43 / 66
第四章 王宮のミレイユ
第43話 ニートする聖女
しおりを挟む
そういうわけで、することがなさ過ぎたわたしは、王宮のあちらこちらをふらふら~と見て回ってたんだけど――、
貴族A「聖女さま、本日もお勤めご苦労様です」
わたし「ありがとうございます。みなさんもお勤めご苦労様です」
官僚B「ミレイユ様、本日もご機嫌麗しゅう。何か御用でしょうか? 何なりとお申し付けくださいませ、すぐに手配いたしますので」
わたし「あ、いえ、特にそういうわけないんです……」
宮廷幹部職員C「ミレイユ様、このようなところまで足を運ばれなくとも、誰かに言付けいただければすぐに用向きに伺いますぞ」
わたし「ああ、うん、ありがとう。でも今はそういうのじゃないから大丈夫。またお願いするわね」
メイドD(というかアンナ)「ミレイユ様、こんなところでどうされたんですか? そろそろお腹が減りましたか?」
わたし「あ、ちょっとね……。でも食いしん坊みたいに言うのは、遠慮してくれると嬉しいかな……」
メイドD(というかアンナ)「ジェイク様をお探しなのでしたら、今日の分の勉強は終えて、今ごろはきっと裏手の庭園で休憩されてますよ。ジェイク様のお気に入りの場所なんです」
わたし「あらそう。じゃあちょっと行ってみようかしら……」
貴族から官僚から宮廷職員からメイドさん(というかアンナ)に至るまで、出会った人のほとんど全員から、わたしは仕事をしている前提で声をかけられてしまったのだ。
「うーん……なんだかどこも居づらいわね。まさかすることがなくてうろついてるだなんて、とてもじゃないけど言えないし……」
そういうわけでアンナから聞いた情報をもとに、わたしは王宮の裏側の入り口を出てすぐにある、小さな庭園へとやってきていた。
すると、
「お、ミレイユじゃないか? 奇遇だな」
すぐにジェイクが気付いて声をかけてきた。
ジェイクは鉛筆で、シャッシャとキャンバスにスケッチをしていた。
庭園の花でも描いているのかな?
「ジェイクは絵を描いてるの? その大きなバラかしら?」
「いいや、猫を描いてたんだ」
「猫? 猫なんてどこにもいないじゃない?」
軽く見回して見たけど、それらしき姿は見当たらない。
「さっきまでいたんだよ。ミレイユが来たらびっくりして逃げちゃったんだ」
「うっ、そ、それは悪かったわね、邪魔しちゃったみたいで。昔から動物には好かれない性質なのよね。うーん、わたし動物好きなのに、なんでなんだろう?」
「性格がきついところ……かな?」
「ごめ、なにか言った?」
「い、いや? なにも言ってないぞ?」
「そう?」
何か聞こえた気がしたけど、まぁいいや。
「話は戻るんだけど、もうほとんど描き終わってたから問題ないよ。それに落書きみたいなもんだし」
「へー、せっかくだしちょっと見せてよ。ジェイクがどんな絵を描いてるのか気になるし」
「いいぞ、ほら」
そう言って向けられたキャンバスを、興味本位の軽い気持ちで覗きこんでみると――、
「はいぃっ!? なにこれ上手っ!? え、これジェイクが描いたの!?」
そこには白黒だけで描かれた、だけどこれ以上なく見事な猫の絵があったのだ!
立体的で写実的で、まるで今にも飛び出してきそうなリアリティの高さ――わたしみたいな美術の素人でも分かるほどに、際立つほどの上手さだった。
「ミレイユにそこまで褒められると、なんだか照れくさいな」
「わたしだっていいものはちゃんと褒めるわよ! いやでも本当に上手ね。ねぇねぇ、これって売ったり飾ったりするのかしら?」
「適当に描いただけだから、スケッチブックを使い終わったらそのまま棚にしまうよ」
「なんてもったいない! じゃあわたし、これもらってもいい? 猫好きなのよねー」
「別に構わないけど。そんなに気に入ってくれたのなら、良かったら他の絵も見てみるか?」
「いいの? ぜひ見てみたいわ!」
というわけで。
わたしはジェイクに連れられて、ジェイクの私室に絵を見せてもらいに行くことにした。
貴族A「聖女さま、本日もお勤めご苦労様です」
わたし「ありがとうございます。みなさんもお勤めご苦労様です」
官僚B「ミレイユ様、本日もご機嫌麗しゅう。何か御用でしょうか? 何なりとお申し付けくださいませ、すぐに手配いたしますので」
わたし「あ、いえ、特にそういうわけないんです……」
宮廷幹部職員C「ミレイユ様、このようなところまで足を運ばれなくとも、誰かに言付けいただければすぐに用向きに伺いますぞ」
わたし「ああ、うん、ありがとう。でも今はそういうのじゃないから大丈夫。またお願いするわね」
メイドD(というかアンナ)「ミレイユ様、こんなところでどうされたんですか? そろそろお腹が減りましたか?」
わたし「あ、ちょっとね……。でも食いしん坊みたいに言うのは、遠慮してくれると嬉しいかな……」
メイドD(というかアンナ)「ジェイク様をお探しなのでしたら、今日の分の勉強は終えて、今ごろはきっと裏手の庭園で休憩されてますよ。ジェイク様のお気に入りの場所なんです」
わたし「あらそう。じゃあちょっと行ってみようかしら……」
貴族から官僚から宮廷職員からメイドさん(というかアンナ)に至るまで、出会った人のほとんど全員から、わたしは仕事をしている前提で声をかけられてしまったのだ。
「うーん……なんだかどこも居づらいわね。まさかすることがなくてうろついてるだなんて、とてもじゃないけど言えないし……」
そういうわけでアンナから聞いた情報をもとに、わたしは王宮の裏側の入り口を出てすぐにある、小さな庭園へとやってきていた。
すると、
「お、ミレイユじゃないか? 奇遇だな」
すぐにジェイクが気付いて声をかけてきた。
ジェイクは鉛筆で、シャッシャとキャンバスにスケッチをしていた。
庭園の花でも描いているのかな?
