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第二章 エルフの国エルフィーナ
第16話 オーバーテクノロジー
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翌日、つまりエルフィーナ王国に来て2日目。
わたしは王宮の一角にある尖塔の最上階――『迷いの森』の結界の基部となっている、水晶室へとやってきていた。
ジェイクとアンナも、もちろん一緒だ。
「へぇ、ここが結界の基部かー。おっ、この中央に設置された綺麗な水晶が、結界を動かしているんだな?」
入ってからずっと、ジェイクが物珍しそうに室内を眺めている。
「あなたってば王族なのに、今まで入ったことがなかったの?」
「特に用がなかったからなぁ……」
そりゃあ結界を調整できるスキルがないと、ここを見ても仕方がないっちゃ仕方ないんだけど。
それにしてもジェイクという青年は、王族というにはあまりに物を知らない気がする。
まるでつい最近王族にでもなったみたいな、物の知らなさだ。
ま、どうせ今までろくに勉強してこなかっただけなんでしょうけど。
それに今はジェイクの事よりも、だ。
わたしはそれよりもなによりも、
「なにこれ、すごっ!? ウソでしょ!?」
水晶に軽くアクセスして触れてみた結界システムの、完全なまでに完成されきった姿に驚きを隠せないでいた。
「なんだ、そんなにすごいのか?」
ジェイクが軽ーく聞いてくるけど、
「すごいもなにも、大昔のエルフの大聖女ってのはいったい何者なの? 神様!?」
「いやエルフの大聖女なんだから、そりゃエルフだろ?」
「そういう意味じゃないわよ!」
「ご、ごめん……」
わたしにキレられて、ジェイクがしょんぼり静かになった。
うっ、そんな反応されると罪悪感が……。
「だってこれ、結界に自己再生・自己修復のプログラムが組み込まれてるのよ? 過去に誰もなしえたことがないって話だったのに」
いつになく熱くなってしまったわたしは、ガーっと早口でまくし立ててしまう。
だって我を忘れてしまうくらいに、ものすごい技術が使われてたんだもん!
正直、わたし程度じゃ理解できない部分がかなりありそうだ。
「ええっと、よくわからないんだが、つまりどういうことなんだ?」
「これは完全なオーバーテクノロジーよ。もう確認っていうかぶっちゃけ断定なんだけどさ、『迷いの森』の結界をメンテナンスする聖女って、いないでしょ?」
わたしは確信を持ってジェイクに聞いた。
「……そう言えばいないな。しいて言うなら、この部屋の掃除係くらいか? ちゃんと毎日掃いたり拭いたりしてるぞ」
相変わらずよくわかってないジェイクとは対照的に、
「もしかして、誰もメンテしなくても、結界が正常に作動するように作られてるってことでしょうか!?」
アンナはすぐにそのすごさに気付いたようだった。
「おおっ! なるほど! そういうことか。『迷いの森』が結界だというのなら、それをメンテするための『聖女』が必要なはずだ。なのにこれは聖女なしで大昔からずっと動き続けている――」
「そういうこと! この結界は、聖女によるメンテナンスを必要としない自己完結した完璧なシステムで動いてるわ……すごい、すごすぎる! エルフの大聖女ってのは間違いなく、史上最高の天才ね」
わたしの興奮は今や最高潮に達しようとしていた。
「ん? でも待ってくれ。ってことはだ? この結界を利用するのは無理ってことなのか!? 自己完結した完全なオーバーテクノロジーなんだよな!?」
ジェイクが、それは困るって顔をしながら言ってきた。
まったく、イチイチ表情に出しすぎでしょ。
そりゃああの、別にそれが悪いってわけじゃないんだけどね?
むしろ素直に表情を出すのは、その、えっと、ちょっとは好感持てるし?
って、今はそれは置いといて!
