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第四章 王宮のミレイユ
第43話 ニートする聖女
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そういうわけで、することがなさ過ぎたわたしは、王宮のあちらこちらをふらふら~と見て回ってたんだけど――、
貴族A「聖女さま、本日もお勤めご苦労様です」
わたし「ありがとうございます。みなさんもお勤めご苦労様です」
官僚B「ミレイユ様、本日もご機嫌麗しゅう。何か御用でしょうか? 何なりとお申し付けくださいませ、すぐに手配いたしますので」
わたし「あ、いえ、特にそういうわけないんです……」
宮廷幹部職員C「ミレイユ様、このようなところまで足を運ばれなくとも、誰かに言付けいただければすぐに用向きに伺いますぞ」
わたし「ああ、うん、ありがとう。でも今はそういうのじゃないから大丈夫。またお願いするわね」
メイドD(というかアンナ)「ミレイユ様、こんなところでどうされたんですか? そろそろお腹が減りましたか?」
わたし「あ、ちょっとね……。でも食いしん坊みたいに言うのは、遠慮してくれると嬉しいかな……」
メイドD(というかアンナ)「ジェイク様をお探しなのでしたら、今日の分の勉強は終えて、今ごろはきっと裏手の庭園で休憩されてますよ。ジェイク様のお気に入りの場所なんです」
わたし「あらそう。じゃあちょっと行ってみようかしら……」
貴族から官僚から宮廷職員からメイドさん(というかアンナ)に至るまで、出会った人のほとんど全員から、わたしは仕事をしている前提で声をかけられてしまったのだ。
「うーん……なんだかどこも居づらいわね。まさかすることがなくてうろついてるだなんて、とてもじゃないけど言えないし……」
そういうわけでアンナから聞いた情報をもとに、わたしは王宮の裏側の入り口を出てすぐにある、小さな庭園へとやってきていた。
すると、
「お、ミレイユじゃないか? 奇遇だな」
すぐにジェイクが気付いて声をかけてきた。
ジェイクは鉛筆で、シャッシャとキャンバスにスケッチをしていた。
庭園の花でも描いているのかな?
「ジェイクは絵を描いてるの? その大きなバラかしら?」
「いいや、猫を描いてたんだ」
「猫? 猫なんてどこにもいないじゃない?」
軽く見回して見たけど、それらしき姿は見当たらない。
「さっきまでいたんだよ。ミレイユが来たらびっくりして逃げちゃったんだ」
「うっ、そ、それは悪かったわね、邪魔しちゃったみたいで。昔から動物には好かれない性質なのよね。うーん、わたし動物好きなのに、なんでなんだろう?」
「性格がきついところ……かな?」
「ごめ、なにか言った?」
「い、いや? なにも言ってないぞ?」
「そう?」
何か聞こえた気がしたけど、まぁいいや。
「話は戻るんだけど、もうほとんど描き終わってたから問題ないよ。それに落書きみたいなもんだし」
「へー、せっかくだしちょっと見せてよ。ジェイクがどんな絵を描いてるのか気になるし」
「いいぞ、ほら」
そう言って向けられたキャンバスを、興味本位の軽い気持ちで覗きこんでみると――、
「はいぃっ!? なにこれ上手っ!? え、これジェイクが描いたの!?」
そこには白黒だけで描かれた、だけどこれ以上なく見事な猫の絵があったのだ!
