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~ノートルダムの鐘楼の上で~
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あの日、私が人生で最も恥ずかしかった瞬間。
それはノートルダム大聖堂のシンボルである鐘楼、そのてっぺんでの出来事だった。
「じゃあミク、人数制限が厳しくてみんなは行けないからミクだけ登ってきていいよ」
私は友達と一緒にパリに卒業旅行中だったんだけど、有名観光地のノートルダム大聖堂の鐘楼は入場できる人数の制限が厳しかったため、じゃんけんで勝った私だけが鐘楼の上へと登ることができたのだ。
「上からの景色は最高だよ! なんかの映画でも言ってたし」
「だから私たちの分まで楽しんで来てね」
そんな友達の言葉に乗せられ、私は鐘楼に登り始めた。
最初は上を見上げながら軽快に登っていたが、段々と足取りが重くなっていく。
(じゃんけんに買ってチャンスをゲットできたとはいえ、階段を登るのが地味にしんどいかも……)
そうは言っても私が一人だけ上まで行くことができるのだから、皆の分まで楽しまなければ申し訳が立たない。
私は長い長い階段をひたすら登って行った。
そしてひーこら言いながらとうとう鐘楼の上に到着したのだが――それまで階段を上るのに息を切らせていたことも忘れて、私は眼下に広がる広大なパリの景色を前に、感動で胸がいっぱいになっていた。
「すごい景色……! パリの全てが見渡せそう! おっとと。後でみんなに見せるための動画を撮らないと」
私はスマホを取り出すと、動画を撮影しようと両手で構えた。
その瞬間だった。
突然の突風が吹いて私のスカートが盛大に持ち上がり、あろうことかパンツが丸見えになってしまったのは――!
「ひやんっ!?」
とっさにスカートを抑えたものの、私は驚きと恥ずかしさで身動きができなくなってしまう。
周囲の観光客の笑い声が耳に響く。
恥ずかしさに顔が真っ赤になっていくのが分かる。
穴があったら入ってしまいたかった。
――と、
「大丈夫?」
そんな私に近くにいた男性が声をかけてくれた。
日本語だ。
彼は私の周りで笑っている他の観光客を威嚇するように睨むと、一転して笑顔になって私の手を取り、フランス貴族のように優しく下までエスコートしてくれたのだった。
「ありがとうございました」
お礼を言う私に、
「いいってことさ。外国じゃ日本語は通じないし、日本人同士助け合わないとね」
彼は爽やかな口調で短く言うと、柔和な笑みを浮かべたまま観光客でごった返すパリの街並へと消えていった。
「あ、しまった。名前と連絡先くらい聞いておけばよかったな……」
そのことに私が気付いたのは、彼の姿が完全に見えなくなってしまってからのことだった。
――それから数年後。
私は再びパリにいた。
外資系に就職した私は、短期出張でパリに仕事にきていたのだ。
ハードスケジュールで明日にはまた日本に帰国しないといけないのだが、それでも何とか仕事を終わらせて時間を作って、あの思い出のノートルダム大聖堂へとやってきたのだ。
おりしも今日はあの日と同じ日付け、そして同じ時刻だった。
運命に導かれるように、あの時助けてくれた彼に会えるかなと、そんな淡い期待を抱きながら私はノートルダム大聖堂の鐘楼の一番上へと上っっていった。
てっぺんまで行くと、数年ぶりの広大なパリの景色が私の目に飛び込んでくる。
「ま、会えるわけないんだけどね。パリにどれだけ人がいるんだって話だし」
自嘲するように笑いながら、
「帰ろうっと」
鐘楼を折りかけたところで、不意に突風が吹いた。
おっと、今度は好きにさせないわよ、と思いながら私はすぐにスカートを抑えて事なきを得る。
だから気付くのに遅れた――目の前にいた彼の存在に。
「あれから同じ日、同じ時間に毎年ここに来てたんだ。また君に会えるかなって思ってさ。でもいい加減、今年で最後にしようかなって思ったんだけど、敢えて良かった」
あの時の懐かしい声が聞こえてくる。