「まぁそこは大丈夫かな。わたしだって伊達に長年『破邪の聖女』をやってないもの。もう少ししっかり読み込めば、追加で『破邪の結界』をのっけるくらいなら十分できると思うわよ」
「それは頼もしいな! いよっ、ミレイユ! 大陸一!」
「あ、そういうヨイショはいらないから」
「そ、そう……」
わたしにすげなく返されて、ジェイクが捨てられた子犬みたいにしょんぼりと肩を落とした。
まったくもうこのぽんこつ王子ったら……。
「代わりと言ったらなんなんだけど。この結界に関する資料かなにかあったら見ておきたいんだけど、用意してもらえないかしら?」
「この結界に関する資料だな? よしっ、王宮に古い書物ばかりを収めた書庫があるから、ちょっと探してみよう」
ジェイクが言うと、
「あ、それなら私も行きます! 探す手は多い方がいいですよね?」
アンナも元気よく手を上げて追随する。
「ああ、書庫はけっこう広いからな。人手は多いに越したことはない。頼りにしてるぞアンナ」
「期待に応えられるよう、がんばります!」
すぐに話はまとまったようだった。
「じゃあオレとアンナは資料探し、ミレイユはここで結界の読み込みと分析を続けてくれ」
「健闘を祈ってるわ」
「ははは、オレに任せておけ!」
わたしは王宮の一角にある尖塔の最上階――『迷いの森』の結界の基部となっている、水晶室へとやってきていた。
ジェイクとアンナも、もちろん一緒だ。
「へぇ、ここが結界の基部かー。おっ、この中央に設置された綺麗な水晶が、結界を動かしているんだな?」
入ってからずっと、ジェイクが物珍しそうに室内を眺めている。
「あなたってば王族なのに、今まで入ったことがなかったの?」
「特に用がなかったからなぁ……」
そりゃあ結界を調整できるスキルがないと、ここを見ても仕方がないっちゃ仕方ないんだけど。
それにしてもジェイクという青年は、王族というにはあまりに物を知らない気がする。
まるでつい最近王族にでもなったみたいな、物の知らなさだ。
ま、どうせ今までろくに勉強してこなかっただけなんでしょうけど。
それに今はジェイクの事よりも、だ。
わたしはそれよりもなによりも、
「なにこれ、すごっ!? ウソでしょ!?」
水晶に軽くアクセスして触れてみた結界システムの、完全なまでに完成されきった姿に驚きを隠せないでいた。
「なんだ、そんなにすごいのか?」
ジェイクが軽ーく聞いてくるけど、
「すごいもなにも、大昔のエルフの大聖女ってのはいったい何者なの? 神様!?」
「いやエルフの大聖女なんだから、そりゃエルフだろ?」
「そういう意味じゃないわよ!」
「ご、ごめん……」
わたしにキレられて、ジェイクがしょんぼり静かになった。
うっ、そんな反応されると罪悪感が……。
「だってこれ、結界に自己再生・自己修復のプログラムが組み込まれてるのよ? 過去に誰もなしえたことがないって話だったのに」
いつになく熱くなってしまったわたしは、ガーっと早口でまくし立ててしまう。
だって我を忘れてしまうくらいに、ものすごい技術が使われてたんだもん!
正直、わたし程度じゃ理解できない部分がかなりありそうだ。
「ええっと、よくわからないんだが、つまりどういうことなんだ?」
「これは完全なオーバーテクノロジーよ。もう確認っていうかぶっちゃけ断定なんだけどさ、『迷いの森』の結界をメンテナンスする聖女って、いないでしょ?」
わたしは確信を持ってジェイクに聞いた。
「……そう言えばいないな。しいて言うなら、この部屋の掃除係くらいか? ちゃんと毎日掃いたり拭いたりしてるぞ」
相変わらずよくわかってないジェイクとは対照的に、
「もしかして、誰もメンテしなくても、結界が正常に作動するように作られてるってことでしょうか!?」
アンナはすぐにそのすごさに気付いたようだった。
「おおっ! なるほど! そういうことか。『迷いの森』が結界だというのなら、それをメンテするための『聖女』が必要なはずだ。なのにこれは聖女なしで大昔からずっと動き続けている――」
「そういうこと! この結界は、聖女によるメンテナンスを必要としない自己完結した完璧なシステムで動いてるわ……すごい、すごすぎる! エルフの大聖女ってのは間違いなく、史上最高の天才ね」
わたしの興奮は今や最高潮に達しようとしていた。
「ん? でも待ってくれ。ってことはだ? この結界を利用するのは無理ってことなのか!? 自己完結した完全なオーバーテクノロジーなんだよな!?」
ジェイクが、それは困るって顔をしながら言ってきた。
まったく、イチイチ表情に出しすぎでしょ。
そりゃああの、別にそれが悪いってわけじゃないんだけどね?
むしろ素直に表情を出すのは、その、えっと、ちょっとは好感持てるし?
って、今はそれは置いといて!
「まぁそこは大丈夫かな。わたしだって伊達に長年『破邪の聖女』をやってないもの。もう少ししっかり読み込めば、追加で『破邪の結界』をのっけるくらいなら十分できると思うわよ」
「それは頼もしいな! いよっ、ミレイユ! 大陸一!」
「あ、そういうヨイショはいらないから」
「そ、そう……」
わたしにすげなく返されて、ジェイクが捨てられた子犬みたいにしょんぼりと肩を落とした。
まったくもうこのぽんこつ王子ったら……。
「代わりと言ったらなんなんだけど。この結界に関する資料かなにかあったら見ておきたいんだけど、用意してもらえないかしら?」
「この結界に関する資料だな? よしっ、王宮に古い書物ばかりを収めた書庫があるから、ちょっと探してみよう」
ジェイクが言うと、
「あ、それなら私も行きます! 探す手は多い方がいいですよね?」
アンナも元気よく手を上げて追随する。
「ああ、書庫はけっこう広いからな。人手は多いに越したことはない。頼りにしてるぞアンナ」
「期待に応えられるよう、がんばります!」
すぐに話はまとまったようだった。
「じゃあオレとアンナは資料探し、ミレイユはここで結界の読み込みと分析を続けてくれ」
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