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最終章 聖女凱旋
第55話 一挙両得の策謀
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「うむ。これを機にワシは、獅子身中の虫たる第二王女ヴェロニカを追放し、聡明な第一王女にセラフィム王国を継いでもらいたいと考えておるのじゃよ」
「ってことはつまり。わたしが取引に応じるための条件として、ヴェロニカ王女を廃嫡にすることにしてほしい、ってことですね?」
ヴァルスからセラフィム国を守るためには、聖女であるわたしが必要で。
そしてわたしがセラフィム王国に戻るには、遺恨のある第二王女のヴェロニカを廃嫡しなければならない。
するとどうなるか。
あら不思議。
今はヴェロニカの姦計で抑え込まれ力を失っている第一王女が復権し、さらには王位継承権までもが確定するという寸法だ。
ヴァルス禍を終息させ、さらには地位と権力を笠に着て王宮で好き勝手をしているヴェロニカ王女とその一派を一掃する。
1粒で2度おいしい、恐ろしいまでの一挙両得の策謀だった。
「そういうことじゃの。さすがミレイユ、理解が速くて助かるわい。で、どうじゃ? ヴェロニカ王女を恨むそなたにとっても、悪い話ではないと思うがの? 確か、やられたら十倍にしてやり返すのが、ミレイユの流儀じゃったろう?」
「それはもちろん、渡りに船ですけど……」
願ったり叶ったりとは、きっとこういうことを言うんだろう。
なにせヴェロニカはあんなでも一国の王女なのだ。
いくらわたしが王子であるジェイクの婚約者になろうとも、他国の王女を仕留めるのはそうは容易いことじゃない。
むしろわたしの身分が上がった分だけ、逆に下手なことはできなくなったまであった。
わたしが個人的な遺恨を王女であるヴェロニカにぶつけてしまえば、エルフィーナ王国とセラフィム王国が戦争――とまではいかなくても、敵対関係になったり、完全に交流が断絶してしまうかもしれないからだ。
そんなヴェロニカを完膚なきまでにざまぁする千載一遇の大チャンスが、何もせずに降って湧いたのだから、わたしとしては乗らない手はないんだけど――。
「で、どうじゃ?」
「そうですね……率直に言うと、なんだかちょっとお膳立てされすぎてて、嫌な感じ?」
わたしの空気を読まない発言に、
「そ、そうか……うむ……」
さすがのデルマイユ侯爵も言葉に詰まってしまい、
「ミレイユ……」
ここまで感心しながらデルマイユ侯爵の策略を聞いていたジェイクも、なんとも微妙な顔をする。
「まぁミレイユ様は、気持ちで戦うタイプですからね……」
さらにはここまで黙って会議を見守っていたアンナまでもが、呆れたようにそっと口をはさんだ。
でもでも、だってね?
「自分の関係ないところで全部決まってるのって、なんかこう、しっくりこないって言うか? いまいちモチベーションに繋がらないのよねぇ……」
「…………」
「…………」
「…………」
わたしのその発言で、沈黙が完全に場を支配してしまった。
でもね?
自分っていう船のオールは、他人任せにしたくはないじゃない?
言われたままに流される人間には、わたしなりたくないのよね。
だから何か強い動機づけになる理由が欲しいなぁ――って、あ、そうだ!
