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最終章 聖女凱旋
第56話 聖女の帰還
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「まさかこんなに早く王都に戻ってくるなんてね……もしかしたら一生帰ることはないかもって思ってたのに……」
馬車の窓から見えるセラフィム王国の見慣れた王都を見上げながら、私は小さな声でつぶやいた。
でも見慣れているのは街並みだけで、今やその姿は閑散としてゴーストタウンの様相を呈していた。
人がほとんど出歩いておらず、街の至るところから激しい咳や、苦しみの声やうめき声が聞こえてくるのだ。
そんな酷い有り様の市街を抜けて、わたしを乗せた馬車はセラフィム王国の王宮へと到着した。
「本当に久しぶりね……わたし、帰ってきたんだわ」
そんなわたしたち一行を出迎えてくれたのは――、
「『破邪の聖女』ミレイユ殿、この度はセラフィム王国にお戻りいただいたこと、感謝の言葉しかありませぬ。耐えがたきを耐え、決して小さくない遺恨を乗り越えて、よくぞ戻ってきてくれた。そなたの英断に、この国と国民を代表して厚く御礼申し上げる。それとデルマイユも、よくぞやってくれた」
なんとセラフィム王その人だったのだ!
「セラフィム王みずからお出迎えいただき、光栄の極みにございますわ」
わたしは両手でスカートをつまむと優雅に一礼をした。
2か月前までは臣下だったので完全な上下関係があったけど、今は他国の王太子妃なので立場的にはわたしがやや下といったところだ。
へりくだり過ぎては返って失礼だし、かといって一国の王と王太子妃では決して対等ではない。
かなり気を使わないといけなかったわたしだったんだけど、うんまぁそこそこ上手くあいさつはできたかな?
そしてまず、ヴェロニカ王女が拘束されて軟禁されていること。
アンドレアス伯爵がヴァルスで亡くなったことを聞かされた。
「アンドレアス、死んじゃったのね……そう聞かされると、ちょっと寂しいかも」
あんなチャラい人でなしのクズでも、一応は元婚約者だから。
……ま、ちょっとだけだけどね。
なにせあいつは、わたしの絶対に許せないリストの上から2番目に載ってたから。
「それではミレイユ様、到着して早々で申し訳ありませんが、結界の基部がある水晶室に参りましょうかの?」
セラフィム王の前と言うこともあって、丁寧な口調でわたしに話すデルマイユ侯爵に、
「その前に1つだけやっておきたいことがあるの。ちょっとだけ外すわね」
わたしは極上の笑みを浮かべてそう言った。
◆
わたしがジェイクやアンナと別れて向かったのは、ヴェロニカが軟禁されている部屋だった。
王侯貴族など、身分高き者が幽閉される独房部屋だ。
「あら、ヴェロニカ王女じゃないの。久しぶりね、元気だった? でもどうしたの? ちょっと元気が無いみたいだけど?」
わたしは部屋に入るなり、腕を組んで言い放った。
独房と言っても王女の独房なので、普通の牢屋というわけではなく、小さな普通の部屋だ。
机もあるし、ベッドもある。
床はカーペットだし、小窓もついているので外を眺めることもできた。
高そうな絵が飾ってあって、本も読めるし、自由に寝起きすることだってできる。
ただし外に出ることは絶対に許されず、常に衛兵2名が監視していて、周囲も多数の衛兵が警戒に当たっていて、とても逃げ出せるものではなかった。
一般庶民の家よりも広くて綺麗な部屋だけど、王宮で贅沢三昧をしていたヴェロニカ王女にとっては、家畜の飼育小屋程度にしか思えないんだろうな。
そんなヴェロニカ王女はというと、わたしの顔を見るなり目を輝かせて言った。
「ミレイユ、ミレイユじゃないの! もしかしてわたくしを助けに来てくれたのですか!」
そんなことを言いやがったのだ……!
馬車の窓から見えるセラフィム王国の見慣れた王都を見上げながら、私は小さな声でつぶやいた。
でも見慣れているのは街並みだけで、今やその姿は閑散としてゴーストタウンの様相を呈していた。
人がほとんど出歩いておらず、街の至るところから激しい咳や、苦しみの声やうめき声が聞こえてくるのだ。
そんな酷い有り様の市街を抜けて、わたしを乗せた馬車はセラフィム王国の王宮へと到着した。
「本当に久しぶりね……わたし、帰ってきたんだわ」
そんなわたしたち一行を出迎えてくれたのは――、
「『破邪の聖女』ミレイユ殿、この度はセラフィム王国にお戻りいただいたこと、感謝の言葉しかありませぬ。耐えがたきを耐え、決して小さくない遺恨を乗り越えて、よくぞ戻ってきてくれた。そなたの英断に、この国と国民を代表して厚く御礼申し上げる。それとデルマイユも、よくぞやってくれた」
なんとセラフィム王その人だったのだ!
「セラフィム王みずからお出迎えいただき、光栄の極みにございますわ」
わたしは両手でスカートをつまむと優雅に一礼をした。
2か月前までは臣下だったので完全な上下関係があったけど、今は他国の王太子妃なので立場的にはわたしがやや下といったところだ。
へりくだり過ぎては返って失礼だし、かといって一国の王と王太子妃では決して対等ではない。
かなり気を使わないといけなかったわたしだったんだけど、うんまぁそこそこ上手くあいさつはできたかな?
そしてまず、ヴェロニカ王女が拘束されて軟禁されていること。
アンドレアス伯爵がヴァルスで亡くなったことを聞かされた。
「アンドレアス、死んじゃったのね……そう聞かされると、ちょっと寂しいかも」
あんなチャラい人でなしのクズでも、一応は元婚約者だから。
……ま、ちょっとだけだけどね。
なにせあいつは、わたしの絶対に許せないリストの上から2番目に載ってたから。
「それではミレイユ様、到着して早々で申し訳ありませんが、結界の基部がある水晶室に参りましょうかの?」
セラフィム王の前と言うこともあって、丁寧な口調でわたしに話すデルマイユ侯爵に、
「その前に1つだけやっておきたいことがあるの。ちょっとだけ外すわね」
わたしは極上の笑みを浮かべてそう言った。
◆
わたしがジェイクやアンナと別れて向かったのは、ヴェロニカが軟禁されている部屋だった。
王侯貴族など、身分高き者が幽閉される独房部屋だ。
「あら、ヴェロニカ王女じゃないの。久しぶりね、元気だった? でもどうしたの? ちょっと元気が無いみたいだけど?」
わたしは部屋に入るなり、腕を組んで言い放った。
独房と言っても王女の独房なので、普通の牢屋というわけではなく、小さな普通の部屋だ。
机もあるし、ベッドもある。
床はカーペットだし、小窓もついているので外を眺めることもできた。
高そうな絵が飾ってあって、本も読めるし、自由に寝起きすることだってできる。
ただし外に出ることは絶対に許されず、常に衛兵2名が監視していて、周囲も多数の衛兵が警戒に当たっていて、とても逃げ出せるものではなかった。
一般庶民の家よりも広くて綺麗な部屋だけど、王宮で贅沢三昧をしていたヴェロニカ王女にとっては、家畜の飼育小屋程度にしか思えないんだろうな。
そんなヴェロニカ王女はというと、わたしの顔を見るなり目を輝かせて言った。
「ミレイユ、ミレイユじゃないの! もしかしてわたくしを助けに来てくれたのですか!」
そんなことを言いやがったのだ……!
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