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第二章 エルフの国エルフィーナ
第22話 発動! 破邪の結界ver.エルフィーナ!
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「ミレイユ様、急にどうされたんですか!? まさか結界が完成したと思っていたら、致命的なバグでも発見しちゃったんですか!?」
「バグなんてないわ、わたしの仕事は完璧よ!」
「で、ではどうされたんでしょうか?」
「それはもちろん――、はっ!? すーはー、すーはー、こ、こほん。お、落ち着くのよアンナ」
わたしは大きく深呼吸をして、アンナに気持ちを落ち着けるように言った。
「え? 私がですか? ミレイユ様じゃなくて? ……えっと、は、はい、わかりました」
アンナはちょっと不思議そうな顔をしながらも、それに素直に従ってくれた。
さすがアンナはいい子だね。
そんなアンナに、わたしはとてもまじめな顔を作ると、先生が生徒に諭すように語りかけた。
「いいことアンナ。今日ここで見聞きしたことは、決して何があろうとも絶対に、口外してはいけないわ」
「は、はい……!」
わたしの有無を言わさぬ雰囲気につられるように、アンナも真剣な顔で返事を返してくる。
「なぜなら――」
「ご、ごくり……」
「なぜなら今日のあれこれには、『破邪の結界』や『破邪の聖女』にかかわるトップシークレットが含まれているからよ。国家機密級よ。だからわたしのお付きメイドであるあなたにも、何があっても他人に漏らしてはいけない守秘義務が発生しているというわけなの」
即興で考えたにしてはすごくそれっぽくて、いかにももっともらしいことをわたしが言うと、
「守秘義務……! 国家機密級でトップシークレット……! かしこまりました、今日のことは、いっさい他言無用で、絶対に外部には漏らしません!」
「分かってくれて何よりだわ。さすがアンナは頭がいいわね」
「えへへ、ミレイユ様に褒められちゃいました」
アンナはとても素直で正直だ。
そんなアンナにしっかりと確約をさせた以上、これでわたしの常軌を逸した奇声やら、正気を疑うはしたない独り言やらが、外部に漏れる心配は完全になくなった。
口止めが上手くいって、わたしはやれやれと胸をなでおろした。
「さて、と。話がそれちゃったわね。そういうわけで『破邪の結界』の調整は無事完了してるの。あとはもう起動するだけよ」
「ミレイユ様、ここまでお疲れさまでした」
「じゃあさっそく起動を――、あ、そうだ。せっかくだからジェイクも呼んであげようかしら? い、一応ほら? あいつが今回の件の最高責任者なんだし」
そうよね。
今までわたしとアンナとジェイクの3人でやってきたのに、結界の起動に立ち会えないなんてかわいそうだよね。
「なんて言うかその、まぁ、ね? ポンコツ王子なりにすごく頑張ってたって言うか? わたしもちょっとは見直したって言うか? あ、いやもちろんちょっとだけだよ? ほんのちょっとなんだけどね? 敢えて言うとって言うか?」
「はぁ……左様ですか。それでしたら、ジェイク様は今日は少々お疲れのようでして。おそらくもうお休みになられているのではないかと思います。確認してきましょうか?」
「あ、そうなんだ……残念……っていやいや。別に残念でもなんでもないし? 言葉の綾だし?」
「えっと、はぁ……」
「ま、それならそれでいいわ。疲れて寝てるのを起こしちゃうのは、悪いしね。明日の朝、すっかり変わった世界を見せて驚かせてあげましょう。ふふっ、わたしの完璧な仕事っぷりに、ジェイクが感謝しすぎてむせび泣く姿が、今から目に浮かんでくるわね……!」
それに人のいいジェイクのことだ。
自分が立ち会うことよりも、ヴァルスで苦しんでいる国民のために、1秒でも早く『破邪の結界』を起動させることを望むだろう。
「ミレイユ様は、ジェイク様のことをとても大切に想われているのですね」
「あはは、なに言ってるのよアンナ。そんなんじゃないわよ、全然そんなんじゃないし……ないよね? え、あれっ?」
わたしは自分の胸に手を当ててみた。
ジェイクの顔を頭に思い浮かべてみると、トクンと大きく心臓が跳ねた気がした。
顔が赤くなった気も、した。
……えっ?
なにこれ?
って、いやいやまさかねぇ。
今は『破邪の結界』の調整を終えて、テンションがハイになってるだけだし。
きっと急性の不整脈だね。
つまり吊り橋効果だし?