「嘘、また会えるなんて――」
ノートルダムの鐘楼の上で――私と彼は再び巡り合った。
それはノートルダム大聖堂のシンボルである鐘楼、そのてっぺんでの出来事だった。
「じゃあミク、人数制限が厳しくてみんなは行けないからミクだけ登ってきていいよ」
私は友達と一緒にパリに卒業旅行中だったんだけど、有名観光地のノートルダム大聖堂の鐘楼は入場できる人数の制限が厳しかったため、じゃんけんで勝った私だけが鐘楼の上へと登ることができたのだ。
「上からの景色は最高だよ! なんかの映画でも言ってたし」
「だから私たちの分まで楽しんで来てね」
そんな友達の言葉に乗せられ、私は鐘楼に登り始めた。
最初は上を見上げながら軽快に登っていたが、段々と足取りが重くなっていく。
(じゃんけんに買ってチャンスをゲットできたとはいえ、階段を登るのが地味にしんどいかも……)
そうは言っても私が一人だけ上まで行くことができるのだから、皆の分まで楽しまなければ申し訳が立たない。
私は長い長い階段をひたすら登って行った。
そしてひーこら言いながらとうとう鐘楼の上に到着したのだが――それまで階段を上るのに息を切らせていたことも忘れて、私は眼下に広がる広大なパリの景色を前に、感動で胸がいっぱいになっていた。
「すごい景色……! パリの全てが見渡せそう! おっとと。後でみんなに見せるための動画を撮らないと」
私はスマホを取り出すと、動画を撮影しようと両手で構えた。
その瞬間だった。
突然の突風が吹いて私のスカートが盛大に持ち上がり、あろうことかパンツが丸見えになってしまったのは――!
「ひやんっ!?」
とっさにスカートを抑えたものの、私は驚きと恥ずかしさで身動きができなくなってしまう。
周囲の観光客の笑い声が耳に響く。
恥ずかしさに顔が真っ赤になっていくのが分かる。
穴があったら入ってしまいたかった。
――と、
「大丈夫?」
そんな私に近くにいた男性が声をかけてくれた。
日本語だ。
彼は私の周りで笑っている他の観光客を威嚇するように睨むと、一転して笑顔になって私の手を取り、フランス貴族のように優しく下までエスコートしてくれたのだった。
「ありがとうございました」
お礼を言う私に、
「いいってことさ。外国じゃ日本語は通じないし、日本人同士助け合わないとね」
彼は爽やかな口調で短く言うと、柔和な笑みを浮かべたまま観光客でごった返すパリの街並へと消えていった。
「あ、しまった。名前と連絡先くらい聞いておけばよかったな……」
そのことに私が気付いたのは、彼の姿が完全に見えなくなってしまってからのことだった。
――それから数年後。
私は再びパリにいた。
外資系に就職した私は、短期出張でパリに仕事にきていたのだ。
ハードスケジュールで明日にはまた日本に帰国しないといけないのだが、それでも何とか仕事を終わらせて時間を作って、あの思い出のノートルダム大聖堂へとやってきたのだ。
おりしも今日はあの日と同じ日付け、そして同じ時刻だった。
運命に導かれるように、あの時助けてくれた彼に会えるかなと、そんな淡い期待を抱きながら私はノートルダム大聖堂の鐘楼の一番上へと上っっていった。
てっぺんまで行くと、数年ぶりの広大なパリの景色が私の目に飛び込んでくる。
「ま、会えるわけないんだけどね。パリにどれだけ人がいるんだって話だし」
自嘲するように笑いながら、
「帰ろうっと」
鐘楼を折りかけたところで、不意に突風が吹いた。
おっと、今度は好きにさせないわよ、と思いながら私はすぐにスカートを抑えて事なきを得る。
だから気付くのに遅れた――目の前にいた彼の存在に。
「あれから同じ日、同じ時間に毎年ここに来てたんだ。また君に会えるかなって思ってさ。でもいい加減、今年で最後にしようかなって思ったんだけど、敢えて良かった」
あの時の懐かしい声が聞こえてくる。
「嘘、また会えるなんて――」
ノートルダムの鐘楼の上で――私と彼は再び巡り合った。
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