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第一章 婚約破棄された聖女と、エルフの国の土下座王子
第9話 迷いの森 2
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「そういうこと。だから多分だけど、『迷いの森』にかかっている結界を、『破邪の結界』に利用できるかもしれないわ」
「おおっ、そういうことか!」
ジェイクもやっと、わたしの言いたいことがわかったみたいだった。
「もしゼロから『破邪の結界』を構築するなら、最短でも2か月はかかるだろうけど――」
「なっ、結界の構築に2か月だって!? 結界を作るというのは、そんなに時間がかかるものなのか!?」
ジェイクが心底驚いたって声を上げる。
「そりゃそうよ。結界の基部をどこにおくかとか、どこまで範囲を指定するかとか、阻害するような要素は無いかとか、いろいろ決めないといけないし」
「む、むぅ……確かに」
「それに実際に発動してからも、いろんなところを微調整して詰めてかなきゃいけないんだから」
「な、なんと……」
「問題が出た個所の現地調査だって必要になってくるし。2か月っていうのも、死ぬ気でやってどうにかってところなんだからね?」
「そうだったんだな……だがそんなに時間がかかっていては、被害がどんどん広がってしまうぞ……あ、いや、今のはミレイユを責めたわけじゃなくて……むしろ責めるべきは、オレ自身の見通しの甘さだったというか……」
ジェイクが力なくつぶやいた。
ジェイクは本当に民のことを真剣に考えていて、民のために必死に行動し、そして素直に自分の非を認めることができる。
そんな「ポンコツ王子」の評価をわたしは大幅に上方修正するとともに、なんていうかその、わたしは少しだけ好意のようなものを感じ始めてたんだ。
「ま、普通ならね」
だからわたしは、少しだけ優しい声色で言ってみた。
少しだけだよ?
ほんのちょっとだけなんだから。
か、勘違いしないでよねっ!?
「普通なら……?」
ジェイクが聞き返してくる。
「ゼロから結界を構築するんじゃなくて、『迷いの森』にかかっている結界を利用して、基礎的なところは全部流用しちゃって、一部上乗せするように『破邪の結界』を構築できれば――そうね、1週間もあればできるんじゃないかしら?」
「最短でも2か月かかるものを、たった1週間で!? それは本当か!?」
「もちろん実際やってみたら、いろんな問題が出てくるでしょうけど。でも協力さえしてくれれば、多分それくらいでできるんじゃないかな? 少なくともゼロから『破邪の結界』を構築するよりは、はるかに早くできるはずよ」
「ぜひその方向で頼む! もちろんオレも全面的に協力するぞ! 何でも言ってくれ!」
ジェイクの熱い言葉に、
「あの、わたしもぜひ協力させてください! ミレイユ様のお手伝いがしたいんです!」
ここまで静かに話を聞いていたアンナも、ぴょこんと手を上げた。
「アンナみたいな頭のいい子が手伝ってくれると、とっても助かるけど――」
わたしはジェイクに確認するように視線を向けた。
すると、
「ふむ、そうだな。ならばこれよりアンナを、『破邪の聖女』ミレイユのお付きメイドに任命する。今後はミレイユを鋭意サポートしてやってほしい」
「かしこまりました!」
元気よく答えたアンナが、指を伸ばした手を額に当てる、軍隊の敬礼っぽいポーズをとった。
でもいかにも適当だし、特に意味はなさそう。
可愛いからいいけど。
「他の者にもミレイユに最大限の協力をするよう伝えておく。だからミレイユ、どうかよろしく頼みたい」
「はい、任されました。聖女として『破邪の結界』の構築に全力を注ぎます」
とまぁ、馬車の中でとんとん拍子に話は進んでいって。
そして次第に前方が明るくなり始めた。
広大な『迷いの森』をそろそろ抜けるのだ――。
「おおっ、そういうことか!」
ジェイクもやっと、わたしの言いたいことがわかったみたいだった。
「もしゼロから『破邪の結界』を構築するなら、最短でも2か月はかかるだろうけど――」
「なっ、結界の構築に2か月だって!? 結界を作るというのは、そんなに時間がかかるものなのか!?」
ジェイクが心底驚いたって声を上げる。
「そりゃそうよ。結界の基部をどこにおくかとか、どこまで範囲を指定するかとか、阻害するような要素は無いかとか、いろいろ決めないといけないし」
「む、むぅ……確かに」
「それに実際に発動してからも、いろんなところを微調整して詰めてかなきゃいけないんだから」
「な、なんと……」
「問題が出た個所の現地調査だって必要になってくるし。2か月っていうのも、死ぬ気でやってどうにかってところなんだからね?」
「そうだったんだな……だがそんなに時間がかかっていては、被害がどんどん広がってしまうぞ……あ、いや、今のはミレイユを責めたわけじゃなくて……むしろ責めるべきは、オレ自身の見通しの甘さだったというか……」
ジェイクが力なくつぶやいた。
ジェイクは本当に民のことを真剣に考えていて、民のために必死に行動し、そして素直に自分の非を認めることができる。
そんな「ポンコツ王子」の評価をわたしは大幅に上方修正するとともに、なんていうかその、わたしは少しだけ好意のようなものを感じ始めてたんだ。
「ま、普通ならね」
だからわたしは、少しだけ優しい声色で言ってみた。
少しだけだよ?
ほんのちょっとだけなんだから。
か、勘違いしないでよねっ!?
「普通なら……?」
ジェイクが聞き返してくる。
「ゼロから結界を構築するんじゃなくて、『迷いの森』にかかっている結界を利用して、基礎的なところは全部流用しちゃって、一部上乗せするように『破邪の結界』を構築できれば――そうね、1週間もあればできるんじゃないかしら?」
「最短でも2か月かかるものを、たった1週間で!? それは本当か!?」
「もちろん実際やってみたら、いろんな問題が出てくるでしょうけど。でも協力さえしてくれれば、多分それくらいでできるんじゃないかな? 少なくともゼロから『破邪の結界』を構築するよりは、はるかに早くできるはずよ」
「ぜひその方向で頼む! もちろんオレも全面的に協力するぞ! 何でも言ってくれ!」
ジェイクの熱い言葉に、
「あの、わたしもぜひ協力させてください! ミレイユ様のお手伝いがしたいんです!」
ここまで静かに話を聞いていたアンナも、ぴょこんと手を上げた。
「アンナみたいな頭のいい子が手伝ってくれると、とっても助かるけど――」
わたしはジェイクに確認するように視線を向けた。
すると、
「ふむ、そうだな。ならばこれよりアンナを、『破邪の聖女』ミレイユのお付きメイドに任命する。今後はミレイユを鋭意サポートしてやってほしい」
「かしこまりました!」
元気よく答えたアンナが、指を伸ばした手を額に当てる、軍隊の敬礼っぽいポーズをとった。
でもいかにも適当だし、特に意味はなさそう。
可愛いからいいけど。
「他の者にもミレイユに最大限の協力をするよう伝えておく。だからミレイユ、どうかよろしく頼みたい」
「はい、任されました。聖女として『破邪の結界』の構築に全力を注ぎます」
とまぁ、馬車の中でとんとん拍子に話は進んでいって。
そして次第に前方が明るくなり始めた。
広大な『迷いの森』をそろそろ抜けるのだ――。
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