「ねぇ先生。ならわたしからもう一つだけ条件を付けるわ。それなら自分も積極的に関わったことだって思えるようになるし」
「おっ、それはいい考えだな。デルマイユ侯爵、こちらからさらに追加で条件を出させていただきたいのだが?」
ジェイクの問いかけに、
「良いでしょう。これもここだけの話じゃが、セラフィム王からはどれだけ譲歩しても構わぬと言われておるからの。それにせっかくの機会じゃ、ミレイユの想いを聞かせてもらうとしようかの」
デルマイユ侯爵が笑顔で答えた。
わたしの追加提案とはつまり――、
「えっとね。セラフィム王国で、エルフを二等市民と扱うのをやめてもらえないかしら?」
と言うことだった。
「ミレイユ、それは――」
「だってさ、ジェイク。人間とエルフは子供だって作れるのよ? なのになんで分ける必要があるのかって、前々からずっと思ってたんだよね」
「だけどそれはセラフィム王国の、国としての基盤にも関わることだ。さすがにすぐにホイホイとは決められない案件だと思うぞ」
「いいえ、だからこそ今なのよ。変えられるとしたら今この瞬間しかないの。ジェイクやアンナはすごくいい人たちだもん。人間とエルフってだけで分け隔てるなんて、あるべきじゃないと思うわ」
「ミレイユ様……」
「アンナ、わたしはあなたやジェイクたちが二等市民だなんて扱いを受けることに、ムカついてたんだから」
「ふむ…………」
わたしの提案を、デルマイユ侯爵は少しばかり長めに考えた後、
「わかった。ヴァルスが無事に終息したあかつきには、二等市民の制度を完全に廃止し、人間とエルフの平等な社会制度を構築することを約束しよう」
それを認めることに同意したのだった。
「さすが先生! ありがとうございます!」
「なーに、ミレイユは今やエルフィーナ王国の王太子妃じゃからの。ミレイユがセラフィム王国を救ったとなれば、そうは文句も出ないだろうて。施されたら施し返す、恩返しじゃよ」
「だってさ。良かったわねアンナ。これでもう二等市民だからってないがしろにされることはないわよ」
「あ、ありがとうございます、ミレイユ様! それにデルマイユ侯爵様!」
「いやいや、ワシも前からこの制度には問題ありと考えておったからの。この機会に改められるところは改めるというのは、セラフィム王国にとっても決して悪い話ではない」
というわけで。
その日のうちに、エルフィーナ王国とセラフィム王国との間で正式な合意文書が交わされて。
さらにその翌日には、わたしはデルマイユ侯爵の案内のもと、ジェイクとアンナと随行スタッフを伴って、セラフィム王国王都へと向かうことになった。
「ってことはつまり。わたしが取引に応じるための条件として、ヴェロニカ王女を廃嫡にすることにしてほしい、ってことですね?」
ヴァルスからセラフィム国を守るためには、聖女であるわたしが必要で。
そしてわたしがセラフィム王国に戻るには、遺恨のある第二王女のヴェロニカを廃嫡しなければならない。
するとどうなるか。
あら不思議。
今はヴェロニカの姦計で抑え込まれ力を失っている第一王女が復権し、さらには王位継承権までもが確定するという寸法だ。
ヴァルス禍を終息させ、さらには地位と権力を笠に着て王宮で好き勝手をしているヴェロニカ王女とその一派を一掃する。
1粒で2度おいしい、恐ろしいまでの一挙両得の策謀だった。
「そういうことじゃの。さすがミレイユ、理解が速くて助かるわい。で、どうじゃ? ヴェロニカ王女を恨むそなたにとっても、悪い話ではないと思うがの? 確か、やられたら十倍にしてやり返すのが、ミレイユの流儀じゃったろう?」
「それはもちろん、渡りに船ですけど……」
願ったり叶ったりとは、きっとこういうことを言うんだろう。
なにせヴェロニカはあんなでも一国の王女なのだ。
いくらわたしが王子であるジェイクの婚約者になろうとも、他国の王女を仕留めるのはそうは容易いことじゃない。
むしろわたしの身分が上がった分だけ、逆に下手なことはできなくなったまであった。
わたしが個人的な遺恨を王女であるヴェロニカにぶつけてしまえば、エルフィーナ王国とセラフィム王国が戦争――とまではいかなくても、敵対関係になったり、完全に交流が断絶してしまうかもしれないからだ。
そんなヴェロニカを完膚なきまでにざまぁする千載一遇の大チャンスが、何もせずに降って湧いたのだから、わたしとしては乗らない手はないんだけど――。
「で、どうじゃ?」
「そうですね……率直に言うと、なんだかちょっとお膳立てされすぎてて、嫌な感じ?」
わたしの空気を読まない発言に、
「そ、そうか……うむ……」
さすがのデルマイユ侯爵も言葉に詰まってしまい、
「ミレイユ……」
ここまで感心しながらデルマイユ侯爵の策略を聞いていたジェイクも、なんとも微妙な顔をする。
「まぁミレイユ様は、気持ちで戦うタイプですからね……」
さらにはここまで黙って会議を見守っていたアンナまでもが、呆れたようにそっと口をはさんだ。
でもでも、だってね?
