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第二章 エルフの国エルフィーナ

第21話 完成! 破邪の結界ver.エルフィーナ!

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 そのまま一人孤独に作業に没頭すること数時間。

 『破邪の結界』をわずかに手直ししては、少しだけ起動させて反応を見るっていうのを繰り返して。

 ちょうど日付が変わろうかどうかというくらいに、

「これで……調整終了よ!」

 わたしは最後の調整をやり終えた。


「ふぅ……やれやれ……さすがに疲れたわ……」
 やり遂げた充実感から、なんとなく腕で額をぬぐう。

「うあー、ずっと座って作業をしてたから、肩とか腰とか背中がガッチガチに凝り固まってるよ……」

 んがー!とはしたなく伸びをすると、肩や腰がバキバキと鳴った。

 疲れ目でしょぼしょぼしてるし、髪はヘロヘロでぱさついてるし、あまり男性には見せられない姿だった。

 しかも途中で集中し過ぎてだいぶハイになってたからか、

「ヒャッハー!」
 とか、

「おりゃーっ!」
 とか、

「散々てこずらせてくれたわね? ほらほら、とっとと素直になりなさいな!」
 とか、

「ここがいいんでしょう? うふふ、いい反応ね!? ほらとっととイっちゃいなさいよ!」
 とか。

 ちょっと素が出てしまって、聖女らしからぬはしたない独り言を叫んじゃったけど。
 ま、ここにはわたし1人しかいなかったし、誰も聞いてなかったからいいよね。

 ノーカンノーカン。

 すると、コンコン――ガチャリ。

 水晶室のドアが勢いよく開いたかと思うと、アンナが興奮した様子で入室してきたのだ!

「無事に調整が終了したんですね! おめでとうございますミレイユ様!」

「な、なんでアンナがここにいるの!?」
 突然のアンナの登場に、わたしが思わず聞き返すと、

「え? だって『これで……調整終了よ!』ってミレイユ様は言いましたよね?」
 アンナが「ほぇっ?」て感じで首をかしげた。

「言ったけど――え、アンナってば、まさかずっとすぐそこにいたの?」

「はい。入り口のそばで調整が終わるのを待っていました」

「ええええぇっっ!? 待ってたの!? ずっと!?」

「もちろんです! だって私はミレイユ様のお付きメイドですから。なにか指示があればすぐに動けるように、ミレイユ様の近くに控えるのが当たり前ですもん」

「あ、うん、そう……だわね。でもえらく静かだったような……」

「それはもちろん、ミレイユ様の作業の邪魔にならないようにと、息を殺して控えてましたので!」

「アンナは本当に偉いわね、うん……」
 でも一言、入り口を出たとこで待ってるって言っといてほしかったかな……。

「ありがとうございます! えへへ、ミレイユ様に褒められちゃいました」
 アンナはまったく邪気のない様子で喜んでいた。

 ふぅ……落ち着くのよミレイユ・アプリコット。

 さっきのはきっと、たまたま偶然、最後のセリフが聞こえてしまったのよ。
 だから途中のはしたないあれやこれやは、聞こえていないはず……よね?

 アンナが言いふらすとは思えないけど、手違いでもあってからでは遅いし困る。
 一応、それとなく確認しておかないと……。

「あの、アンナ?」
「はい、なんでしょう?」

「今日は良い天気ね?」
「はい、雲一つない月が綺麗な夜ですね」

「ところで確認っていうか、質問っていうか、ちょっと気になった、みたいな感じなんだけど?」
「はい?」

「途中でその、ね? わたしの声的なものとかが、もしかして外にいるアンナに聞こえちゃってたりしてたのかなー、なんてわたしは聞いてみたり?」

「ああ、そのことでしたら――」

「ご、ごくり……」

「ミレイユ様ってば、すごく気合が入っておられましたよね。『キェェェ――ッ!』とか『ほら、素直に負けを認めなさい坊や』とか『だいぶいい声で鳴くようになったじゃないの』とか。まるで剣術の試合でもしているみたいに聞こえました。できる女って感じで憧れちゃいます!」

「いやーーーっっっ!!??」

 わたしの独り言が、全部まるっとするっとアンナに聞かれちゃってたんですけどぉっ!?
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