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第四章 王宮のミレイユ
第45話 お肉
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「む……っ!? むむ……っ!? むむむむむむむむ…………っっ!!??」
わたしは着替えの途中に姿見を見て、ふと、あることに気が付いた。
気が付いてしまった。
ものすごく大変かつ大事なことだった。
ある意味、事件だった。
その事実に恐れおののいていた。
というのも――、
「な、なんだかお腹に、ついてはいけないお肉がついてしまってる気がする……」
わたしは、そっとお腹の肉をつまんでみた。
するとどうだろう、今までつまめなかったものが、ヒョイとつまめてしまったのだ――!
「ひぃぃぃっ!? さ、最近することがなくてダラダラと過ごしがちだったとはいえ、こ、これはまずいわ……」
明らかに太り始めていた。
危険な兆候だった。
あ、でも違うんだよ?
これから何をすべきか見定めるためのダラダラ期間であって、目的のあるダラダラだったんだから。
ほんとだよ?
自分を見つめなおすための時間って言うの?
ある種の自分探しってやつかな?
「で、でも理由はどうあれ、改めて見てみると、なんとなくほっぺも少しふっくらとしてるような……」
わたしはいても立ってもいられなくなって、慌ててジェイクの描いたわたしの肖像画を見に行った。
あの時描いてもらった絵と、今の自分の姿を見比べると――くぅっ、なんてこと!?
やっぱり少しふっくらとしちゃってるじゃない……!
「これはいけないわ……!!」
わたしはこっそりと、お付きメイドであるアンナを呼んだ。
「――と、言うわけなのよ。極秘裏のうちに、可及的速やかに痩せたいんだけど、どうしたらいいかしら? あ、他言は無用だからね?」
「うーん、ミレイユ様はお綺麗ですし、そこまで太ったようには見えませんけど……。でもそうですね、でしたら運動されるのが一番じゃないでしょうか? 脂肪を燃焼させて、代わりに代謝の多い筋肉を付けましょう」
「運動はあまり好きじゃないのよね、しんどいし……わたしは完全なインドア派っていうか?」
というかほとんど外に出ないレベルだし。
「そんなに本格的にやらなくても、軽くテニスをするくらいから始めればいいかと思いますよ? 技術の習得を頑張るんじゃなくて、まずは楽しく身体を動かすんです」
「テニスねぇ……、ねぇ、アンナはテニスできるの? ちなみにわたしはへっぽこなんだけど。って言うか、ほとんどやったことないし」
「私はそれなりにはできますよ。わりとなんでもやれちゃうタイプなので」
「アンナは器用だものね……うん、じゃあちょっとアンナに相手してもらおうかしら」
「それではラケットやボールの用意をしてきますね」
◆
ってなわけで、わたしとアンナは王宮の庭園の隅にあるテニスコートへとやってきていた。
雰囲気を出すために、2人ともテニスウェアに着替えている。
アンナの用意してくれた薄いピンクのポロシャツ&ミニスカートは、クールなスポーティな中にちょい甘が入ってて、うん、なかなかカッコカワイイじゃないの。
「よくお似合いですよ」
「ありがとう。アンナもよく似合ってるわよ」
「えへへ、ありがとうございます」
そして10代ティーンエイジャーとは思えないわたしのガッチガチに硬い身体を、アンナに手伝ってもらって入念に準備運動してほぐしてから、
「ミレイユ様、行きますよ~」
パコン。
アンナが緩い山なりのサーブを打った。
わたしのラケットがちょうどいい感じに届くところに、ボールが飛んでくる。
ペコン。
それをへろへろ~っと打ちかえすわたし。
力ない打球がどうにか相手側コートの中に落ちる。
パコン。
さらにそれをアンナが山なりで、わたしの打ちやすいところに向かって打ちかえしてくる。
ペコン。
さらにそれをへろへろ~っと打ちかえすわたし。
アンナが優しく丁寧に、わたしの打ちやすいところに返してくれるおかげで、どうにかラリーは続き、一応テニスをしてるように見えなくもないはず――だと思う――多分。
だけど、そんなアンナの甲斐甲斐しいお膳立てがありながらも、悲しいかな、
「はぁ、はぁ……ぜぇ、はぁ……」
それをたった数分足らず行っただけで、わたしの息は完全に上がってしまっていた。
「ミレイユ様、そこですスマッシュ!」
高々と浮いたボールを、
「ぜぇぜぇ……えいやっ!」
わたしは華麗に叩きつけた――つもりが、微妙な威力のボールが、微妙なとこに飛んでいく。
それでも傍から見れば、一応スマッシュに見えなくもなかった……はず。
「ナイススマッシュでーす」
そしてアンナは一歩も動かずにそれを見送っていた。
どこに出しても恥ずかしくない、完璧なまでの接待プレーだった。
でもそれくらいしてもらわないとまったく相手にならないし、すでに口は半開きで、肩を大きく上下させながら、息も絶え絶えなわたし……。
「ぜー、はー、ぜー、はー……。だめ、もうだめ、ぜー、ぜー、限界……吐きそう……」
開始10分ももたずに、わたしがみっともなくコートにへばりこんだ時だった、
「ミレイユ、アンナ、楽しそうだな!」
テニスコートにジェイクが現れたのは。
わたしは着替えの途中に姿見を見て、ふと、あることに気が付いた。
気が付いてしまった。
ものすごく大変かつ大事なことだった。
ある意味、事件だった。
その事実に恐れおののいていた。
というのも――、
「な、なんだかお腹に、ついてはいけないお肉がついてしまってる気がする……」
わたしは、そっとお腹の肉をつまんでみた。
するとどうだろう、今までつまめなかったものが、ヒョイとつまめてしまったのだ――!
