破邪の聖女 ~婚約者を第二王女に寝取られ婚約破棄&追放された聖女は、エルフの国の土下座王子と恋仲に!?~

マナシロカナタ✨ねこたま✨GCN文庫

文字の大きさ
上 下
23 / 66
第二章 エルフの国エルフィーナ

第23話 急転

しおりを挟む
 『破邪の結界ver.エルフィーナ』の放つ青き清浄なる光の輝きが、次第に収まり薄くなっていく。

 そして青い光はいつしか完全に消えてなくなった。

 もちろん失敗したわけじゃあない。
 『破邪の結界』が、術式起動フェイズから安定稼働フェイズへと移行したからだ。

「よしよし、いい子ね。バッチリ安定してるわ。これであと数日もすればヴァルスはほぼ収束すると思うわよ」

 一部の手の施しようのない末期重症者をのぞけば、ここからはひたすら回復に向かっていくはずだ。

 あとはもうしばらくの間、最後の我慢の時を過ごせばいいだけだ。

「ミレイユ様。今日はもの凄いものを見せていただき、ありがとうございました」

「ふふふん、結界の立ち上げなんてまずお目にかかれないんだからね? 一生に一度の機会と思って、しっかりと心に刻んでおきなさいな」

「はい、一生の思い出にします!」

 なーんて偉そうに言ってるわたしだけど、結界の起動に立ち会ったのは実はわたしもこれが初めてだったりする。

 だってセラフィム王国には、大昔にできた『破邪の結界』が既にあって。

 だからわたしのお役目と言えば、あらたに結界を作ることじゃなくて、経年劣化で次から次へと出てくる結界のほころびや調子の悪いところを、ひたすら修正したり調整することだったから。

 もちろん知識として、結界の製作方法や起動のさせ方を文献で読んだりしたことはあったんだけど。

 でもでも、いやーほんと綺麗だったわね。
 苦労した甲斐があって、いいもの見れたわ。

 つまりなんていうかその、アンナにいい格好したかったのよ!

 わたしに憧れの目を向けてくれているアンナに、「ふふん、どうよ?」ってドヤ顔したかったの!

 それくらいは、いいでしょ別に!?

「ああ、あとジェイクにも自慢してあげないとね。せっかくの一生に一度の機会だったのに、見れなくて残念だったわねって。さぞ悔しがるでしょうよ」

「ほどほどにしてあげてくださいね? ミレイユ様は、ジェイク様が好きだからって、ジェイク様にだけは気を許して何でもかんでも言っちゃってますし」

「は? わたしがジェイクを好き? なに言ってるのよアンナ? あはは、ないない」

「あ、ご自分では気付いてらっしゃらないんですね……心を許して甘えてる感じがバレバレですよ?」

「え、何か言った?」
「いいえ、なんでもありません?」

「そう?」
「はい!」

 そんな感じで、しばらくアンナと2人で結界発動の余韻に浸っていると、

「……? なにかしら、さっきからえらく外が慌ただしいわね? もう日が変わる時間だって言うのに」

 人が行き交う足音や焦ったような声が、ここ水晶室まで聞こえてきたのだ。

「なにかあったんでしょうか? 私ちょっと見てきますね」

 アンナが言って、

「それならわたしも一緒に行くわ。もう『破邪の結界ver.エルフィーナ』は完成したしね」

 わたしがアンナと一緒に、水晶室の外に出ようとした時だった――。

 コンコンコン!

 いた気持ちを隠しきれないようにドアが素早くノックされて、わたしが返事をすると近衛兵が一人、駆け込むように入ってきたんだ。

「ミレイユ様! ジェイク王子が、ジェイク王子が意識不明の重体にございます!」

「な、なんですって!?」
「ジェイク様が!? でもなんで――」

「ヴァルスを発症したと思われます」

「ヴァルスを!? なんでよ!? 結界はさっきもう起動したっていうのに!」

 結界作成の全工程を振りかえってみるけど、うん、ミスはなかったはずだ。

 実際、『破邪の結界ver.エルフィーナ』は非の打ちどころのないほど完ぺきに起動していたわけで。

 なのになんで――?

「あのミレイユ様、もしかしてなんですけど。ジェイク様が図形の謎を解き明かした後に、今日はもう疲れたから休むと言っておられたんです。その時にはもう、ジェイク様は発症しておられたのではないでしょうか――?」

「ぁ――っ!」

 そう言えばあの時、ジェイクは少し体調が悪そうだった。
 小さくせきもしていた。

 過労や風邪の症状とそっくりで、ついつい見逃しがちなヴァルスの初期症状だ――!

「ミレイユ様――」
 アンナが真剣な表情でわたしの目を見つめてくる。

「ええ、急いでジェイクのところに行くわよ! 近衛兵さん、ジェイクのところまですぐに案内して!」

「はっ、かしこまりました。どうぞこちらへ!」

 にわかには信じられない報告を受けたわたしは、アンナを連れて急ぎジェイクの元へと向かった――!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

王子殿下の慕う人

夕香里
恋愛
【本編完結・番外編不定期更新】 エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。 しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──? 「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」 好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。 ※小説家になろうでも投稿してます

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

彼女が望むなら

mios
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の婚約は円満に解消された。揉めるかと思っていた男爵令嬢リリスは、拍子抜けした。男爵令嬢という身分でも、王妃になれるなんて、予定とは違うが高位貴族は皆好意的だし、王太子殿下の元婚約者も応援してくれている。 リリスは王太子妃教育を受ける為、王妃と会い、そこで常に身につけるようにと、ある首飾りを渡される。

処理中です...