立体的で写実的で、まるで今にも飛び出してきそうなリアリティの高さ――わたしみたいな美術の素人でも分かるほどに、際立つほどの上手さだった。
「ミレイユにそこまで褒められると、なんだか照れくさいな」
「わたしだっていいものはちゃんと褒めるわよ! いやでも本当に上手ね。ねぇねぇ、これって売ったり飾ったりするのかしら?」
「適当に描いただけだから、スケッチブックを使い終わったらそのまま棚にしまうよ」
「なんてもったいない! じゃあわたし、これもらってもいい? 猫好きなのよねー」
「別に構わないけど。そんなに気に入ってくれたのなら、良かったら他の絵も見てみるか?」
「いいの? ぜひ見てみたいわ!」
というわけで。
わたしはジェイクに連れられて、ジェイクの私室に絵を見せてもらいに行くことにした。
貴族A「聖女さま、本日もお勤めご苦労様です」
わたし「ありがとうございます。みなさんもお勤めご苦労様です」
官僚B「ミレイユ様、本日もご機嫌麗しゅう。何か御用でしょうか? 何なりとお申し付けくださいませ、すぐに手配いたしますので」
わたし「あ、いえ、特にそういうわけないんです……」
宮廷幹部職員C「ミレイユ様、このようなところまで足を運ばれなくとも、誰かに言付けいただければすぐに用向きに伺いますぞ」
わたし「ああ、うん、ありがとう。でも今はそういうのじゃないから大丈夫。またお願いするわね」
メイドD(というかアンナ)「ミレイユ様、こんなところでどうされたんですか? そろそろお腹が減りましたか?」
わたし「あ、ちょっとね……。でも食いしん坊みたいに言うのは、遠慮してくれると嬉しいかな……」
メイドD(というかアンナ)「ジェイク様をお探しなのでしたら、今日の分の勉強は終えて、今ごろはきっと裏手の庭園で休憩されてますよ。ジェイク様のお気に入りの場所なんです」
わたし「あらそう。じゃあちょっと行ってみようかしら……」
貴族から官僚から宮廷職員からメイドさん(というかアンナ)に至るまで、出会った人のほとんど全員から、わたしは仕事をしている前提で声をかけられてしまったのだ。
「うーん……なんだかどこも居づらいわね。まさかすることがなくてうろついてるだなんて、とてもじゃないけど言えないし……」
そういうわけでアンナから聞いた情報をもとに、わたしは王宮の裏側の入り口を出てすぐにある、小さな庭園へとやってきていた。
すると、
「お、ミレイユじゃないか? 奇遇だな」
すぐにジェイクが気付いて声をかけてきた。
ジェイクは鉛筆で、シャッシャとキャンバスにスケッチをしていた。
庭園の花でも描いているのかな?
「ジェイクは絵を描いてるの? その大きなバラかしら?」
「いいや、猫を描いてたんだ」
「猫? 猫なんてどこにもいないじゃない?」
軽く見回して見たけど、それらしき姿は見当たらない。
「さっきまでいたんだよ。ミレイユが来たらびっくりして逃げちゃったんだ」
「うっ、そ、それは悪かったわね、邪魔しちゃったみたいで。昔から動物には好かれない性質なのよね。うーん、わたし動物好きなのに、なんでなんだろう?」
「性格がきついところ……かな?」
「ごめ、なにか言った?」
「い、いや? なにも言ってないぞ?」
「そう?」
何か聞こえた気がしたけど、まぁいいや。
「話は戻るんだけど、もうほとんど描き終わってたから問題ないよ。それに落書きみたいなもんだし」
「へー、せっかくだしちょっと見せてよ。ジェイクがどんな絵を描いてるのか気になるし」
「いいぞ、ほら」
そう言って向けられたキャンバスを、興味本位の軽い気持ちで覗きこんでみると――、
「はいぃっ!? なにこれ上手っ!? え、これジェイクが描いたの!?」
そこには白黒だけで描かれた、だけどこれ以上なく見事な猫の絵があったのだ!
立体的で写実的で、まるで今にも飛び出してきそうなリアリティの高さ――わたしみたいな美術の素人でも分かるほどに、際立つほどの上手さだった。
「ミレイユにそこまで褒められると、なんだか照れくさいな」
「わたしだっていいものはちゃんと褒めるわよ! いやでも本当に上手ね。ねぇねぇ、これって売ったり飾ったりするのかしら?」
「適当に描いただけだから、スケッチブックを使い終わったらそのまま棚にしまうよ」
「なんてもったいない! じゃあわたし、これもらってもいい? 猫好きなのよねー」
「別に構わないけど。そんなに気に入ってくれたのなら、良かったら他の絵も見てみるか?」
「いいの? ぜひ見てみたいわ!」
というわけで。
わたしはジェイクに連れられて、ジェイクの私室に絵を見せてもらいに行くことにした。
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