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最終章 聖女凱旋
第50話 ~アンドレアス&ヴェロニカSIDE~ 3(2)
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アンドレアスは思わず舌打ちしそうになった。
完全に言質をとられてしまったからだ。
もちろん事態を上手く収めることができれば、アンドレアス&ヴェロニカの地位はこれ以上なく盤石となるだろう。
しかしすでに死に体の第一王女派にとっては、アンドレアスたちが更なる功績を上げようがただの現状維持の延長であって、痛くもかゆくもないのである。
だがアンドレアスがこの件を処理できなければ、もはや失脚は免れない。
そうなれば第一王女派は、一気に息を吹き返してしまう。
今、アンドレアスとヴェロニカは、第一王女派から一発逆転を狙った最後の大勝負を仕掛けられているのだった。
「そういえば『破邪の聖女』は、先代のミレイユ様が追放された後は、アンドレアス殿の婚約者であるヴェロニカ王女が務められておりましたな」
執拗に責められ続けた会議がやっと終わる――アンドレアスがホッしかけた瞬間に、デルマイユ侯爵がさも今思いついことのように声をかけてきた。
「う、うむ、それがなにか?」
「でしたら話は早うございますな。ヴァルスで苦しむ国民のためにも、ヴェロニカ王女に1日でも早く『破邪の結界』を再起動していただくように、婚約者であるアンドレアス殿からもお願いいただきたく」
わざわざ『婚約者である』という部分を、ことさらに強調するように言ったデルマイユ侯爵に、
「もちろん、わかっているとも」
アンドレアスはそう答えるしかなかった。
「いやはや、アンドレアス殿の婚約者であるヴェロニカ王女が『破邪の聖女』であったことは、不幸中の幸いですな」
ぐぬ……!
くそっ、このタヌキ親父めが!
聖女としての力がないのに『破邪の聖女』を語り、このヴァルスによる未曽有の国難を招いたとあれば、たとえヴェロニカが王女であっても極刑か、良くても王族の身分を剥奪のうえ国外追放は免れないだろう。
そして自分は失脚どころか、まず間違いなく死罪になる。
そしてヴェロニカが『破邪の聖女』としての力をもっていないことを、この老獪な老貴族が知らないはずがなかった。
『破邪の結界』の再起動などできないと確信した上で、こんな猿芝居を打っているのだ。
全てはアンドレアスもろとも、ヴェロニカ王女を王位継承争いから完全に叩き落とすために――!
事ここに至っては、もはや言い逃れはできなかった。
この会議に参加した全てのメンバーが、今の一連のやりとりを聞いていたのだから。
書記官に至っては、発言者とその内容をまとめた議事録まで作成している。
アンドレアスがこの先生きのこるには、『破邪の結界』無しで何がなんでもヴァルスを収めてみせるしかないのだが──。
そんなことができたら、今ごろこんな苦労などはしていないわけで。
このヴァルス禍による失政の全責任を負い。
さらには偽の聖女を語った国家反逆罪まで問われるなどとは、ついぞ一月前は考えもしていなかった。
我が世の春を謳歌していた自分が今、天国から地獄への片道切符を握りしめていることを、アンドレアスは理解し始めていた。
しかし完全に八方ふさがりのアンドレアスには、もはや解決するための手段は残されておらず。
それはつまるところ、アンドレアスにはもう身の破滅しか残されていないということに他ならないのであった――。
完全に言質をとられてしまったからだ。
もちろん事態を上手く収めることができれば、アンドレアス&ヴェロニカの地位はこれ以上なく盤石となるだろう。
しかしすでに死に体の第一王女派にとっては、アンドレアスたちが更なる功績を上げようがただの現状維持の延長であって、痛くもかゆくもないのである。
だがアンドレアスがこの件を処理できなければ、もはや失脚は免れない。
そうなれば第一王女派は、一気に息を吹き返してしまう。
今、アンドレアスとヴェロニカは、第一王女派から一発逆転を狙った最後の大勝負を仕掛けられているのだった。
「そういえば『破邪の聖女』は、先代のミレイユ様が追放された後は、アンドレアス殿の婚約者であるヴェロニカ王女が務められておりましたな」
執拗に責められ続けた会議がやっと終わる――アンドレアスがホッしかけた瞬間に、デルマイユ侯爵がさも今思いついことのように声をかけてきた。
「う、うむ、それがなにか?」
「でしたら話は早うございますな。ヴァルスで苦しむ国民のためにも、ヴェロニカ王女に1日でも早く『破邪の結界』を再起動していただくように、婚約者であるアンドレアス殿からもお願いいただきたく」
わざわざ『婚約者である』という部分を、ことさらに強調するように言ったデルマイユ侯爵に、
「もちろん、わかっているとも」
アンドレアスはそう答えるしかなかった。
「いやはや、アンドレアス殿の婚約者であるヴェロニカ王女が『破邪の聖女』であったことは、不幸中の幸いですな」
ぐぬ……!
くそっ、このタヌキ親父めが!
聖女としての力がないのに『破邪の聖女』を語り、このヴァルスによる未曽有の国難を招いたとあれば、たとえヴェロニカが王女であっても極刑か、良くても王族の身分を剥奪のうえ国外追放は免れないだろう。
そして自分は失脚どころか、まず間違いなく死罪になる。
そしてヴェロニカが『破邪の聖女』としての力をもっていないことを、この老獪な老貴族が知らないはずがなかった。
『破邪の結界』の再起動などできないと確信した上で、こんな猿芝居を打っているのだ。
全てはアンドレアスもろとも、ヴェロニカ王女を王位継承争いから完全に叩き落とすために――!
事ここに至っては、もはや言い逃れはできなかった。
この会議に参加した全てのメンバーが、今の一連のやりとりを聞いていたのだから。
書記官に至っては、発言者とその内容をまとめた議事録まで作成している。
アンドレアスがこの先生きのこるには、『破邪の結界』無しで何がなんでもヴァルスを収めてみせるしかないのだが──。
そんなことができたら、今ごろこんな苦労などはしていないわけで。
このヴァルス禍による失政の全責任を負い。
さらには偽の聖女を語った国家反逆罪まで問われるなどとは、ついぞ一月前は考えもしていなかった。
我が世の春を謳歌していた自分が今、天国から地獄への片道切符を握りしめていることを、アンドレアスは理解し始めていた。
しかし完全に八方ふさがりのアンドレアスには、もはや解決するための手段は残されておらず。
それはつまるところ、アンドレアスにはもう身の破滅しか残されていないということに他ならないのであった――。
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