16 / 66
第二章 エルフの国エルフィーナ
第16話 オーバーテクノロジー
しおりを挟む
翌日、つまりエルフィーナ王国に来て2日目。
わたしは王宮の一角にある尖塔の最上階――『迷いの森』の結界の基部となっている、水晶室へとやってきていた。
ジェイクとアンナも、もちろん一緒だ。
「へぇ、ここが結界の基部かー。おっ、この中央に設置された綺麗な水晶が、結界を動かしているんだな?」
入ってからずっと、ジェイクが物珍しそうに室内を眺めている。
「あなたってば王族なのに、今まで入ったことがなかったの?」
「特に用がなかったからなぁ……」
そりゃあ結界を調整できるスキルがないと、ここを見ても仕方がないっちゃ仕方ないんだけど。
それにしてもジェイクという青年は、王族というにはあまりに物を知らない気がする。
まるでつい最近王族にでもなったみたいな、物の知らなさだ。
ま、どうせ今までろくに勉強してこなかっただけなんでしょうけど。
それに今はジェイクの事よりも、だ。
わたしはそれよりもなによりも、
「なにこれ、すごっ!? ウソでしょ!?」
水晶に軽くアクセスして触れてみた結界システムの、完全なまでに完成されきった姿に驚きを隠せないでいた。
「なんだ、そんなにすごいのか?」
ジェイクが軽ーく聞いてくるけど、
「すごいもなにも、大昔のエルフの大聖女ってのはいったい何者なの? 神様!?」
「いやエルフの大聖女なんだから、そりゃエルフだろ?」
「そういう意味じゃないわよ!」
「ご、ごめん……」
わたしにキレられて、ジェイクがしょんぼり静かになった。
うっ、そんな反応されると罪悪感が……。
「だってこれ、結界に自己再生・自己修復のプログラムが組み込まれてるのよ? 過去に誰もなしえたことがないって話だったのに」
いつになく熱くなってしまったわたしは、ガーっと早口でまくし立ててしまう。
だって我を忘れてしまうくらいに、ものすごい技術が使われてたんだもん!
正直、わたし程度じゃ理解できない部分がかなりありそうだ。
「ええっと、よくわからないんだが、つまりどういうことなんだ?」
「これは完全なオーバーテクノロジーよ。もう確認っていうかぶっちゃけ断定なんだけどさ、『迷いの森』の結界をメンテナンスする聖女って、いないでしょ?」
わたしは確信を持ってジェイクに聞いた。
「……そう言えばいないな。しいて言うなら、この部屋の掃除係くらいか? ちゃんと毎日掃いたり拭いたりしてるぞ」
相変わらずよくわかってないジェイクとは対照的に、
「もしかして、誰もメンテしなくても、結界が正常に作動するように作られてるってことでしょうか!?」
アンナはすぐにそのすごさに気付いたようだった。
「おおっ! なるほど! そういうことか。『迷いの森』が結界だというのなら、それをメンテするための『聖女』が必要なはずだ。なのにこれは聖女なしで大昔からずっと動き続けている――」
「そういうこと! この結界は、聖女によるメンテナンスを必要としない自己完結した完璧なシステムで動いてるわ……すごい、すごすぎる! エルフの大聖女ってのは間違いなく、史上最高の天才ね」
わたしの興奮は今や最高潮に達しようとしていた。
「ん? でも待ってくれ。ってことはだ? この結界を利用するのは無理ってことなのか!? 自己完結した完全なオーバーテクノロジーなんだよな!?」
ジェイクが、それは困るって顔をしながら言ってきた。
まったく、イチイチ表情に出しすぎでしょ。
そりゃああの、別にそれが悪いってわけじゃないんだけどね?
むしろ素直に表情を出すのは、その、えっと、ちょっとは好感持てるし?
って、今はそれは置いといて!
「まぁそこは大丈夫かな。わたしだって伊達に長年『破邪の聖女』をやってないもの。もう少ししっかり読み込めば、追加で『破邪の結界』をのっけるくらいなら十分できると思うわよ」
「それは頼もしいな! いよっ、ミレイユ! 大陸一!」
「あ、そういうヨイショはいらないから」
「そ、そう……」
わたしにすげなく返されて、ジェイクが捨てられた子犬みたいにしょんぼりと肩を落とした。
まったくもうこのぽんこつ王子ったら……。
「代わりと言ったらなんなんだけど。この結界に関する資料かなにかあったら見ておきたいんだけど、用意してもらえないかしら?」
「この結界に関する資料だな? よしっ、王宮に古い書物ばかりを収めた書庫があるから、ちょっと探してみよう」
ジェイクが言うと、
「あ、それなら私も行きます! 探す手は多い方がいいですよね?」
アンナも元気よく手を上げて追随する。
「ああ、書庫はけっこう広いからな。人手は多いに越したことはない。頼りにしてるぞアンナ」
「期待に応えられるよう、がんばります!」
すぐに話はまとまったようだった。
「じゃあオレとアンナは資料探し、ミレイユはここで結界の読み込みと分析を続けてくれ」
「健闘を祈ってるわ」
「ははは、オレに任せておけ!」
わたしは王宮の一角にある尖塔の最上階――『迷いの森』の結界の基部となっている、水晶室へとやってきていた。
ジェイクとアンナも、もちろん一緒だ。
「へぇ、ここが結界の基部かー。おっ、この中央に設置された綺麗な水晶が、結界を動かしているんだな?」
入ってからずっと、ジェイクが物珍しそうに室内を眺めている。
「あなたってば王族なのに、今まで入ったことがなかったの?」
「特に用がなかったからなぁ……」
そりゃあ結界を調整できるスキルがないと、ここを見ても仕方がないっちゃ仕方ないんだけど。
それにしてもジェイクという青年は、王族というにはあまりに物を知らない気がする。
まるでつい最近王族にでもなったみたいな、物の知らなさだ。
ま、どうせ今までろくに勉強してこなかっただけなんでしょうけど。
それに今はジェイクの事よりも、だ。
わたしはそれよりもなによりも、
「なにこれ、すごっ!? ウソでしょ!?」
水晶に軽くアクセスして触れてみた結界システムの、完全なまでに完成されきった姿に驚きを隠せないでいた。
「なんだ、そんなにすごいのか?」
ジェイクが軽ーく聞いてくるけど、
「すごいもなにも、大昔のエルフの大聖女ってのはいったい何者なの? 神様!?」
「いやエルフの大聖女なんだから、そりゃエルフだろ?」
「そういう意味じゃないわよ!」
「ご、ごめん……」
わたしにキレられて、ジェイクがしょんぼり静かになった。
うっ、そんな反応されると罪悪感が……。
「だってこれ、結界に自己再生・自己修復のプログラムが組み込まれてるのよ? 過去に誰もなしえたことがないって話だったのに」
いつになく熱くなってしまったわたしは、ガーっと早口でまくし立ててしまう。
だって我を忘れてしまうくらいに、ものすごい技術が使われてたんだもん!
