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アフターストーリー
25 years later ~25年後~(2)
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そして2か月ほど前に典型的な後者のタイプである『可哀そうな少女』が1人、この『絶海の孤島の修道院』へと送られてきた。
物静かな美しい少女で手先が器用で、特に折り紙が大の得意で、ここに来てからも文句ひとつ言わずに日々の生活を送っている。
間違っても悪さをするタイプではない、だけど運悪く追放されてしまった可哀そうな女の子。
もちろんここに来た以上は、彼女の性格や経歴などは猫の額ほども関係ない。
ここでは誰もが平等に静かで平穏に暮らす――暮らさなければならないのだから。
少し脱線してしまったので、話を戻そう。
先ほどの青年は、この可哀そう少女を連れ出しに来たのではないか――私は直感的にそう感じ取っていた。
そしてその見立てはきっと間違っていないだろう。
現に、
「申し訳ありませんヴェロニカ修道院長、どうも船がトラブルのようでして。物資を下ろした後はすぐに島を離れなくてはならない決まりなのは重々承知しておりますが、どうしても出航が明日の夜明け頃までずれ込みそうなのです」
狙ったとしか思えないように、物資運搬船にトラブルが発生していた。
たまたま偶然?
ははっ、まさか!
わたしがここに来て25年、こんなトラブルが起きるのは初めてのことだ!
これはもう間違いない。
このトラブルは先ほどの青年が仕組んだものだ。
船が一晩停泊する間に少女を連れ出して、夜明けとともにこの島から逃げる気なのだ。
私には全てお見通しだった。
よく練られた作戦ではあるものの、しょせんは子供の考えることだ。
だから私は言った。
「構いませんよ、私どもはいつも通りに過ごしますのでどうぞお気遣いなく」
「ご厚意、感謝いたします」
「いえいえ」
私ヴェロニカは『絶海の孤島の修道院』を預かる修道院長だ。
そしてその役目というのは、この修道院を円滑に運営することに尽きる。
それ以上でもそれ以下でもなかった。
だから消灯前に行う夜の点呼から、翌朝の清掃前に行われる朝の点呼までの間に何かあったとして、それはなんら私の知るところではないのだ。
私はただただ、この『絶海の孤島の修道院』で繰り返される『何もない日』を過ごすだけ。
もちろん彼らの脱走が問題にならないわけはないだろうが、しかしどう転んでも私の責任問題にはなりえない。
なぜなら夜の点呼で確認した後、朝の点呼まで誰かの不在を確認しないことについて、私には何の落ち度もないのだから――。
そしてもう1つだけ彼らを見逃す理由があった。
「この絶対不可侵の修道院に乗りこんで、囚われのお姫様を奪還する。その先にあるのは間違いなく辛く険しい茨の道よ?」
そんな苦難の道をミレイユの子供が率先して歩もうというのを、邪魔する理由が私のどこにあるのかしら?
「ふふっ、せいぜい頑張ってね王子様。応援してるわよ?」
月明かりだけを頼りに修道院の門を抜けて港の船へと向かって走っていく青年と少女の姿を、修道院長室からじっと見下ろしながら私は小さく笑っていた。
こんなに楽しい気分になったのはいつ以来だろうか?
