。  島から出られない呪いを受けてから、転移魔法で私は孤島に飛ばさていた。  その後――孤島で新しい生活を楽しんでいると、アールド国の惨状を知る。  私の罪が捏造だと判明して国王は苦しんでいるようだけど、戻る気はなかった。

お堅い公爵様に求婚されたら、溺愛生活が始まりました

群青みどり
恋愛
 国に死ぬまで搾取される聖女になるのが嫌で実力を隠していたアイリスは、周囲から無能だと虐げられてきた。  どれだけ酷い目に遭おうが強い精神力で乗り越えてきたアイリスの安らぎの時間は、若き公爵のセピアが神殿に訪れた時だった。  そんなある日、セピアが敵と対峙した時にたまたま近くにいたアイリスは巻き込まれて怪我を負い、気絶してしまう。目が覚めると、顔に傷痕が残ってしまったということで、セピアと婚約を結ばれていた! 「どうか怪我を負わせた責任をとって君と結婚させてほしい」  こんな怪我、聖女の力ですぐ治せるけれど……本物の聖女だとバレたくない!  このまま正体バレして国に搾取される人生を送るか、他の方法を探して婚約破棄をするか。  婚約破棄に向けて悩むアイリスだったが、罪悪感から求婚してきたはずのセピアの溺愛っぷりがすごくて⁉︎ 「ずっと、どうやってこの神殿から君を攫おうかと考えていた」  麗しの公爵様は、今日も聖女にしか見せない笑顔を浮かべる── ※タイトル変更しました

【完結】私を虐げる姉が今の婚約者はいらないと押し付けてきましたが、とても優しい殿方で幸せです 〜それはそれとして、家族に復讐はします〜

ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
侯爵家の令嬢であるシエルは、愛人との間に生まれたせいで、父や義母、異母姉妹から酷い仕打ちをされる生活を送っていた。 そんなシエルには婚約者がいた。まるで本物の兄のように仲良くしていたが、ある日突然彼は亡くなってしまった。 悲しみに暮れるシエル。そこに姉のアイシャがやってきて、とんでもない発言をした。 「ワタクシ、とある殿方と真実の愛に目覚めましたの。だから、今ワタクシが婚約している殿方との結婚を、あなたに代わりに受けさせてあげますわ」 こうしてシエルは、必死の抗議も虚しく、身勝手な理由で、新しい婚約者の元に向かうこととなった……横暴で散々虐げてきた家族に、復讐を誓いながら。 新しい婚約者は、社交界でとても恐れられている相手。うまくやっていけるのかと不安に思っていたが、なぜかとても溺愛されはじめて……!? ⭐︎全三十九話、すでに完結まで予約投稿済みです。11/12 HOTランキング一位ありがとうございます!⭐︎

聖女召喚に巻き込まれた挙句、ハズレの方と蔑まれていた私が隣国の過保護な王子に溺愛されている件

バナナマヨネーズ
恋愛
聖女召喚に巻き込まれた志乃は、召喚に巻き込まれたハズレの方と言われ、酷い扱いを受けることになる。 そんな中、隣国の第三王子であるジークリンデが志乃を保護することに。 志乃を保護したジークリンデは、地面が泥濘んでいると言っては、志乃を抱き上げ、用意した食事が熱ければ火傷をしないようにと息を吹きかけて冷ましてくれるほど過保護だった。 そんな過保護すぎるジークリンデの行動に志乃は戸惑うばかり。 「私は子供じゃないからそんなことしなくてもいいから!」 「いや、シノはこんなに小さいじゃないか。だから、俺は君を命を懸けて守るから」 「お…重い……」 「ん?ああ、ごめんな。その荷物は俺が持とう」 「これくらい大丈夫だし、重いってそういうことじゃ……。はぁ……」 過保護にされたくない志乃と過保護にしたいジークリンデ。 二人は共に過ごすうちに知ることになる。その人がお互いの運命の人なのだと。 全31話

運命に勝てない当て馬令嬢の幕引き。

ぽんぽこ狸
恋愛
 気高き公爵家令嬢オリヴィアの護衛騎士であるテオは、ある日、主に天啓を受けたと打ち明けられた。  その内容は運命の女神の聖女として召喚されたマイという少女と、オリヴィアの婚約者であるカルステンをめぐって死闘を繰り広げ命を失うというものだったらしい。  だからこそ、オリヴィアはもう何も望まない。テオは立場を失うオリヴィアの事は忘れて、自らの道を歩むようにと言われてしまう。  しかし、そんなことは出来るはずもなく、テオも将来の王妃をめぐる運命の争いの中に巻き込まれていくのだった。  五万文字いかない程度のお話です。さくっと終わりますので読者様の暇つぶしになればと思います。

偽物と断罪された令嬢が精霊に溺愛されていたら

影茸
恋愛
 公爵令嬢マレシアは偽聖女として、一方的に断罪された。  あらゆる罪を着せられ、一切の弁明も許されずに。  けれど、断罪したもの達は知らない。  彼女は偽物であれ、無力ではなく。  ──彼女こそ真の聖女と、多くのものが認めていたことを。 (書きたいネタが出てきてしまったゆえの、衝動的短編です) (少しだけタイトル変えました)

国外追放を受けた聖女ですが、戻ってくるよう懇願されるけどイケメンの国王陛下に愛されてるので拒否します!!

真時ぴえこ
恋愛
「ルーミア、そなたとの婚約は破棄する!出ていけっ今すぐにだ!」  皇太子アレン殿下はそうおっしゃられました。  ならよいでしょう、聖女を捨てるというなら「どうなっても」知りませんからね??  国外追放を受けた聖女の私、ルーミアはイケメンでちょっとツンデレな国王陛下に愛されちゃう・・・♡

処理中です...