ちょっと違うか。
「ミレイユ様? 急に考えこまれてしまって、どうされたんですか?」
「あ、ごめんごめん、なんでもないの。気にしないで」
「はぁ……」
そうよ、今のは単なる気の迷いよ。
わたしは考えるのやめた。
でないとドツボにはまっちゃいそうだったから。
「じゃあアンナ、よーく見てなさい。『破邪の聖女』ミレイユ・アプリコットが作り上げた、『破邪の結界ver.エルフィーナ』が立ちあがる瞬間を!」
わたしはそこで大きく溜めを作ると、右手の人さし指を1本だけ立てて天井に向け、「ビシィ!」っと降りおろした!
「『破邪の結界ver.エルフィーナ』――起動!」
その言葉とともに、わたしは結界の起動に必要な力をエイヤと注ぎ込む!
すぐにわたしの身体から、ゴソッと聖女パワーが持っていかれる感触があった。
一瞬、脱力感と立ちくらみが襲ってきたけど、アンナの見てる前で無様な姿は見せられないからね。
わたしは心の中で「ふんす!」と気合を入れると、何でもない風を装って踏みとどまる。
ほとんど間を置かずに『破邪の結界ver.エルフィーナ』が発動し、水晶室が真っ青な光で満ち満ちていく――!
「すごい……! 綺麗です……! まるで澄んだ水の中にいるみたい……!」
幻想的な青の世界に、アンナが見惚れたような声を上げた。
ふっふーん、そうでしょうとも!
これが、これこそが『破邪の結界』の放つ、青き清浄なる光の輝きなのだから!
だけどそのパワーときたら、
「すごっ!? 今までの『破邪の結界』とは比べ物にならないわ。10倍、ううん20倍は出力してるんじゃない!?」
ジェイクが解き明かしてくれたあの図は、術式のパワーを大きく増幅させるターボチャージャーという機能だった。
それを組み込んだおかげで、『破邪の結界』は今やエルフィーナ王国全土を覆いつくすほどの高出力を発揮しているのだ。
「これでエルフィーナ王国は救われるんですね……」
「ええ、そうよ。すぐにヴァルスの流行も収まるわ」
そう、わたしは見事『破邪の聖女』の仕事をやり遂げたのだった。
アンナのサポートと、ジェイクのひらめきという助けも得て、エルフィーナ王国を救ったのだ――!
「バグなんてないわ、わたしの仕事は完璧よ!」
「で、ではどうされたんでしょうか?」
「それはもちろん――、はっ!? すーはー、すーはー、こ、こほん。お、落ち着くのよアンナ」
わたしは大きく深呼吸をして、アンナに気持ちを落ち着けるように言った。
「え? 私がですか? ミレイユ様じゃなくて? ……えっと、は、はい、わかりました」
アンナはちょっと不思議そうな顔をしながらも、それに素直に従ってくれた。
さすがアンナはいい子だね。
そんなアンナに、わたしはとてもまじめな顔を作ると、先生が生徒に諭すように語りかけた。
「いいことアンナ。今日ここで見聞きしたことは、決して何があろうとも絶対に、口外してはいけないわ」
「は、はい……!」
わたしの有無を言わさぬ雰囲気につられるように、アンナも真剣な顔で返事を返してくる。
「なぜなら――」
「ご、ごくり……」
「なぜなら今日のあれこれには、『破邪の結界』や『破邪の聖女』にかかわるトップシークレットが含まれているからよ。国家機密級よ。だからわたしのお付きメイドであるあなたにも、何があっても他人に漏らしてはいけない守秘義務が発生しているというわけなの」
即興で考えたにしてはすごくそれっぽくて、いかにももっともらしいことをわたしが言うと、
「守秘義務……! 国家機密級でトップシークレット……! かしこまりました、今日のことは、いっさい他言無用で、絶対に外部には漏らしません!」
「分かってくれて何よりだわ。さすがアンナは頭がいいわね」
「えへへ、ミレイユ様に褒められちゃいました」
アンナはとても素直で正直だ。
そんなアンナにしっかりと確約をさせた以上、これでわたしの常軌を逸した奇声やら、正気を疑うはしたない独り言やらが、外部に漏れる心配は完全になくなった。
口止めが上手くいって、わたしはやれやれと胸をなでおろした。
「さて、と。話がそれちゃったわね。そういうわけで『破邪の結界』の調整は無事完了してるの。あとはもう起動するだけよ」
「ミレイユ様、ここまでお疲れさまでした」
