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最終章 聖女凱旋
第54話 先生(デルマイユ侯爵)
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「先生、やっぱり先生だったんですね! お久しぶりです!」
会議室に入室したわたしは、特命大使の顔を見てすぐに喜びの声を上げた。
「おお、これはこれは聖女ミレイユ様、ご無沙汰しております。お変わりがないようで重畳にございます」
「先生こそお変わりなく――ってなんですかその話し方は? 普通に話してくださいよ?」
「ははは。聖女であるだけでなく、今やエルフィーナ王国の王太子ジェイク様の婚約者でもあるミレイユ様ですからな。失礼を働くわけにはまいりません」
「もう、そういうのは止めてください。わたしと先生の仲じゃないですか。せっかく会えたのに、それじゃあなんだか距離を感じちゃいます。ねぇジェイク、いいわよね?」
「え、ああ、ミレイユが良いんなら良いんじゃないか? っていうか知り合いなのか?」
いきなりの展開についていけないところに突然、話を振られたジェイクがやや困惑顔で答えた。
「デルマイユ侯爵はわたしの恩師なのよ。ね、そういうことだから先生も普通に話してくださいな」
「ではお言葉に甘えて――ミレイユ、久しぶりじゃの。最後に会ったのは王都を追放されると言いに来た時だったから、かれこれ二か月になるかの。それがまさかこんなことになっているとはのぅ」
「まぁその、色々ありまして――」
わたしとデルマイユ侯爵は再会を喜びながら、積もる話に花を咲かせた。
特にわたしときたら、追放されてからの2か月ちょっとの間、本当に波乱万丈の濃密すぎる人生を過ごしてきたわけで。
途中、ジェイクとの馴れ初めなんかは特に盛り上がって、話題が尽きることはなかった。
しばらく世間話を楽しんだ後、
「それで本題なのじゃが」
デルマイユ侯爵は少しだけ居住まいを正すと、切り出した。
「まぁなんとなくですが想像はつきます。わたしにセラフィム王国に戻って『破邪の結界』を直してほしいってことですよね?」
「端的に言うとそういうことじゃの。ミレイユの力でセラフィム王国を救ってほしいのじゃ」
「うーん……ヴェロニカ王女の尻拭いをさせられるみたいで嫌だなぁ……」
わたしは率直な感想を言った。
だってヴェロニカの手助けだけは死んでもごめんって言うか?
あの女だけはもう絶対の絶対に許さないって誓ったから。
絶対に許さないノートの一番上にのっけてるから。
でもでも、他ならぬ先生――デルマイユ侯爵の頼みだもんなぁ……。
うーん、うーん…………。
絶対に許せない相手の尻拭いと、大恩ある恩人のたってのお願い。
2つを天秤にかけてわたしが下した結論は――、
「まぁ、先生のお願いでしたら――」
ヴェロニカ王女だけは、世界が滅びようが空が落ちてこようが絶対に許せないけど。
それでもデルマイユ侯爵への恩義が、ほんのわずかにかろうじて猫の額ほどだけど、それを上回ったのだ。
そういうわけで、わたしは恩師であるデルマイユ侯爵の顔を立てようとしたんだけど――、
「いやいや、ミレイユの怒りももっともだ。最低でもヴェロニカ王女には相応の報いを受けてもらわねば、ミレイユとしても協力できるものもできないであろう」
「え? いえ、わたしは協力しま――」
同意しようとするわたしの言葉を、しかしデルマイユ侯爵がさえぎった。
「ミレイユよ。ワシはの、これを機会にしてセラフィム王国も変わらねばならぬと思っておるのじゃよ」
「えっと……?」
急になんの話?
「ヴェロニカ王女のような民を家畜とでも思っている者が王宮で幅を利かせ、政治を当たり前のようにねじ曲げることが正しいと、ミレイユは思うかな?」
「まったく思いませんね」
あの恥知らずな王女を擁護する余地は元よりゼロだったので、わたしはきっぱりと即答した。
「それなら話は早い。これはここだけの話にしてほしいのだが、既にセラフィム王には確約を取り付けてあるのじゃ。ミレイユを連れ戻すためにヴェロニカ王女を廃嫡しても構わぬとな」
「それってまさか――」
ここに至ってやっと、わたしはデルマイユ侯爵の真の狙いを理解した。
狙いって言うか、これはもう国の根幹にまでかかわってくる大計略だ――!
会議室に入室したわたしは、特命大使の顔を見てすぐに喜びの声を上げた。
「おお、これはこれは聖女ミレイユ様、ご無沙汰しております。お変わりがないようで重畳にございます」
「先生こそお変わりなく――ってなんですかその話し方は? 普通に話してくださいよ?」
「ははは。聖女であるだけでなく、今やエルフィーナ王国の王太子ジェイク様の婚約者でもあるミレイユ様ですからな。失礼を働くわけにはまいりません」
「もう、そういうのは止めてください。わたしと先生の仲じゃないですか。せっかく会えたのに、それじゃあなんだか距離を感じちゃいます。ねぇジェイク、いいわよね?」
「え、ああ、ミレイユが良いんなら良いんじゃないか? っていうか知り合いなのか?」
いきなりの展開についていけないところに突然、話を振られたジェイクがやや困惑顔で答えた。
「デルマイユ侯爵はわたしの恩師なのよ。ね、そういうことだから先生も普通に話してくださいな」
「ではお言葉に甘えて――ミレイユ、久しぶりじゃの。最後に会ったのは王都を追放されると言いに来た時だったから、かれこれ二か月になるかの。それがまさかこんなことになっているとはのぅ」
「まぁその、色々ありまして――」
わたしとデルマイユ侯爵は再会を喜びながら、積もる話に花を咲かせた。
特にわたしときたら、追放されてからの2か月ちょっとの間、本当に波乱万丈の濃密すぎる人生を過ごしてきたわけで。
途中、ジェイクとの馴れ初めなんかは特に盛り上がって、話題が尽きることはなかった。
しばらく世間話を楽しんだ後、
「それで本題なのじゃが」
デルマイユ侯爵は少しだけ居住まいを正すと、切り出した。
「まぁなんとなくですが想像はつきます。わたしにセラフィム王国に戻って『破邪の結界』を直してほしいってことですよね?」
「端的に言うとそういうことじゃの。ミレイユの力でセラフィム王国を救ってほしいのじゃ」
「うーん……ヴェロニカ王女の尻拭いをさせられるみたいで嫌だなぁ……」
わたしは率直な感想を言った。
だってヴェロニカの手助けだけは死んでもごめんって言うか?
あの女だけはもう絶対の絶対に許さないって誓ったから。
絶対に許さないノートの一番上にのっけてるから。
でもでも、他ならぬ先生――デルマイユ侯爵の頼みだもんなぁ……。
うーん、うーん…………。
絶対に許せない相手の尻拭いと、大恩ある恩人のたってのお願い。
2つを天秤にかけてわたしが下した結論は――、
「まぁ、先生のお願いでしたら――」
ヴェロニカ王女だけは、世界が滅びようが空が落ちてこようが絶対に許せないけど。
それでもデルマイユ侯爵への恩義が、ほんのわずかにかろうじて猫の額ほどだけど、それを上回ったのだ。
そういうわけで、わたしは恩師であるデルマイユ侯爵の顔を立てようとしたんだけど――、
「いやいや、ミレイユの怒りももっともだ。最低でもヴェロニカ王女には相応の報いを受けてもらわねば、ミレイユとしても協力できるものもできないであろう」
「え? いえ、わたしは協力しま――」
同意しようとするわたしの言葉を、しかしデルマイユ侯爵がさえぎった。
「ミレイユよ。ワシはの、これを機会にしてセラフィム王国も変わらねばならぬと思っておるのじゃよ」
「えっと……?」
急になんの話?
「ヴェロニカ王女のような民を家畜とでも思っている者が王宮で幅を利かせ、政治を当たり前のようにねじ曲げることが正しいと、ミレイユは思うかな?」
「まったく思いませんね」
あの恥知らずな王女を擁護する余地は元よりゼロだったので、わたしはきっぱりと即答した。
「それなら話は早い。これはここだけの話にしてほしいのだが、既にセラフィム王には確約を取り付けてあるのじゃ。ミレイユを連れ戻すためにヴェロニカ王女を廃嫡しても構わぬとな」
「それってまさか――」
ここに至ってやっと、わたしはデルマイユ侯爵の真の狙いを理解した。
狙いって言うか、これはもう国の根幹にまでかかわってくる大計略だ――!
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