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第5話 人魚姫(5)
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人魚姫は自分が田舎上がりの地味子で、今は整形美人で、それをネタに悪徳整形外科医に脅されていたということを、全て隠すことなく明らかにした。
整形前の写真も添えて、心からの謝罪とともに人魚姫は己の罪を懺悔した。
(ああ、きっと婚約は破棄されるわ。でもそれがずっと彼を裏切っていた自分への罰なのよ。仕方がないわ。嘘つきな私の想いは泡となって消え去るのみ。短かったけれど、とても素敵な夢を見させてくれてありがとう)
全てを話し終え、これから来るであろう罵詈雑言を想って悲しみに暮れる人魚姫だったが、青年社長は優しく微笑むと言った。
「君の悩みを知れてよかった」
「え――」
「ここ最近、君が悩んでいたことを俺はずっと知っていたんだ。何に悩んでいたかまでは、分からなかったけどね。無理に聞き出すと君を傷つけてしまうと思って、俺はずっと言わないでいたんだ」
「そうだったのですね。ずっと言えなくてごめんなさい。でも、あなたが世界で一番だと褒めてくれた私の顔は、美容整形で作り出した紛い物だったんです。本当にごめんなさい。こんな嘘つきな私を、あなたはもう愛してはくれませんよね」
人魚姫はずっと社長を騙していたことを心から詫びた。
人魚姫の魔法は解けてしまった。
これで私はもうあなたの婚約者ではいられない。
残された道は、罵詈雑言とともに婚約を破棄されるだけ――そう心の中で涙を流しながら。
だが青年社長は人魚姫の身体をそっと優しく抱き寄せながら、耳元でささやいた。
「どうも勘違いしているようだから、一言だけ言っておく」
「はい」
人魚姫は何を言われるのかと、居住まいを正し、心を強くもって青年社長の言葉を待った。
「ハッキリ言おう。俺は君の顔が好きになったんじゃない。あの時、ゲロまみれの俺を親身になって介抱してくれた、君のその優しい心を好きになったんだ」
「え……?」
「だから君が整形美人だからといって、俺が君を愛さなくなることなど、これっぽっちもないんだよ」
「でも……」
「それとも整形をしたら、君の優しい心まで変わってしまうのかい?」
「――っ、それは……」
「だから心配しないでいい。結婚式は予定通りに行う。言っておくがこれは確定事項だ。誰に何を言われようがそれは変わらない。たとえ君が拒否したとしてもな。こう見えて俺は我がままなんだ」
「ぐすっ……ありがとうございます」
「ははっ、感謝なんて必要ないさ。俺が君と結婚したいと願っているんだから、むしろ感謝するのは俺の方だ。人魚姫、あの時俺を介抱してくれてありがとう。そして俺を好きになってくれてありがとう」
「はい……、はい……!」
人魚姫と青年社長はついに真に心を通わせ、お互いの気持ちを再確認するように強く、強く抱きしめ合った。
思う存分、抱きしめ合ってから青年社長が言った。
「しかし許せないのは、その悪徳美容整形外科医だな。やれやれまったく、この俺も舐められたものだ。そいつには俺がどこの誰なのか、嫌というほど教えてやろう」
青年社長は今まで培ってきたコネや莫大な資金を惜しげもなくつぎ込んで、国会議員に働きかけて東京地検や国税局を動かしてもらい、巧みに隠されていた美容整形外科の不正な資金の流れを暴き、詐欺を立件し、過去の様々な脅迫をつまびらかにしてみせた。
悪徳整形外科医は逮捕されて莫大な追徴課税を受けるとともに、厳しい実刑が下ったのだった。
そして人魚姫は青年社長と結婚し、子宝にも恵まれ、時々けんかはしたもののすぐに仲直りをし、互いに互いを思いやりながら末永く幸せに暮らしましたとさ。
めでたしめでたし。
(ハッピーエンド)
整形前の写真も添えて、心からの謝罪とともに人魚姫は己の罪を懺悔した。
(ああ、きっと婚約は破棄されるわ。でもそれがずっと彼を裏切っていた自分への罰なのよ。仕方がないわ。嘘つきな私の想いは泡となって消え去るのみ。短かったけれど、とても素敵な夢を見させてくれてありがとう)
全てを話し終え、これから来るであろう罵詈雑言を想って悲しみに暮れる人魚姫だったが、青年社長は優しく微笑むと言った。
「君の悩みを知れてよかった」
「え――」
「ここ最近、君が悩んでいたことを俺はずっと知っていたんだ。何に悩んでいたかまでは、分からなかったけどね。無理に聞き出すと君を傷つけてしまうと思って、俺はずっと言わないでいたんだ」
「そうだったのですね。ずっと言えなくてごめんなさい。でも、あなたが世界で一番だと褒めてくれた私の顔は、美容整形で作り出した紛い物だったんです。本当にごめんなさい。こんな嘘つきな私を、あなたはもう愛してはくれませんよね」
人魚姫はずっと社長を騙していたことを心から詫びた。
人魚姫の魔法は解けてしまった。
これで私はもうあなたの婚約者ではいられない。
残された道は、罵詈雑言とともに婚約を破棄されるだけ――そう心の中で涙を流しながら。
だが青年社長は人魚姫の身体をそっと優しく抱き寄せながら、耳元でささやいた。
「どうも勘違いしているようだから、一言だけ言っておく」
「はい」
人魚姫は何を言われるのかと、居住まいを正し、心を強くもって青年社長の言葉を待った。
「ハッキリ言おう。俺は君の顔が好きになったんじゃない。あの時、ゲロまみれの俺を親身になって介抱してくれた、君のその優しい心を好きになったんだ」
「え……?」
「だから君が整形美人だからといって、俺が君を愛さなくなることなど、これっぽっちもないんだよ」
「でも……」
「それとも整形をしたら、君の優しい心まで変わってしまうのかい?」
「――っ、それは……」
「だから心配しないでいい。結婚式は予定通りに行う。言っておくがこれは確定事項だ。誰に何を言われようがそれは変わらない。たとえ君が拒否したとしてもな。こう見えて俺は我がままなんだ」
「ぐすっ……ありがとうございます」
「ははっ、感謝なんて必要ないさ。俺が君と結婚したいと願っているんだから、むしろ感謝するのは俺の方だ。人魚姫、あの時俺を介抱してくれてありがとう。そして俺を好きになってくれてありがとう」
「はい……、はい……!」
人魚姫と青年社長はついに真に心を通わせ、お互いの気持ちを再確認するように強く、強く抱きしめ合った。
思う存分、抱きしめ合ってから青年社長が言った。
「しかし許せないのは、その悪徳美容整形外科医だな。やれやれまったく、この俺も舐められたものだ。そいつには俺がどこの誰なのか、嫌というほど教えてやろう」
青年社長は今まで培ってきたコネや莫大な資金を惜しげもなくつぎ込んで、国会議員に働きかけて東京地検や国税局を動かしてもらい、巧みに隠されていた美容整形外科の不正な資金の流れを暴き、詐欺を立件し、過去の様々な脅迫をつまびらかにしてみせた。
悪徳整形外科医は逮捕されて莫大な追徴課税を受けるとともに、厳しい実刑が下ったのだった。
そして人魚姫は青年社長と結婚し、子宝にも恵まれ、時々けんかはしたもののすぐに仲直りをし、互いに互いを思いやりながら末永く幸せに暮らしましたとさ。
めでたしめでたし。
(ハッピーエンド)
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