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第2話 人魚姫(2)
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人魚姫はある日、たまたま見かけたネット記事で、
『このハンカチの持ち主を探している。残念ながら顔も声も覚えていないが、俺に与えてくれた優しさだけは覚えている。彼女を妻にしたい。無理ならお礼だけでも構わない。だからこのハンカチの持ち主がいたら名乗り出て欲しい』
なんとも見覚えのある青年が、こんなことを言っているのを目にしたのだった。
どうやら青年は、酔いつぶれた自分を介抱して自宅までタクシーで送り届けてくれた人魚姫のことを、運命の相手だと思ったらしい。
しかもスパダリ(スーパーダーリン)なんて言葉が可愛く思えるほどの、ぶっちぎりでウルトラなステータス持ちだった。
「へー、あの人ってそんなにすごい人だったんだ」
あの時とは別人ってくらいにカッコよく振る舞っている青年社長をみて、人魚姫は胸がキュンと締め付けられてしまう。
なんだかんだで人魚姫も若い女子なので、イケメンに好意を向けられると嬉しくなってしまうのだ。
そして酔いつぶれてゴミまみれだった時とは打って変わって、爽やかなイケメン姿で画面越しの熱烈なラブコールを送ってくる青年社長に――社会的地位の高さと莫大な個人資産もあって――世の女性は熱狂した。
連日、我こそがハンカチの持ち主だと名乗り出ているらしいが、それを証明できるものは誰一人としていなかった。
当然だ。
介抱したのは人形姫なのだから。
つまり今名乗り出ている女どもはみな、嘘つきのクソビッチなのだった。
「どうしよう……結婚はまだ考えられないけど、名乗り出るだけならタダだよね?」
人魚姫は名乗り出ようかと思ったものの、ふと部屋の姿見に映る自分の姿を見て、我に返った。
理由は簡単。
自信がなかったのだ。
東京に出てきても田舎っぽさは抜けず、美人でもなく、ザ・地味子な自分。
それとは正反対で、青年社長はいわゆるスパダリ(スーパーダーリン)だったから。
イケメンで、高身長で、高学歴で、お金持ちで、政財界とのコネクションもすごくて、学生の頃に企業した会社がわずか5年で日本でも名の知られた新進気鋭のベンチャー企業になって東証プライムに上場し、今や複数のスタートアップ企業を抱える文句なしのスーパーダーリン。
それに対して、人魚姫はあまりにも平凡だった。
容姿は地味だし、童話から抜け出したかのようなDQNネーム――じゃないキラキラネームと優しさ以外には、たいした取り柄もない。
「私とは根本的に住む世界が違うよね。名乗り出ても失望されるだけだよ」
会っても失望されるだけ。
だったら青年社長の思い出の中だけでも、綺麗な自分でいたかった。
人魚姫はそう考えた。
しかし名乗り出ることを諦めようとしていたその時、人魚姫は偶然にも美容整形外科の広告を見た――見てしまった。
そこにはこう書いてあった。
『コンプレックスを感じない美しいあなたに、生まれ変わりたくありませんか?』
と。
「コンプレックスを感じない美しい私……」
なんでも人気アイドルがここに通っていたことを最近告白したとかいう、それはもう有名な美容整形外科らしい。
「私もなれるのかな、美しい自分に? なれるのなら、なりたいな……」
それはもう悩みに悩んだ末に、人魚姫は一念発起した。
夏休み期間を利用して、必死にためていたバイト代を使って顔を整形し、モデルか女優と見間違えるような絶世の美女へと生まれ変わったのだ!
「これが……私? とても信じられない!」
美容整形手術のダウンタイムが明けて、鏡に映った人魚姫の顔はまるで別人だった。
まるでというか完全に別人だった。
もう実の親ですら、人魚姫を人魚姫だと分からないだろう。
自分を産んでくれた両親の遺伝子を否定しているみたいで少しだけ申し訳なかったが、それでも人魚姫に後悔はなかった。
「これであの人に会いに行ける」
この時の人魚姫はハッピーハピハピワンダフルだった。
幸せの予感をひしひしと感じていた。
しかし。
この美容整形外科は、実は悪徳医療者だったのだ!