正直、わたし程度じゃ理解できない部分がかなりありそうだ。
「ええっと、よくわからないんだが、つまりどういうことなんだ?」
「これは完全なオーバーテクノロジーよ。もう確認っていうかぶっちゃけ断定なんだけどさ、『迷いの森』の結界をメンテナンスする聖女って、いないでしょ?」
わたしは確信を持ってジェイクに聞いた。
「……そう言えばいないな。しいて言うなら、この部屋の掃除係くらいか? ちゃんと毎日掃いたり拭いたりしてるぞ」
相変わらずよくわかってないジェイクとは対照的に、
「もしかして、誰もメンテしなくても、結界が正常に作動するように作られてるってことでしょうか!?」
アンナはすぐにそのすごさに気付いたようだった。
「おおっ! なるほど! そういうことか。『迷いの森』が結界だというのなら、それをメンテするための『聖女』が必要なはずだ。なのにこれは聖女なしで大昔からずっと動き続けている――」
「そういうこと! この結界は、聖女によるメンテナンスを必要としない自己完結した完璧なシステムで動いてるわ……すごい、すごすぎる! エルフの大聖女ってのは間違いなく、史上最高の天才ね」
わたしの興奮は今や最高潮に達しようとしていた。
「ん? でも待ってくれ。ってことはだ? この結界を利用するのは無理ってことなのか!? 自己完結した完全なオーバーテクノロジーなんだよな!?」
ジェイクが、それは困るって顔をしながら言ってきた。
まったく、イチイチ表情に出しすぎでしょ。
そりゃああの、別にそれが悪いってわけじゃないんだけどね?
むしろ素直に表情を出すのは、その、えっと、ちょっとは好感持てるし?
って、今はそれは置いといて!
「まぁそこは大丈夫かな。わたしだって伊達に長年『破邪の聖女』をやってないもの。もう少ししっかり読み込めば、追加で『破邪の結界』をのっけるくらいなら十分できると思うわよ」
「それは頼もしいな! いよっ、ミレイユ! 大陸一!」
「あ、そういうヨイショはいらないから」
「そ、そう……」
わたしにすげなく返されて、ジェイクが捨てられた子犬みたいにしょんぼりと肩を落とした。
まったくもうこのぽんこつ王子ったら……。
「代わりと言ったらなんなんだけど。この結界に関する資料かなにかあったら見ておきたいんだけど、用意してもらえないかしら?」
「この結界に関する資料だな? よしっ、王宮に古い書物ばかりを収めた書庫があるから、ちょっと探してみよう」
ジェイクが言うと、
「あ、それなら私も行きます! 探す手は多い方がいいですよね?」
アンナも元気よく手を上げて追随する。
「ああ、書庫はけっこう広いからな。人手は多いに越したことはない。頼りにしてるぞアンナ」
「期待に応えられるよう、がんばります!」
すぐに話はまとまったようだった。
「じゃあオレとアンナは資料探し、ミレイユはここで結界の読み込みと分析を続けてくれ」
「健闘を祈ってるわ」
「ははは、オレに任せておけ!」
0
お気に入りに追加
92
あなたにおすすめの小説

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

悪役令嬢の涙
拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。
【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす
まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。
彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。
しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。
彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。
他掌編七作品収録。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します
「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」
某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。
【収録作品】
①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」
②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」
③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」
④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」
⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」
⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」
⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」
⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい
宇水涼麻
恋愛
ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。
「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」
呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。
王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。
その意味することとは?
慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?
なぜこのような状況になったのだろうか?
ご指摘いただき一部変更いたしました。
みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。
今後ともよろしくお願いします。
たくさんのお気に入り嬉しいです!
大変励みになります。
ありがとうございます。
おかげさまで160万pt達成!
↓これよりネタバレあらすじ
第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。
親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。
ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください>
私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる