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アフターストーリー
第61話 ~エピローグ~ 見ずの呼吸――凪
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今日のわたしはアンナをお共にジェイクに連れ添って、「青少年合唱コンクール」の特別審査員席に座っていた。
エルフィーナ王家が主催している毎年恒例のイベントだそうで、文字通り青少年たちが一生懸命歌っているのを聴いて審査をするのだ。
現在ヴァルス禍が一段落しエルフィーナが復興の真っ最中ということもあって、立役者である「救国の聖女」(自称じゃなくて今のわたしは国民からそんな風に呼ばれている)ミレイユ・アプリコットは、その特別審査員の顔としてお呼ばれしたんだけど――、
「改めてもう一度言わせてもらうけど、わたしは音楽の細かい良し悪しなんてさっぱり分からないんだけど……」
今歌っていたグループがちょうど歌い終わって、次のグループと交代するわずかの間に、隣に座るジェイクにだけ聞こえるようにそっと小さな声でわたしは話しかけた。
というのも、ここまでのわたしの感想は「みんなとても上手」としか言いようがなかったからだ。
今日歌っている合唱団はどれも各地の予選を勝ち抜いてきたツワモノたちであり、当然セミプロレベルの高い技術を持っている。
そんなハイレベルな合唱を、わたしのような音楽ド素人の耳で優劣をつけるなんてどう考えても不可能でしょう?
だっていうのに、
「ははっ、そんなに気張らなくてもミレイユが良いと思ったものを素直に選べばいいと思うぞ?」
ジェイクはゆるーい笑顔でそんなことを言ってくるのだ。
「ズブの素人が良いと思ってもねぇ……意味あるのかしらそれ……」
わたしはなおもそう言ったんだけど、
「いやいや、音楽の専門家ばかりだとそれはそれで採点の方向性が偏るだろ? 芸術は時に専門的になり過ぎて、大衆の感性や求めるものとズレてしまうものなんだ。だから一般大衆目線での評価っていうのは、芸術にとって意外と大事なんだよな」
「うーん、それはそうなのかもしれないけど、でもその道の専門家が多数いる中で、あえて素人が採点するなんて……プ、プレッシャーが……」
「おいおい、プレッシャーを感じるなんてミレイユらしくないな? いつもみたいに堂々と好きなように採点すればいいんだよ」
「そうは言ってもねぇ……」
自分が審査することをわたしがここまで気にするのには、もちろん理由があった。
話によるとこの合唱コンクールで優秀な成績を収めた者は、王宮にある王立音楽隊に推薦を貰って無試験で入れるのだとかなんとか。
つまり音楽に情熱を注いでいる青少年たちの未来を、何も分かってないわたしの採点が左右しかねないというわけなのだ。
これにはさすがのわたしもプレッシャーを感じざるを得ないのである……。
しかもだ。
ジェイクときたらわたしとは違って、明らかに「専門家の側」にいるんだもん。
『高音域が伸びやかで深みもあるな、低音パートとのハーモニーが実に心地いい』
とか、
『すごく難しい曲なのに完成度が高いなぁ。技術的には文句なしに今日一番だな』
とか。
どこからどう見ても、分かってる風な独り言を言ってるんだもん。
反対隣りに座っているアンナはお付きメイドで審査権は持っていないので、つまり今日の審査員で素人なのってわたしだけじゃん!(泣)
しかし一度引き受けてしまったものを今さら拒否することなんてできないし、わたしのプライド的にそんなことは絶対にしたくない。
なのでわたしはその後も必死に合唱を聴いた。
呼吸を整えて、心を凪にして、時には目をつむって見ずの呼吸でただひたすらに合唱を聴くことに全力集中した。
しかし結局わたしはそのハイレベルな争いの中のわずか差異をまったく感じ取ることができず、仕方なく全ての合唱に満点である10点を付けたのだった……。
エルフィーナ王家が主催している毎年恒例のイベントだそうで、文字通り青少年たちが一生懸命歌っているのを聴いて審査をするのだ。
現在ヴァルス禍が一段落しエルフィーナが復興の真っ最中ということもあって、立役者である「救国の聖女」(自称じゃなくて今のわたしは国民からそんな風に呼ばれている)ミレイユ・アプリコットは、その特別審査員の顔としてお呼ばれしたんだけど――、
「改めてもう一度言わせてもらうけど、わたしは音楽の細かい良し悪しなんてさっぱり分からないんだけど……」
今歌っていたグループがちょうど歌い終わって、次のグループと交代するわずかの間に、隣に座るジェイクにだけ聞こえるようにそっと小さな声でわたしは話しかけた。
というのも、ここまでのわたしの感想は「みんなとても上手」としか言いようがなかったからだ。
今日歌っている合唱団はどれも各地の予選を勝ち抜いてきたツワモノたちであり、当然セミプロレベルの高い技術を持っている。
そんなハイレベルな合唱を、わたしのような音楽ド素人の耳で優劣をつけるなんてどう考えても不可能でしょう?
だっていうのに、
「ははっ、そんなに気張らなくてもミレイユが良いと思ったものを素直に選べばいいと思うぞ?」
ジェイクはゆるーい笑顔でそんなことを言ってくるのだ。
「ズブの素人が良いと思ってもねぇ……意味あるのかしらそれ……」
わたしはなおもそう言ったんだけど、
「いやいや、音楽の専門家ばかりだとそれはそれで採点の方向性が偏るだろ? 芸術は時に専門的になり過ぎて、大衆の感性や求めるものとズレてしまうものなんだ。だから一般大衆目線での評価っていうのは、芸術にとって意外と大事なんだよな」
「うーん、それはそうなのかもしれないけど、でもその道の専門家が多数いる中で、あえて素人が採点するなんて……プ、プレッシャーが……」
「おいおい、プレッシャーを感じるなんてミレイユらしくないな? いつもみたいに堂々と好きなように採点すればいいんだよ」
「そうは言ってもねぇ……」
自分が審査することをわたしがここまで気にするのには、もちろん理由があった。
話によるとこの合唱コンクールで優秀な成績を収めた者は、王宮にある王立音楽隊に推薦を貰って無試験で入れるのだとかなんとか。
つまり音楽に情熱を注いでいる青少年たちの未来を、何も分かってないわたしの採点が左右しかねないというわけなのだ。
これにはさすがのわたしもプレッシャーを感じざるを得ないのである……。
しかもだ。
ジェイクときたらわたしとは違って、明らかに「専門家の側」にいるんだもん。
『高音域が伸びやかで深みもあるな、低音パートとのハーモニーが実に心地いい』
とか、
『すごく難しい曲なのに完成度が高いなぁ。技術的には文句なしに今日一番だな』
とか。
どこからどう見ても、分かってる風な独り言を言ってるんだもん。
反対隣りに座っているアンナはお付きメイドで審査権は持っていないので、つまり今日の審査員で素人なのってわたしだけじゃん!(泣)
しかし一度引き受けてしまったものを今さら拒否することなんてできないし、わたしのプライド的にそんなことは絶対にしたくない。
なのでわたしはその後も必死に合唱を聴いた。
呼吸を整えて、心を凪にして、時には目をつむって見ずの呼吸でただひたすらに合唱を聴くことに全力集中した。
しかし結局わたしはそのハイレベルな争いの中のわずか差異をまったく感じ取ることができず、仕方なく全ての合唱に満点である10点を付けたのだった……。
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