「ひぃぃぃっ!? さ、最近することがなくてダラダラと過ごしがちだったとはいえ、こ、これはまずいわ……」
明らかに太り始めていた。
危険な兆候だった。
あ、でも違うんだよ?
これから何をすべきか見定めるためのダラダラ期間であって、目的のあるダラダラだったんだから。
ほんとだよ?
自分を見つめなおすための時間って言うの?
ある種の自分探しってやつかな?
「で、でも理由はどうあれ、改めて見てみると、なんとなくほっぺも少しふっくらとしてるような……」
わたしはいても立ってもいられなくなって、慌ててジェイクの描いたわたしの肖像画を見に行った。
あの時描いてもらった絵と、今の自分の姿を見比べると――くぅっ、なんてこと!?
やっぱり少しふっくらとしちゃってるじゃない……!
「これはいけないわ……!!」
わたしはこっそりと、お付きメイドであるアンナを呼んだ。
「――と、言うわけなのよ。極秘裏のうちに、可及的速やかに痩せたいんだけど、どうしたらいいかしら? あ、他言は無用だからね?」
「うーん、ミレイユ様はお綺麗ですし、そこまで太ったようには見えませんけど……。でもそうですね、でしたら運動されるのが一番じゃないでしょうか? 脂肪を燃焼させて、代わりに代謝の多い筋肉を付けましょう」
「運動はあまり好きじゃないのよね、しんどいし……わたしは完全なインドア派っていうか?」
というかほとんど外に出ないレベルだし。
「そんなに本格的にやらなくても、軽くテニスをするくらいから始めればいいかと思いますよ? 技術の習得を頑張るんじゃなくて、まずは楽しく身体を動かすんです」
「テニスねぇ……、ねぇ、アンナはテニスできるの? ちなみにわたしはへっぽこなんだけど。って言うか、ほとんどやったことないし」
「私はそれなりにはできますよ。わりとなんでもやれちゃうタイプなので」
「アンナは器用だものね……うん、じゃあちょっとアンナに相手してもらおうかしら」
「それではラケットやボールの用意をしてきますね」
◆
ってなわけで、わたしとアンナは王宮の庭園の隅にあるテニスコートへとやってきていた。
雰囲気を出すために、2人ともテニスウェアに着替えている。
アンナの用意してくれた薄いピンクのポロシャツ&ミニスカートは、クールなスポーティな中にちょい甘が入ってて、うん、なかなかカッコカワイイじゃないの。
「よくお似合いですよ」
「ありがとう。アンナもよく似合ってるわよ」
「えへへ、ありがとうございます」
そして10代ティーンエイジャーとは思えないわたしのガッチガチに硬い身体を、アンナに手伝ってもらって入念に準備運動してほぐしてから、
「ミレイユ様、行きますよ~」
パコン。
アンナが緩い山なりのサーブを打った。
わたしのラケットがちょうどいい感じに届くところに、ボールが飛んでくる。
ペコン。
それをへろへろ~っと打ちかえすわたし。
力ない打球がどうにか相手側コートの中に落ちる。
パコン。
さらにそれをアンナが山なりで、わたしの打ちやすいところに向かって打ちかえしてくる。
ペコン。
さらにそれをへろへろ~っと打ちかえすわたし。
アンナが優しく丁寧に、わたしの打ちやすいところに返してくれるおかげで、どうにかラリーは続き、一応テニスをしてるように見えなくもないはず――だと思う――多分。
だけど、そんなアンナの甲斐甲斐しいお膳立てがありながらも、悲しいかな、
「はぁ、はぁ……ぜぇ、はぁ……」
それをたった数分足らず行っただけで、わたしの息は完全に上がってしまっていた。
「ミレイユ様、そこですスマッシュ!」
高々と浮いたボールを、
「ぜぇぜぇ……えいやっ!」
わたしは華麗に叩きつけた――つもりが、微妙な威力のボールが、微妙なとこに飛んでいく。
それでも傍から見れば、一応スマッシュに見えなくもなかった……はず。
「ナイススマッシュでーす」
そしてアンナは一歩も動かずにそれを見送っていた。
どこに出しても恥ずかしくない、完璧なまでの接待プレーだった。
でもそれくらいしてもらわないとまったく相手にならないし、すでに口は半開きで、肩を大きく上下させながら、息も絶え絶えなわたし……。
「ぜー、はー、ぜー、はー……。だめ、もうだめ、ぜー、ぜー、限界……吐きそう……」
開始10分ももたずに、わたしがみっともなくコートにへばりこんだ時だった、
「ミレイユ、アンナ、楽しそうだな!」
テニスコートにジェイクが現れたのは。
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