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第三章 恋する季節
第39話 違うんだからね!
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「ミレイユ様、おはようございます」
「ふぁ……おはようアンナ……」
アンナのそっといたわるような静かな声によって、わたしは目を覚ました。
まだ眠い頭をとりあえずたたき起こすと、むくりと上半身を起き上げる。
「うーーーん……」
大きく伸びをした。
「ふふふ、お疲れのご様子ですね」
「そうなのよ。昨日は全然寝れなくてさぁ……」
結局、目が冴えに冴えたわたしが寝たのは、すでに薄っすらと明るくなり始めたころだった。
だから多分2、3時間くらいしか寝てないと思う。
だから眠いの、本当に眠いんだよ……ふぁーぁ……。
「あらまぁ……それはそれは、ずいぶんとお楽しみだったのですね」
「……? なにがよ……?」
「なにがって、ねぇ……私の口からはそんな、うふふふっ……」
アンナがなにやら意味ありげに笑ってみせた。
それでわたしも、アンナがなにを言いたいのか察しがついた。
「ああ、そういうこと? 言っとくけどジェイクとは、なんにもなかったんだからね? ベッドは一緒だったけど隣で寝ただけだし。これは単に、なかなか寝れなかったから寝不足ってだけよ」
わたしは、惨めなほどに悲しくも空しい真実を告げたんだけど、
「まったくもうミレイユ様ってば。ちっとも素直じゃないんですから」
アンナは「やれやれ、しょうがないですね」って顔で微笑ましそうに見てくるのだ。
「ちょっ、ほんとにナニもしてないんだってば!?」
「はいはい、そう言うことにしておきましょう」
しかもなんか「わかってますからオーラ」全開で気を利かせてくる始末で。
「ほんとなんだってばぁ!?」
わたしはいかに自分が万全の準備をしてあって、おでこにキスをされて気分が盛り上がり、しかしナニもソレもなかったかを事細かに説明した。
自分で言って悲しかったけど、アンナに変に勘違いされては困る。
なにが困るかはわからないけど、きっと困るはず。
「ジェイク様はどう見ても奥手ですからね。逆にミレイユ様は積極的ですし。あ、でしたらミレイユ様が、ご自分から誘われてみてはいかがでしょうか?」
アンナが名案とばかりにポンと手を打った。
けど、
「そ、そんなはしたないこと、できるわけないじゃない! 女の子のほうから誘うだなんて、そんなふしだらなこと……」
「今どき女性から誘っても、別にふしだらでもなんでもないと思いますけど……」
「わたしの中ではふしだらなの! 男の人にそっと抱きしめられて、甘い言葉で優しく導いてもらいたいの!」
「ジェイク様はそういうタイプじゃないような……では私から、ジェイク様にそれとなく伝えておきましょうか?」
「やめてアンナ! そんなことされたら、わたしは恥ずかしさのあまり舌を噛み切って死んじゃうわ!?」
「うーん、それでは八方ふさがりでは……?」
「大丈夫よ、戦いはまだ始まったばかりなんだから。まだ焦るような時間じゃないわ。ゆっくり段階を踏んで、目の前の敵から確実に仕留めていきましょう」
「仕留めるって……あの、確認なんですけど、戦いじゃなくて好き合う男女の話ですよね……?」
「そうとも言うわね」
「ええ、ああ、はい……そうかもですね……。ミレイユ様、どうも少々疲れがたまっておられるご様子ですので、もう少しお休みになられませんか?」
アンナが病人をいたわるような、ものすごく優しい口調で言ってきた。
「ううん、起きるわ。せっかく起きたんだし。今寝たら、夕方まで寝ちゃいそうだから」
太陽が昇れば起きる。
だらしないのは好きじゃないんだよね。
「かしこまりました。それでは朝食にいたしましょう。ミレイユ様の朝の準備ができた頃合いを見計らって、呼びにまいりますので。ジェイク様も朝のお勉強が終わり次第、合流しますから」
「へぇ、いないと思ったら朝から勉強してたんだ」
「最近は勉強もすごくやる気みたいですよ。朝は集中力が高くて勉強がはかどるんだって言っておられました。きっとミレイユ様に、カッコ悪いところを見せたくないんですね」
「そ、そう……いい心がけじゃない」
「あ、照れてます?」
「うるさいわね! はやく朝ご飯の用意をしてらっしゃい!」
「はーい♪」
アンナが逃げるように部屋から出ていった。
「まったくアンナってばお節介焼きなんだから……」
とか言いつつ、アンナとのやり取りでちょっとほっこりさせられた自分がいて。
少し寝不足だけどいい天気だし、今日も素敵な一日が始まりそう――!
