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第1話 聖女、リストラされる。

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 『神龍の巫女』

 神龍さまをあがめたてまつるこの国――神龍国家シェンロンには、代々そう呼ばれる乙女がいる。

 いるっていうか、何を隠そう、このわたしクレアがそうだったりする。

 神龍さまと普通の人間は会話ができないから、龍と会話することができる特別な才能を持った巫女が、お願いをしたりお話をしたりするんだ。

 お話しするって言っても、よく怒るカルシウム不足な神龍さまをなだめすかすのが、もっぱらの仕事なんだけどね。

 今日もわたしは『神龍の巫女』として、舞を奉納したり音楽を演奏しては、神龍さまのご機嫌をとっていた。

 そんな風に、国の存亡にかかわる神聖な儀式を行うので、『神龍の巫女』は聖女なんて言われたりもする。

 聖女クレア。

 むふふ……。

 わたしはこの呼び名が、結構気に入っていた。

 そんな『神龍の巫女』は、今は2人いる。
 わたしと、もう1人のバーバラだ。

 バーバラは巫女としての力は、すごく弱かった。
 っていうか多分、っていうか間違いなく、巫女としての力は持ってない。

 でもバーバラは、4大貴族であるブラスター公爵家の一人娘だったので、『神龍の巫女』に選ばれたんだ。

 ブラスター公爵は、後妻とのあいだに生まれた一人娘を溺愛してるので有名だから、そんな国の一大事にかかわる様なワガママですら、聞いてしまったんだろう。

 それが通ってしまうのが、大人の事情っていうやつだね。

 だからバーバラはぜんぜん仕事はしないし、できもしない。

 だって神龍さまとお話できないんだもん。
 『神龍の巫女』の仕事なんて、しようがないよね。

 だからいてもいなくても一緒ではあるんだけれど、でもバーバラは、まるで自分の力で神龍さまをなだめているんだって、周囲に言いふらしてたんだ。

 そして国の偉い人も、王様までも、そのことをみんな信じちゃっていた。
 
 最初の頃は、ほんとはわたしがやってるんだよって言ってたんだけど、誰も信じてはくれなった。

 まぁ名門貴族のバーバラと違って、わたしは庶民の――しかも孤児院の出だから、それも仕方ないんだけど。

 なに言ってんだこいつって言われるうちに、わたしは言うのをやめた。

 バーバラが中心で、わたしはそのサポート役。
 だからみんなは、そんな風に思ってるんだ。

 正直言うと、ちょっと悔しい。
 だってわたしの手柄を全部、バーバラに横取りされてるんだもん。

 それでも。
 「神龍の巫女バーバラのサポート役」として、そこそこ認めてもらえるのは嬉しかったし、お給金もすごく良かったから、わたしはがんばって職務をまっとうしてたんだ。

 わたしも含めて、歴代の『神龍の巫女』のがんばりもあって、『神龍災害』――神龍さまの怒りでもたらされる天変地異は、ここ100年のあいだ一度も発生していなかった。 

 こんな風に、わたしは毎日毎日、神龍の巫女としてのおしごとを頑張っていた。


 そんなある日、事件は起こった。

 その日、わたしはいつも通り神龍さまに奉納の舞をおどって、今日も今日とてカルシウム不足な神龍さまをなだめていた。

 無事に神龍さまが落ち着いてくれて、ふぅやれやれ、一安心。

 仕事を終えたわたしは、王宮にある自分の部屋に帰ろうとしたんだけど――そこにバーバラがやってきた。

 バーバラの隣には、1人の若い男が一緒にいた。

 バーバラは今日も勝手に早退してた。
 まぁ何もできないから、いてもいなくても一緒ではあるんだけどさ。

 でもせめて働いてるふりくらいは、してほしい。
 主にわたしのモチベーション的に。

 毎日毎日、怒りんぼな神龍さまのご機嫌取りするのって、すごく大変なんだからね?

「えっと、わたしに何のご用でしょうか? 仕事を終えて、今から帰るところなのですけれど……」

 わたしはへりくだって言った。

 バーバラも権力者の娘だけど、となりの男もまちがいなく上級貴族だったから。

 上級貴族の男は、庶民のわたしではとてもじゃないけど手が出せないような、高そうな衣服に身を包んでいる。
 多分わたしのお給金(庶民にしてはすごく多い)でも、1年分くらいはする服だ。

 そして時には「聖女」なんて呼ばれることもあるわたしだけど、庶民だから、こういう上下関係は大切なのだった。

 そんな上級貴族の若い男が、口を開いた。

「クレア君。君は今日でクビだ。荷物をまとめて、早々に王宮から立ち去るがいい」

 いきなりわたしは、そんなことを言われてしまったんだ――!
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