「じゃあさっそく起動を――、あ、そうだ。せっかくだからジェイクも呼んであげようかしら? い、一応ほら? あいつが今回の件の最高責任者なんだし」
そうよね。
今までわたしとアンナとジェイクの3人でやってきたのに、結界の起動に立ち会えないなんてかわいそうだよね。
「なんて言うかその、まぁ、ね? ポンコツ王子なりにすごく頑張ってたって言うか? わたしもちょっとは見直したって言うか? あ、いやもちろんちょっとだけだよ? ほんのちょっとなんだけどね? 敢えて言うとって言うか?」
「はぁ……左様ですか。それでしたら、ジェイク様は今日は少々お疲れのようでして。おそらくもうお休みになられているのではないかと思います。確認してきましょうか?」
「あ、そうなんだ……残念……っていやいや。別に残念でもなんでもないし? 言葉の綾だし?」
「えっと、はぁ……」
「ま、それならそれでいいわ。疲れて寝てるのを起こしちゃうのは、悪いしね。明日の朝、すっかり変わった世界を見せて驚かせてあげましょう。ふふっ、わたしの完璧な仕事っぷりに、ジェイクが感謝しすぎてむせび泣く姿が、今から目に浮かんでくるわね……!」
それに人のいいジェイクのことだ。
自分が立ち会うことよりも、ヴァルスで苦しんでいる国民のために、1秒でも早く『破邪の結界』を起動させることを望むだろう。
「ミレイユ様は、ジェイク様のことをとても大切に想われているのですね」
「あはは、なに言ってるのよアンナ。そんなんじゃないわよ、全然そんなんじゃないし……ないよね? え、あれっ?」
わたしは自分の胸に手を当ててみた。
ジェイクの顔を頭に思い浮かべてみると、トクンと大きく心臓が跳ねた気がした。
顔が赤くなった気も、した。
……えっ?
なにこれ?
って、いやいやまさかねぇ。
今は『破邪の結界』の調整を終えて、テンションがハイになってるだけだし。
きっと急性の不整脈だね。
つまり吊り橋効果だし?
ちょっと違うか。
「ミレイユ様? 急に考えこまれてしまって、どうされたんですか?」
「あ、ごめんごめん、なんでもないの。気にしないで」
「はぁ……」
そうよ、今のは単なる気の迷いよ。
わたしは考えるのやめた。
でないとドツボにはまっちゃいそうだったから。
「じゃあアンナ、よーく見てなさい。『破邪の聖女』ミレイユ・アプリコットが作り上げた、『破邪の結界ver.エルフィーナ』が立ちあがる瞬間を!」
わたしはそこで大きく溜めを作ると、右手の人さし指を1本だけ立てて天井に向け、「ビシィ!」っと降りおろした!
「『破邪の結界ver.エルフィーナ』――起動!」
その言葉とともに、わたしは結界の起動に必要な力をエイヤと注ぎ込む!
すぐにわたしの身体から、ゴソッと聖女パワーが持っていかれる感触があった。
一瞬、脱力感と立ちくらみが襲ってきたけど、アンナの見てる前で無様な姿は見せられないからね。
わたしは心の中で「ふんす!」と気合を入れると、何でもない風を装って踏みとどまる。
ほとんど間を置かずに『破邪の結界ver.エルフィーナ』が発動し、水晶室が真っ青な光で満ち満ちていく――!
「すごい……! 綺麗です……! まるで澄んだ水の中にいるみたい……!」
幻想的な青の世界に、アンナが見惚れたような声を上げた。
ふっふーん、そうでしょうとも!
これが、これこそが『破邪の結界』の放つ、青き清浄なる光の輝きなのだから!
だけどそのパワーときたら、
「すごっ!? 今までの『破邪の結界』とは比べ物にならないわ。10倍、ううん20倍は出力してるんじゃない!?」
ジェイクが解き明かしてくれたあの図は、術式のパワーを大きく増幅させるターボチャージャーという機能だった。
それを組み込んだおかげで、『破邪の結界』は今やエルフィーナ王国全土を覆いつくすほどの高出力を発揮しているのだ。
「これでエルフィーナ王国は救われるんですね……」
「ええ、そうよ。すぐにヴァルスの流行も収まるわ」
そう、わたしは見事『破邪の聖女』の仕事をやり遂げたのだった。
アンナのサポートと、ジェイクのひらめきという助けも得て、エルフィーナ王国を救ったのだ――!
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