「ふぁ……おはようアンナ……」
アンナのそっといたわるような静かな声によって、わたしは目を覚ました。
まだ眠い頭をとりあえずたたき起こすと、むくりと上半身を起き上げる。
「うーーーん……」
大きく伸びをした。
「ふふふ、お疲れのご様子ですね」
「そうなのよ。昨日は全然寝れなくてさぁ……」
結局、目が冴えに冴えたわたしが寝たのは、すでに薄っすらと明るくなり始めたころだった。
だから多分2、3時間くらいしか寝てないと思う。
だから眠いの、本当に眠いんだよ……ふぁーぁ……。
「あらまぁ……それはそれは、ずいぶんとお楽しみだったのですね」
「……? なにがよ……?」
「なにがって、ねぇ……私の口からはそんな、うふふふっ……」
アンナがなにやら意味ありげに笑ってみせた。
それでわたしも、アンナがなにを言いたいのか察しがついた。
「ああ、そういうこと? 言っとくけどジェイクとは、なんにもなかったんだからね? ベッドは一緒だったけど隣で寝ただけだし。これは単に、なかなか寝れなかったから寝不足ってだけよ」
わたしは、惨めなほどに悲しくも空しい真実を告げたんだけど、
「まったくもうミレイユ様ってば。ちっとも素直じゃないんですから」
アンナは「やれやれ、しょうがないですね」って顔で微笑ましそうに見てくるのだ。
「ちょっ、ほんとにナニもしてないんだってば!?」
「はいはい、そう言うことにしておきましょう」
しかもなんか「わかってますからオーラ」全開で気を利かせてくる始末で。
「ほんとなんだってばぁ!?」
わたしはいかに自分が万全の準備をしてあって、おでこにキスをされて気分が盛り上がり、しかしナニもソレもなかったかを事細かに説明した。
自分で言って悲しかったけど、アンナに変に勘違いされては困る。
なにが困るかはわからないけど、きっと困るはず。
「ジェイク様はどう見ても奥手ですからね。逆にミレイユ様は積極的ですし。あ、でしたらミレイユ様が、ご自分から誘われてみてはいかがでしょうか?」
アンナが名案とばかりにポンと手を打った。
けど、
「そ、そんなはしたないこと、できるわけないじゃない! 女の子のほうから誘うだなんて、そんなふしだらなこと……」
「今どき女性から誘っても、別にふしだらでもなんでもないと思いますけど……」
「わたしの中ではふしだらなの! 男の人にそっと抱きしめられて、甘い言葉で優しく導いてもらいたいの!」
「ジェイク様はそういうタイプじゃないような……では私から、ジェイク様にそれとなく伝えておきましょうか?」
「やめてアンナ! そんなことされたら、わたしは恥ずかしさのあまり舌を噛み切って死んじゃうわ!?」
「うーん、それでは八方ふさがりでは……?」
「大丈夫よ、戦いはまだ始まったばかりなんだから。まだ焦るような時間じゃないわ。ゆっくり段階を踏んで、目の前の敵から確実に仕留めていきましょう」
「仕留めるって……あの、確認なんですけど、戦いじゃなくて好き合う男女の話ですよね……?」
「そうとも言うわね」
「ええ、ああ、はい……そうかもですね……。ミレイユ様、どうも少々疲れがたまっておられるご様子ですので、もう少しお休みになられませんか?」
アンナが病人をいたわるような、ものすごく優しい口調で言ってきた。
「ううん、起きるわ。せっかく起きたんだし。今寝たら、夕方まで寝ちゃいそうだから」
太陽が昇れば起きる。
だらしないのは好きじゃないんだよね。
「かしこまりました。それでは朝食にいたしましょう。ミレイユ様の朝の準備ができた頃合いを見計らって、呼びにまいりますので。ジェイク様も朝のお勉強が終わり次第、合流しますから」
「へぇ、いないと思ったら朝から勉強してたんだ」
「最近は勉強もすごくやる気みたいですよ。朝は集中力が高くて勉強がはかどるんだって言っておられました。きっとミレイユ様に、カッコ悪いところを見せたくないんですね」
「そ、そう……いい心がけじゃない」
「あ、照れてます?」
「うるさいわね! はやく朝ご飯の用意をしてらっしゃい!」
「はーい♪」
アンナが逃げるように部屋から出ていった。
「まったくアンナってばお節介焼きなんだから……」
とか言いつつ、アンナとのやり取りでちょっとほっこりさせられた自分がいて。
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