その事実を人魚姫が知るのは、少し後になってからのことだった。
『このハンカチの持ち主を探している。残念ながら顔も声も覚えていないが、俺に与えてくれた優しさだけは覚えている。彼女を妻にしたい。無理ならお礼だけでも構わない。だからこのハンカチの持ち主がいたら名乗り出て欲しい』
なんとも見覚えのある青年が、こんなことを言っているのを目にしたのだった。
どうやら青年は、酔いつぶれた自分を介抱して自宅までタクシーで送り届けてくれた人魚姫のことを、運命の相手だと思ったらしい。
しかもスパダリ(スーパーダーリン)なんて言葉が可愛く思えるほどの、ぶっちぎりでウルトラなステータス持ちだった。
「へー、あの人ってそんなにすごい人だったんだ」
あの時とは別人ってくらいにカッコよく振る舞っている青年社長をみて、人魚姫は胸がキュンと締め付けられてしまう。
なんだかんだで人魚姫も若い女子なので、イケメンに好意を向けられると嬉しくなってしまうのだ。
そして酔いつぶれてゴミまみれだった時とは打って変わって、爽やかなイケメン姿で画面越しの熱烈なラブコールを送ってくる青年社長に――社会的地位の高さと莫大な個人資産もあって――世の女性は熱狂した。
連日、我こそがハンカチの持ち主だと名乗り出ているらしいが、それを証明できるものは誰一人としていなかった。
当然だ。
介抱したのは人形姫なのだから。
つまり今名乗り出ている女どもはみな、嘘つきのクソビッチなのだった。
「どうしよう……結婚はまだ考えられないけど、名乗り出るだけならタダだよね?」
人魚姫は名乗り出ようかと思ったものの、ふと部屋の姿見に映る自分の姿を見て、我に返った。
理由は簡単。
自信がなかったのだ。
東京に出てきても田舎っぽさは抜けず、美人でもなく、ザ・地味子な自分。
それとは正反対で、青年社長はいわゆるスパダリ(スーパーダーリン)だったから。
イケメンで、高身長で、高学歴で、お金持ちで、政財界とのコネクションもすごくて、学生の頃に企業した会社がわずか5年で日本でも名の知られた新進気鋭のベンチャー企業になって東証プライムに上場し、今や複数のスタートアップ企業を抱える文句なしのスーパーダーリン。
それに対して、人魚姫はあまりにも平凡だった。
容姿は地味だし、童話から抜け出したかのようなDQNネーム――じゃないキラキラネームと優しさ以外には、たいした取り柄もない。
「私とは根本的に住む世界が違うよね。名乗り出ても失望されるだけだよ」
会っても失望されるだけ。
だったら青年社長の思い出の中だけでも、綺麗な自分でいたかった。
人魚姫はそう考えた。
しかし名乗り出ることを諦めようとしていたその時、人魚姫は偶然にも美容整形外科の広告を見た――見てしまった。
そこにはこう書いてあった。
『コンプレックスを感じない美しいあなたに、生まれ変わりたくありませんか?』
と。
「コンプレックスを感じない美しい私……」
なんでも人気アイドルがここに通っていたことを最近告白したとかいう、それはもう有名な美容整形外科らしい。
「私もなれるのかな、美しい自分に? なれるのなら、なりたいな……」
それはもう悩みに悩んだ末に、人魚姫は一念発起した。
夏休み期間を利用して、必死にためていたバイト代を使って顔を整形し、モデルか女優と見間違えるような絶世の美女へと生まれ変わったのだ!
「これが……私? とても信じられない!」
美容整形手術のダウンタイムが明けて、鏡に映った人魚姫の顔はまるで別人だった。
まるでというか完全に別人だった。
もう実の親ですら、人魚姫を人魚姫だと分からないだろう。
自分を産んでくれた両親の遺伝子を否定しているみたいで少しだけ申し訳なかったが、それでも人魚姫に後悔はなかった。
「これであの人に会いに行ける」
この時の人魚姫はハッピーハピハピワンダフルだった。
幸せの予感をひしひしと感じていた。
しかし。
この美容整形外科は、実は悪徳医療者だったのだ!
その事実を人魚姫が知るのは、少し後になってからのことだった。
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