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第1話 人魚姫(1)
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夕凪 人魚姫(ゆなぎ・いさき)は大学進学を機に都会にやって来たばかりの田舎娘。
超絶キラキラネームの割に外見は地味子だけど、純朴で優しくて頑張り屋さんな女子大生だ。
「バイト代が入ったし、今日は贅沢にハーゲンダッツでも買っちゃおうかな~♪」
今日も、生活費の足しにと始めた深夜のコンビニバイトを終え、ルンタッター♪ ルンタッター♪ とルンルン気分で自宅アパートへと帰宅していたのだが――、
「あれ、あんなところに誰か倒れてる」
偶然、通りかかった路地裏で、一人の青年がゴミ捨て場にぶっ倒れているのを目にしてしまった。
まだ春の終わり、朝夕はめっきり冷え込む時期だ。
しかもゴミまみれ。
とても見捨ててはいられなかった心優しき人魚姫は、青年を介抱してあげることにした。
「あの! 大丈夫ですか? こんなところで寝ていたら風邪を引きますよ?」
「う、うーん。もう飲めない……」
「意識はあるっぽいかな? ひとまず安心だけど、お酒臭い。すごくお酒臭い。ってことは酔いつぶれてるだけってこと? 心配して損しちゃったかも」
青年はよく見るとかなりのイケメンで、スラリとした高身長に高級なオーダーメイドスーツを身にまとっている。
左腕にはきらりと光るコスモグラフ・デイトナ。
世界一有名な時計屋ロレックスの誇る最高級の腕時計だ。
青年は学生の頃に企業した会社が、わずか5年で日本でも名の知られた新進気鋭のベンチャー企業になって東証プライムに上場し、他にも成長著しいスタートアップ企業をいくつも経営する、やり手の若手社長だった。
個人総資産は既に100億円を超えていて、経営者の界隈では知らないものはいないほどのやり手の若手経営者だ。
しかしさすがに平凡な女子大生には畑違いということもあり、人魚姫は青年社長のことをまったく存じ上げなかった。
時計も「なんか高そう」くらいにしか思っていない。
もしこれが人魚姫ではなく、ハスッパなアバズレ女が見れば、
「こいつ金持ちのイケメンじゃね? コネゲット! 嫁の座もゲット! やばっ! 人生勝ち組!!」
みたいにヒャッハーする展開なのだが。
しかし人魚姫はそれはもう純真な娘だったので、身なりだけで人を判断はしないし、そもそも青年は酔いつぶれてゴミと一緒に路地裏に転がっているし、ロレックスとか言われてもよく知らないし、この青年社長が風邪を引かないようにとただただ心配するだけだった。
「酔っ払いだけど、さすがにこのままにはできないよね? しょうがない、タクシーを呼んであげよ」
人魚姫は流しのタクシーを拾うと、べろんべろんに酔っぱらった青年社長からなんとか自宅住所を聞き出して、運転手さんに伝えてあげる。
さらに入ったばかりのなけなしのバイト代で、タクシー代まで払ってあげた。
「さようなら、私のハーゲンダッツ。来月のバイト代が入ったら今月の分も食べてあげるからね……」
ちなみにタクシーを待っている間に、地面に寝かせておくのもかわいそうだと思って膝枕をしてあげたのだが、その時に青年社長がゲロをはいたので、心優しい人魚姫はハンカチで口元を拭ってあげた。
そして青年がゲロまみれのハンカチを握りしめたまま離さなかったので、そのハンカチはそのままあげることにした。
「ゲロ臭いしね」
物を大切にしなさいと正しく躾けられてきた人魚姫といえど、うら若き10代の乙女である。
赤の他人のゲロまみれのハンカチを家に持って帰りたくはなかった。
◇
というようなことがあってから1か月が過ぎた。
大学にバイトにと毎日が忙しい人魚姫は、すっかり青年社長のことを忘れていたのだが――。
超絶キラキラネームの割に外見は地味子だけど、純朴で優しくて頑張り屋さんな女子大生だ。
「バイト代が入ったし、今日は贅沢にハーゲンダッツでも買っちゃおうかな~♪」
今日も、生活費の足しにと始めた深夜のコンビニバイトを終え、ルンタッター♪ ルンタッター♪ とルンルン気分で自宅アパートへと帰宅していたのだが――、
「あれ、あんなところに誰か倒れてる」
偶然、通りかかった路地裏で、一人の青年がゴミ捨て場にぶっ倒れているのを目にしてしまった。
まだ春の終わり、朝夕はめっきり冷え込む時期だ。
しかもゴミまみれ。
とても見捨ててはいられなかった心優しき人魚姫は、青年を介抱してあげることにした。
「あの! 大丈夫ですか? こんなところで寝ていたら風邪を引きますよ?」
「う、うーん。もう飲めない……」
「意識はあるっぽいかな? ひとまず安心だけど、お酒臭い。すごくお酒臭い。ってことは酔いつぶれてるだけってこと? 心配して損しちゃったかも」
青年はよく見るとかなりのイケメンで、スラリとした高身長に高級なオーダーメイドスーツを身にまとっている。
左腕にはきらりと光るコスモグラフ・デイトナ。
世界一有名な時計屋ロレックスの誇る最高級の腕時計だ。
青年は学生の頃に企業した会社が、わずか5年で日本でも名の知られた新進気鋭のベンチャー企業になって東証プライムに上場し、他にも成長著しいスタートアップ企業をいくつも経営する、やり手の若手社長だった。
個人総資産は既に100億円を超えていて、経営者の界隈では知らないものはいないほどのやり手の若手経営者だ。
しかしさすがに平凡な女子大生には畑違いということもあり、人魚姫は青年社長のことをまったく存じ上げなかった。
時計も「なんか高そう」くらいにしか思っていない。
もしこれが人魚姫ではなく、ハスッパなアバズレ女が見れば、
「こいつ金持ちのイケメンじゃね? コネゲット! 嫁の座もゲット! やばっ! 人生勝ち組!!」
みたいにヒャッハーする展開なのだが。
しかし人魚姫はそれはもう純真な娘だったので、身なりだけで人を判断はしないし、そもそも青年は酔いつぶれてゴミと一緒に路地裏に転がっているし、ロレックスとか言われてもよく知らないし、この青年社長が風邪を引かないようにとただただ心配するだけだった。
「酔っ払いだけど、さすがにこのままにはできないよね? しょうがない、タクシーを呼んであげよ」
人魚姫は流しのタクシーを拾うと、べろんべろんに酔っぱらった青年社長からなんとか自宅住所を聞き出して、運転手さんに伝えてあげる。
さらに入ったばかりのなけなしのバイト代で、タクシー代まで払ってあげた。
「さようなら、私のハーゲンダッツ。来月のバイト代が入ったら今月の分も食べてあげるからね……」
ちなみにタクシーを待っている間に、地面に寝かせておくのもかわいそうだと思って膝枕をしてあげたのだが、その時に青年社長がゲロをはいたので、心優しい人魚姫はハンカチで口元を拭ってあげた。
そして青年がゲロまみれのハンカチを握りしめたまま離さなかったので、そのハンカチはそのままあげることにした。
「ゲロ臭いしね」
物を大切にしなさいと正しく躾けられてきた人魚姫といえど、うら若き10代の乙女である。
赤の他人のゲロまみれのハンカチを家に持って帰りたくはなかった。
◇
というようなことがあってから1か月が過ぎた。
大学にバイトにと毎日が忙しい人魚姫は、すっかり青年社長のことを忘れていたのだが――。
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