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第二章 エルフの国エルフィーナ
第25話 わたしの決意
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「時にミレイユ様、先ほど外の衛兵との会話が漏れ聞こえていたのですが、『破邪の結界』が起動したというのは事実なのでしょうか?」
御殿医が尋ねてくる。
「それなら本当よ。だからこれ以上もう、エルフィーナ王国でヴァルスの感染が広がることはないわ。既に症状が出ている患者も、少しずつ良くなっていくはずよ」
「ではジェイク殿下も、このまま回復なされるのでしょうか?」
「ただし――末期重症者を除いてね」
「なんと……」
わたしの言葉に、御殿医はこれ以上ないくらいに沈痛な表情を見せた。
「ねぇ、一応確認なんだけど、そっちでジェイクを助けられる?」
わたしが尋ねると、
「ここまで症状が重く進行してしまっていては、我々の持つ医療技術では為すすべがありません。余命を伸ばして奇跡を待つのが、せいぜいのところかと……」
御殿医のリーダーは、声を絞りだすようにして言った。
「だったら――だったらジェイクの命を、わたしに預けてくれないかな?」
「ミレイユ様、なにか策があるんですか!?」
わたしのその言葉に、部屋に入ってからずっと心配そうにジェイクの顔をのぞき込んでいたアンナが、喰いつくようにわたしを振りかえった。
「あるわ。『破邪の聖女』の力には2つあるの」
「2つですか?」
「1つは『破邪の結界』の構築と維持。これはどっちかって言うと予防に近いわね」
「それが今までやってきたこと、ですよね?」
「そうよ。そしてもう1つが、すでに起こった病に対処するための、癒しの力『ヒーリング』よ」
「癒しの力『ヒーリング』……ってことは、ジェイク様を治せるんですか!?」
「ええ、今からそれを実行するわ」
「すごいです! さすがは『破邪の聖女』ミレイユ様です!」
「ま、そういうわけなんだけど、極度の集中が必要だから、皆さんには申し訳ないんだけどここから退出していただいても構わないでしょうか?」
わたしの言葉に促されるようにして、御殿医たちが医療ルームを後にする。
アンナも一緒に出ていこうとしたのを、
「アンナ、あなたはここにいてほしいの」
わたしはそっと呼び止めた。
「私がいると、ミレイユ様が集中することの邪魔になりませんか?」
「アンナはわたしのお付きメイドだからね。結界を起動するときも一緒だったし、最後まで見届けて欲しいのよ。『破邪の聖女』ミレイユ・アプリコットの、一世一代の回復術をね」
「そういうことでしたら、わかりました。最後までミレイユ様にご一緒させていただきます」
そう言うとアンナは、ジェイクのそばに立つわたしから少し離れたところで静かに待機した。
「さて、と。すーー、はーー……」
わたしは大きく深呼吸をすると、意識を集中しはじめた。
これだけ重症化してしまうと、普通のヒーリングじゃ焼け石に水で、とてもじゃないけど間に合わない。
『神威の発動』『神の奇跡』とも言われる最高位のヒーリング奥義、『アルティメット・リジェネレーション』を使うしかないだろう。
ただしそれには1つだけ問題があって。
『破邪の結界ver.エルフィーナ』の起動にかなりの力を持っていかれたばかりのわたしは、残っている聖女パワーがほぼすっからかんなのだった。
2、3日すれば元に戻るだろうけど、もちろんそれじゃあ間に合わない。
つまり『アルティメット・リジェネレーション』を使うには、わたしに残ったパワーじゃ全然足りないってことなのだ。
ムリ無理むりのカタツムリなのだ。
「――だけど、ふん! それがどうしたっていうの?」
わたしは自分を奮い立たせるように、小さな声でつぶやいた!
御殿医が尋ねてくる。
「それなら本当よ。だからこれ以上もう、エルフィーナ王国でヴァルスの感染が広がることはないわ。既に症状が出ている患者も、少しずつ良くなっていくはずよ」
「ではジェイク殿下も、このまま回復なされるのでしょうか?」
「ただし――末期重症者を除いてね」
「なんと……」
わたしの言葉に、御殿医はこれ以上ないくらいに沈痛な表情を見せた。
「ねぇ、一応確認なんだけど、そっちでジェイクを助けられる?」
わたしが尋ねると、
「ここまで症状が重く進行してしまっていては、我々の持つ医療技術では為すすべがありません。余命を伸ばして奇跡を待つのが、せいぜいのところかと……」
御殿医のリーダーは、声を絞りだすようにして言った。
「だったら――だったらジェイクの命を、わたしに預けてくれないかな?」
「ミレイユ様、なにか策があるんですか!?」
わたしのその言葉に、部屋に入ってからずっと心配そうにジェイクの顔をのぞき込んでいたアンナが、喰いつくようにわたしを振りかえった。
「あるわ。『破邪の聖女』の力には2つあるの」
「2つですか?」
「1つは『破邪の結界』の構築と維持。これはどっちかって言うと予防に近いわね」
「それが今までやってきたこと、ですよね?」
「そうよ。そしてもう1つが、すでに起こった病に対処するための、癒しの力『ヒーリング』よ」
「癒しの力『ヒーリング』……ってことは、ジェイク様を治せるんですか!?」
「ええ、今からそれを実行するわ」
「すごいです! さすがは『破邪の聖女』ミレイユ様です!」
「ま、そういうわけなんだけど、極度の集中が必要だから、皆さんには申し訳ないんだけどここから退出していただいても構わないでしょうか?」
わたしの言葉に促されるようにして、御殿医たちが医療ルームを後にする。
アンナも一緒に出ていこうとしたのを、
「アンナ、あなたはここにいてほしいの」
わたしはそっと呼び止めた。
「私がいると、ミレイユ様が集中することの邪魔になりませんか?」
「アンナはわたしのお付きメイドだからね。結界を起動するときも一緒だったし、最後まで見届けて欲しいのよ。『破邪の聖女』ミレイユ・アプリコットの、一世一代の回復術をね」
「そういうことでしたら、わかりました。最後までミレイユ様にご一緒させていただきます」
そう言うとアンナは、ジェイクのそばに立つわたしから少し離れたところで静かに待機した。
「さて、と。すーー、はーー……」
わたしは大きく深呼吸をすると、意識を集中しはじめた。
これだけ重症化してしまうと、普通のヒーリングじゃ焼け石に水で、とてもじゃないけど間に合わない。
『神威の発動』『神の奇跡』とも言われる最高位のヒーリング奥義、『アルティメット・リジェネレーション』を使うしかないだろう。
ただしそれには1つだけ問題があって。
『破邪の結界ver.エルフィーナ』の起動にかなりの力を持っていかれたばかりのわたしは、残っている聖女パワーがほぼすっからかんなのだった。
2、3日すれば元に戻るだろうけど、もちろんそれじゃあ間に合わない。
つまり『アルティメット・リジェネレーション』を使うには、わたしに残ったパワーじゃ全然足りないってことなのだ。
ムリ無理むりのカタツムリなのだ。
「――だけど、ふん! それがどうしたっていうの?」
わたしは自分を奮い立たせるように、小さな声でつぶやいた!
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