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第三章 恋する季節
第29話 おかゆ
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「あぁ……五臓六腑に染みわたるわ……」
長き眠りから目覚めた後。
ジェイクやアンナとジャレているとすぐに、盛大にお腹の虫を鳴らしてしまったわたしは。
すぐに食堂に案内してもらって、実に3日ぶりとなる食事をしみじみと味わっていた。
「病み上がりでも食べやすいように、あっさりした『おかゆ』を作ってもらったんだ」
「水分たっぷりふやふやで柔らかいので、弱ってる胃や身体に負担をかけにくいんですよ」
同席したジェイクとアンナが、この「おかゆ」なる料理の説明をしてくれる。
「おかゆ……コメをお湯に浸してるのね。初めて食べたけど、噛まなくても飲みこめるから確かに食べやすいわね。素朴な塩味が食欲をそそるし、この赤いウメボシや黄色いタクワンって言うのにもよく合うし、なんだかいくらでも食べられちゃいそう」
「この辺りでは一般的な病人食なんだけど、ミレイユに気に入ってもらえてよかったよ」
「お腹が空いてるだろうと思いまして多めに作ってもらってあるので、お代わりもありますよ。よそってきましょうか?」
「じゃあ頼もうかしら? なにせお腹が背中と引っ付きそうなくらいにペコペコで……」
わたしは空っぽになったお椀をアンナに渡しながら、チラッと横目でジェイクの顔を盗み見た。
「食欲があるのはいいことだな。良くなった証拠だ!」
ジェイクはわたしがお代わりしたのを見て、喜んでいるみたいだった。
ふぅ、どうも大食いな女の子だとは思われてないみたいね。
まぁその?
わたしも年頃の女の子であるからして?
男の人から大食いだと思われるのは、気になっちゃうって言うか?
たとえその相手が、ジェイクみたいなポンコツ王子であってもね!
おかゆをお代わりして、さらにもう一回お代わりして完食(お代わりには卵が入ってて飽きが来ないようにしてあったから、ついつい手が伸びてしまったのだ)し、お茶をすすっていると、最後にデザートとしてフルーツ盛りが出てきた。
「ねぇちょっと、これって南国で採れるマンゴーってフルーツでしょ? えらく豪勢ね……いいのかしら……」
庶民上がりのわたしにとって、瑞々しいフルーツ盛りは超がつくほどの贅沢品だ。
しかもフルーツの王様と言われるマンゴーまで乗っているのだ。
マンゴーなんて見たことはあっても、もちろんわたしは食べたことなんて1度もなかった。
「出入りの御用商人に一番いいデザートを用立ててもらったんだ。ま、こういう時くらいはパァッと贅沢しないとな。もしミレイユが食べないならオレが食べるけど――」
「わたしが食べるわよ」
マンゴーに手を伸ばしかけたジェイクの手を、パシっと叩く。
いつも通りのなんでもないやり取りだったはずなのに。
だけど触れ合ったところから、さっきジェイクに手を握られた感触を急に思いだしちゃって――。
くっ、さっきからなんなのよわたし……!?
「どうしたんだミレイユ? やっぱりいらないのか? 実はオレもマンゴーを食べたことないんだよな。だから1回食べてみたいんだけど――」
しかもジェイクのやつってば、わたしがこんなにドギマギしてるっていうのに、なんでもない顔してマンゴーを無心してくるし!
くっ、わたしだけこんなあたふたしてたらバカみたいじゃない。
「全部わたしが――わたしとアンナが食べるわよ!」
「おいおい、アンナにあげるならオレにも一口でいいから――」
「却下よ!」
わたしは言いようのない心の昂ぶりに突き動かされるまま、一番大きなマンゴーにフォークを豪快にぶっ刺すと、周りの目も気にせずにガブリといった。
ジューシーかつ濃密な甘みがすぐに口の中に広がっていって、わたしは少しだけ気分を落ち着けることができたのだった。
その後、アンナに「あーん」してあげて。
しょぼくれてしょぼくれて仕方なかったので、ジェイクにも一口だけ食べさせてあげた。
え?
ジェイクにも「あーん」してあげたのかって?
はん、そんな訳ないでしょ?
わたしは付き合ってもない男に「あーん」してあげるような、そんなふしだらな女の子じゃないんだからねっ!
相手が王子とか関係ないんだもんね!
顔を洗って出直しなさい!
長き眠りから目覚めた後。
ジェイクやアンナとジャレているとすぐに、盛大にお腹の虫を鳴らしてしまったわたしは。
すぐに食堂に案内してもらって、実に3日ぶりとなる食事をしみじみと味わっていた。
「病み上がりでも食べやすいように、あっさりした『おかゆ』を作ってもらったんだ」
「水分たっぷりふやふやで柔らかいので、弱ってる胃や身体に負担をかけにくいんですよ」
同席したジェイクとアンナが、この「おかゆ」なる料理の説明をしてくれる。
「おかゆ……コメをお湯に浸してるのね。初めて食べたけど、噛まなくても飲みこめるから確かに食べやすいわね。素朴な塩味が食欲をそそるし、この赤いウメボシや黄色いタクワンって言うのにもよく合うし、なんだかいくらでも食べられちゃいそう」
「この辺りでは一般的な病人食なんだけど、ミレイユに気に入ってもらえてよかったよ」
「お腹が空いてるだろうと思いまして多めに作ってもらってあるので、お代わりもありますよ。よそってきましょうか?」
「じゃあ頼もうかしら? なにせお腹が背中と引っ付きそうなくらいにペコペコで……」
わたしは空っぽになったお椀をアンナに渡しながら、チラッと横目でジェイクの顔を盗み見た。
「食欲があるのはいいことだな。良くなった証拠だ!」
ジェイクはわたしがお代わりしたのを見て、喜んでいるみたいだった。
ふぅ、どうも大食いな女の子だとは思われてないみたいね。
まぁその?
わたしも年頃の女の子であるからして?
男の人から大食いだと思われるのは、気になっちゃうって言うか?
たとえその相手が、ジェイクみたいなポンコツ王子であってもね!
おかゆをお代わりして、さらにもう一回お代わりして完食(お代わりには卵が入ってて飽きが来ないようにしてあったから、ついつい手が伸びてしまったのだ)し、お茶をすすっていると、最後にデザートとしてフルーツ盛りが出てきた。
「ねぇちょっと、これって南国で採れるマンゴーってフルーツでしょ? えらく豪勢ね……いいのかしら……」
庶民上がりのわたしにとって、瑞々しいフルーツ盛りは超がつくほどの贅沢品だ。
しかもフルーツの王様と言われるマンゴーまで乗っているのだ。
マンゴーなんて見たことはあっても、もちろんわたしは食べたことなんて1度もなかった。
「出入りの御用商人に一番いいデザートを用立ててもらったんだ。ま、こういう時くらいはパァッと贅沢しないとな。もしミレイユが食べないならオレが食べるけど――」
「わたしが食べるわよ」
マンゴーに手を伸ばしかけたジェイクの手を、パシっと叩く。
いつも通りのなんでもないやり取りだったはずなのに。
だけど触れ合ったところから、さっきジェイクに手を握られた感触を急に思いだしちゃって――。
くっ、さっきからなんなのよわたし……!?
「どうしたんだミレイユ? やっぱりいらないのか? 実はオレもマンゴーを食べたことないんだよな。だから1回食べてみたいんだけど――」
しかもジェイクのやつってば、わたしがこんなにドギマギしてるっていうのに、なんでもない顔してマンゴーを無心してくるし!
くっ、わたしだけこんなあたふたしてたらバカみたいじゃない。
「全部わたしが――わたしとアンナが食べるわよ!」
「おいおい、アンナにあげるならオレにも一口でいいから――」
「却下よ!」
わたしは言いようのない心の昂ぶりに突き動かされるまま、一番大きなマンゴーにフォークを豪快にぶっ刺すと、周りの目も気にせずにガブリといった。
ジューシーかつ濃密な甘みがすぐに口の中に広がっていって、わたしは少しだけ気分を落ち着けることができたのだった。
その後、アンナに「あーん」してあげて。
しょぼくれてしょぼくれて仕方なかったので、ジェイクにも一口だけ食べさせてあげた。
え?
ジェイクにも「あーん」してあげたのかって?
はん、そんな訳ないでしょ?
わたしは付き合ってもない男に「あーん」してあげるような、そんなふしだらな女の子じゃないんだからねっ!
相手が王子とか関係ないんだもんね!
顔を洗って出直しなさい!
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