「自分の関係ないところで全部決まってるのって、なんかこう、しっくりこないって言うか? いまいちモチベーションに繋がらないのよねぇ……」
「…………」
「…………」
「…………」
わたしのその発言で、沈黙が完全に場を支配してしまった。
でもね?
自分っていう船のオールは、他人任せにしたくはないじゃない?
言われたままに流される人間には、わたしなりたくないのよね。
だから何か強い動機づけになる理由が欲しいなぁ――って、あ、そうだ!
「ねぇ先生。ならわたしからもう一つだけ条件を付けるわ。それなら自分も積極的に関わったことだって思えるようになるし」
「おっ、それはいい考えだな。デルマイユ侯爵、こちらからさらに追加で条件を出させていただきたいのだが?」
ジェイクの問いかけに、
「良いでしょう。これもここだけの話じゃが、セラフィム王からはどれだけ譲歩しても構わぬと言われておるからの。それにせっかくの機会じゃ、ミレイユの想いを聞かせてもらうとしようかの」
デルマイユ侯爵が笑顔で答えた。
わたしの追加提案とはつまり――、
「えっとね。セラフィム王国で、エルフを二等市民と扱うのをやめてもらえないかしら?」
と言うことだった。
「ミレイユ、それは――」
「だってさ、ジェイク。人間とエルフは子供だって作れるのよ? なのになんで分ける必要があるのかって、前々からずっと思ってたんだよね」
「だけどそれはセラフィム王国の、国としての基盤にも関わることだ。さすがにすぐにホイホイとは決められない案件だと思うぞ」
「いいえ、だからこそ今なのよ。変えられるとしたら今この瞬間しかないの。ジェイクやアンナはすごくいい人たちだもん。人間とエルフってだけで分け隔てるなんて、あるべきじゃないと思うわ」
「ミレイユ様……」
「アンナ、わたしはあなたやジェイクたちが二等市民だなんて扱いを受けることに、ムカついてたんだから」
「ふむ…………」
わたしの提案を、デルマイユ侯爵は少しばかり長めに考えた後、
「わかった。ヴァルスが無事に終息したあかつきには、二等市民の制度を完全に廃止し、人間とエルフの平等な社会制度を構築することを約束しよう」
それを認めることに同意したのだった。
「さすが先生! ありがとうございます!」
「なーに、ミレイユは今やエルフィーナ王国の王太子妃じゃからの。ミレイユがセラフィム王国を救ったとなれば、そうは文句も出ないだろうて。施されたら施し返す、恩返しじゃよ」
「だってさ。良かったわねアンナ。これでもう二等市民だからってないがしろにされることはないわよ」
「あ、ありがとうございます、ミレイユ様! それにデルマイユ侯爵様!」
「いやいや、ワシも前からこの制度には問題ありと考えておったからの。この機会に改められるところは改めるというのは、セラフィム王国にとっても決して悪い話ではない」
というわけで。
その日のうちに、エルフィーナ王国とセラフィム王国との間で正式な合意文書が交わされて。
さらにその翌日には、わたしはデルマイユ侯爵の案内のもと、ジェイクとアンナと随行スタッフを伴って、セラフィム王国王都へと向かうことになった。
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