代り映えのないこの島で25年もたった今、まさかこんな面白いことが起こるなんて。
「あ、そういうことですか。私は、あの青年と少女に自分と自分の願望を重ねてしまってるのね」
誰かが私を助けに連れ出してくれたら――。
今はもう考えることすらなくなった遠い昔の夢物語を、まさに実行しようとする2人に私はきっと昔の自分を重ねているのだ。
そんな、ここに来て以来久しく感じたことのなかったワクワクを感じながら、しかし私はいつも通りに夜のお祈りを捧げると、いつも通りにベッドに入って眠りについた。
この『絶海の孤島の修道院』で求められることは、『何もない日』をひたすらに繰り返すということだけだから――。
-Fin-
この物語はこれにて完全終了です。
最後までお読みいただきありがとうございました。
それではまたどこかで~(*'ω'*)b
物静かな美しい少女で手先が器用で、特に折り紙が大の得意で、ここに来てからも文句ひとつ言わずに日々の生活を送っている。
間違っても悪さをするタイプではない、だけど運悪く追放されてしまった可哀そうな女の子。
もちろんここに来た以上は、彼女の性格や経歴などは猫の額ほども関係ない。
ここでは誰もが平等に静かで平穏に暮らす――暮らさなければならないのだから。
少し脱線してしまったので、話を戻そう。
先ほどの青年は、この可哀そう少女を連れ出しに来たのではないか――私は直感的にそう感じ取っていた。
そしてその見立てはきっと間違っていないだろう。
現に、
「申し訳ありませんヴェロニカ修道院長、どうも船がトラブルのようでして。物資を下ろした後はすぐに島を離れなくてはならない決まりなのは重々承知しておりますが、どうしても出航が明日の夜明け頃までずれ込みそうなのです」
狙ったとしか思えないように、物資運搬船にトラブルが発生していた。
たまたま偶然?
ははっ、まさか!
わたしがここに来て25年、こんなトラブルが起きるのは初めてのことだ!
これはもう間違いない。
このトラブルは先ほどの青年が仕組んだものだ。
船が一晩停泊する間に少女を連れ出して、夜明けとともにこの島から逃げる気なのだ。
私には全てお見通しだった。
よく練られた作戦ではあるものの、しょせんは子供の考えることだ。
だから私は言った。
「構いませんよ、私どもはいつも通りに過ごしますのでどうぞお気遣いなく」
「ご厚意、感謝いたします」
「いえいえ」
私ヴェロニカは『絶海の孤島の修道院』を預かる修道院長だ。
そしてその役目というのは、この修道院を円滑に運営することに尽きる。
それ以上でもそれ以下でもなかった。
だから消灯前に行う夜の点呼から、翌朝の清掃前に行われる朝の点呼までの間に何かあったとして、それはなんら私の知るところではないのだ。
私はただただ、この『絶海の孤島の修道院』で繰り返される『何もない日』を過ごすだけ。
もちろん彼らの脱走が問題にならないわけはないだろうが、しかしどう転んでも私の責任問題にはなりえない。
なぜなら夜の点呼で確認した後、朝の点呼まで誰かの不在を確認しないことについて、私には何の落ち度もないのだから――。
そしてもう1つだけ彼らを見逃す理由があった。
「この絶対不可侵の修道院に乗りこんで、囚われのお姫様を奪還する。その先にあるのは間違いなく辛く険しい茨の道よ?」
そんな苦難の道をミレイユの子供が率先して歩もうというのを、邪魔する理由が私のどこにあるのかしら?
「ふふっ、せいぜい頑張ってね王子様。応援してるわよ?」
月明かりだけを頼りに修道院の門を抜けて港の船へと向かって走っていく青年と少女の姿を、修道院長室からじっと見下ろしながら私は小さく笑っていた。
こんなに楽しい気分になったのはいつ以来だろうか?
代り映えのないこの島で25年もたった今、まさかこんな面白いことが起こるなんて。
「あ、そういうことですか。私は、あの青年と少女に自分と自分の願望を重ねてしまってるのね」
誰かが私を助けに連れ出してくれたら――。
今はもう考えることすらなくなった遠い昔の夢物語を、まさに実行しようとする2人に私はきっと昔の自分を重ねているのだ。
そんな、ここに来て以来久しく感じたことのなかったワクワクを感じながら、しかし私はいつも通りに夜のお祈りを捧げると、いつも通りにベッドに入って眠りについた。
この『絶海の孤島の修道院』で求められることは、『何もない日』をひたすらに繰り返すということだけだから――。
-Fin-
この物語はこれにて完全終了です。
最後までお読みいただきありがとうございました。
それではまたどこかで~(*'ω'*)b
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