「ジェイクは絵を描いてるの? その大きなバラかしら?」
「いいや、猫を描いてたんだ」
「猫? 猫なんてどこにもいないじゃない?」
軽く見回して見たけど、それらしき姿は見当たらない。
「さっきまでいたんだよ。ミレイユが来たらびっくりして逃げちゃったんだ」
「うっ、そ、それは悪かったわね、邪魔しちゃったみたいで。昔から動物には好かれない性質なのよね。うーん、わたし動物好きなのに、なんでなんだろう?」
「性格がきついところ……かな?」
「ごめ、なにか言った?」
「い、いや? なにも言ってないぞ?」
「そう?」
何か聞こえた気がしたけど、まぁいいや。
「話は戻るんだけど、もうほとんど描き終わってたから問題ないよ。それに落書きみたいなもんだし」
「へー、せっかくだしちょっと見せてよ。ジェイクがどんな絵を描いてるのか気になるし」
「いいぞ、ほら」
そう言って向けられたキャンバスを、興味本位の軽い気持ちで覗きこんでみると――、
「はいぃっ!? なにこれ上手っ!? え、これジェイクが描いたの!?」
そこには白黒だけで描かれた、だけどこれ以上なく見事な猫の絵があったのだ!
立体的で写実的で、まるで今にも飛び出してきそうなリアリティの高さ――わたしみたいな美術の素人でも分かるほどに、際立つほどの上手さだった。
「ミレイユにそこまで褒められると、なんだか照れくさいな」
「わたしだっていいものはちゃんと褒めるわよ! いやでも本当に上手ね。ねぇねぇ、これって売ったり飾ったりするのかしら?」
「適当に描いただけだから、スケッチブックを使い終わったらそのまま棚にしまうよ」
「なんてもったいない! じゃあわたし、これもらってもいい? 猫好きなのよねー」
「別に構わないけど。そんなに気に入ってくれたのなら、良かったら他の絵も見てみるか?」
「いいの? ぜひ見てみたいわ!」
というわけで。
わたしはジェイクに連れられて、ジェイクの私室に絵を見せてもらいに行くことにした。
0
お気に入りに追加
91
あなたにおすすめの小説
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~
コトミ
恋愛
結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。
そしてその飛び出した先で出会った人とは?
(できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです)
hotランキング1位入りしました。ありがとうございます
【完結】婿入り予定の婚約者は恋人と結婚したいらしい 〜そのひと爵位継げなくなるけどそんなに欲しいなら譲ります〜
早奈恵
恋愛
【完結】ざまぁ展開あります⚫︎幼なじみで婚約者のデニスが恋人を作り、破談となってしまう。困ったステファニーは急遽婿探しをする事になる。⚫︎新しい相手と婚約発表直前『やっぱりステファニーと結婚する』とデニスが言い出した。⚫︎辺境伯になるにはステファニーと結婚が必要と気が付いたデニスと辺境伯夫人になりたかった恋人ブリトニーを前に、ステファニーは新しい婚約者ブラッドリーと共に対抗する。⚫︎デニスの恋人ブリトニーが不公平だと言い、デニスにもチャンスをくれと縋り出す。⚫︎そしてデニスとブラッドが言い合いになり、決闘することに……。
【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。
つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。
彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。
なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか?
それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。
恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。
その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。
更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。
婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。
生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。
婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。
後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。
「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】いいえ。チートなのは旦那様です
仲村 嘉高
恋愛
伯爵家の嫡男の婚約者だったが、相手の不貞により婚約破棄になった伯爵令嬢のタイテーニア。
自分家は貧乏伯爵家で、婚約者の伯爵家に助けられていた……と、思ったら実は騙されていたらしい!
ひょんな事から出会った公爵家の嫡男と、あれよあれよと言う間に結婚し、今までの搾取された物を取り返す!!
という事が、本人の知らない所で色々進んでいくお話(笑)
※HOT最高◎位!ありがとうございます!(何位だったか曖昧でw)
【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~
胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。
時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。
王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。
処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。
これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。
【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく
たまこ
恋愛
10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。
多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。
もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる