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第三章 恋する季節

第28話 ないもん! ばかぁっ!!

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 でも入りかけたところで、アンナの身体はピシッと固まった。

「あらアンナ、あなたにも心配かけたみたいで、ごめんね。でももうすっかり元通りだから安心してちょうだい」

 そしてわたしが話しかけても、アンナは固まったままでピクリとも動こうとはしないのだ。

 アンナの視線はというと、わたしとジェイクにガッチリと固定されていた。

 アンナの顔が、次第に困惑と驚きで満たされていって──!
 
「ふぇぇぇぇっっ!!?? ミレイユ様が目を覚ましたと聞いて急いで駆けつけたら、ベッドでジェイク様に強引に馬乗りされて押し倒されてて! ミレイユ様の服のすそが大胆にはだけちゃってて! 透きとおるような白い肌が見えちゃってて! でもでもミレイユ様も、全然ちっともまんざらでもなさそうな、むしろちょっと嬉しそうな顔をしながら、ジェイク様の腰を優しく抱き返しています!?」

 アンナが超早口で今の状況をまとめ上げた。
 やっぱりこの子はすごく頭いいよね、うん。

 でもね?

「ちょっとアンナ!? 全部誤解なんだからね!? わたし全然抱き返したりとかしてないし! これはその……たまたま手がそこにあっただけだし! 偶然なんだし! つまりアンナの目の錯覚なのよ!」

「ええぇぇ……」
 アンナが「それはないですね~」って顔をした。

「っ! ああもうジェイク! あんたもどさぐさ紛れでいつまでくっついてんのよ、とっとと退きなさいよね!? アンナに勘違いされたでしょ!」

 わたしは自分でも分かるくらいに顔をまっ赤にして、覆いかぶさったままでいるジェイクを突き飛ばした。

 一気にガーッとしゃべったせいで、はぁはぁと呼吸が荒い。

 そ、そうよ。
 これは単に一気しゃべりしたから息が上がっただけであって、絶対に押し倒されて抱きしめられてドキドキしたからじゃないし!

 じゃないはずだもん!
 ないもん!

 ばかぁっ!!

「ミレイユ、痛いんだが……」
 ベッドから突き落とされたジェイクが、お尻をさすりながら立ちあがった。

「ふん、女の子のベッドに勝手に上がりこんだ罰よ、甘んじて受けなさい」

「もう……ミレイユ様ったら、ほんと素直じゃないんですから……」

「だからアンナ、これはそんなんじゃないんだってば!?」

「はいはい、そーですねー」

「なぁミレイユ、ちょっと疑問なんだけど、さっきから2人でなんの話をしてるんだ? 『そんなん』って、なんだ?」

「わからないなら黙ってそこの壁際にでも立ってなさいよ、このぽんこつ王子!」

「あ、はい、すみません……」
 わたしにキレられて、ジェイクがションボリしながら壁際に移動した。

「ジェイク様、それはですね――」

「アンナも説明しなくていいんだからね!?」

「はーい」
 元気に返事をしながら、アンナはわたしとジェイクのやり取りを嬉しそうに眺めている。

 ああもう、あとでちゃんと誤解を解いておかないと……誤解なの!


 ――とまぁ、そんなこんなで?

 ジェイクやアンナの協力のもと『破邪の結界ver.エルフィーナ』を発動させ。
 究極奥義『アルティメット・リジェネレーション』で重体のジェイクを救って。
 そして最後、力の使いすぎで倒れたわたしが無事に目覚めた――。

 そんな感動につぐ感動の物語は、ふたを開けて見ればいつも通りの日常の延長で――。

 つまりなんていうかもう、完全にぐだぐだだった……。

 一応ハッピーエンドではあったと思う。

 ま、どこか締まらないのが、ポンコツ王子とわたしたちらしいと言えば、らしいのかな?
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