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第一章 婚約破棄された聖女と、エルフの国の土下座王子
第6話 「合わせて一本」
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「えっとジェイクって言ってましたよね? 一つ聞いてもいいかしら?」
「いいぞ、何でも聞いてくれ」
「ジェイクは一応、王子さまって設定なのよね? なのにこんな土下座なんかしてプライドとか誇りはないのかしら?」
王侯貴族っていうのは基本的に自分大好きなナルシストで、メンツとプライドのかたまりだ。
だから格下だと思った相手に頭を下げることを、何よりも嫌うものなのだ。
この1週間ほども、わたしが婚約破棄&聖女解任されて庶民に戻ったと知ったとたん、今までのうっぷんをはらすかのように、いろんな貴族たちから嫌味を言われまくったし。
なにが、
『長年に渡る聖女のおつとめご苦労様でした。あとはヴェロニカ王女にお任せになって、ミレイユ殿はゆっくりとお過ごしください』
だ。
これ見よがしにヴェロニカ王女の名前を出すってことは、なにがどうなったのかほんとの経緯を知ってるくせに!
くっそー、思いだすだけでも腹が立ってくるし。
覚えておきなさいよね。
おっとっと、話が逸れちゃった。
で、まぁ、わたしもあまりプライドとかはない方なんだけど、そんな王侯貴族のプライドをかなぐり捨ててひたすら土下座を続ける姿を見せられて、さすがに気になって聞いてみたんだ。
すると、
「プライドを守りながら民を守れればいいさ。だけど残念なことに、オレのちんけなプライドなんぞでは、とても民を守りきれないんだ。オレにはもう、『破邪の聖女』であるミレイユの力を借りるしか、手は残されてないんだ」
ものすっごく真剣な声でそんなことを言うんだ。
「あと設定じゃないからな? 俺は正真正銘エルフィーナ王国の王子だから」
すごくすごく真剣な答えが返ってきて。
だからわたしも、少しだけ心が揺れ動きはしたんだけれど。
「うーん……そうは言ってもねぇ……」
見知らぬ男の言葉を信じてついていくには、まだもうちょっと足りないって言うか……。
テコでも動かないって感じの土下座王子に、わたしが心底困り果てていると。
見るに見かねたって様子で、一人の少女がわたしたちのところに近づいてきた。
「ジェイク様、そんなやり方じゃダメダメですよ」
そう言って土下座する青年ハーフエルフに声をかけたのは、
「あれ? あなたって確か、この前2人組のよっぱらいに路地裏に連れ込まれそうになってた女の子――」
わたしが助けたエルフの少女だったんだ。
「その節はありがとうございました、『破邪の聖女』ミレイユ様」
「いえいえ、人として当たり前のことをしただけだから気にしないで。ところで今、この人のことをジェイク様って呼んだよね?」
「はい、こちらで見事な土下座を披露しておられるのは、エルフィーナ王国第一王子、ジェイク・ミストラル・フォン・エルフィーナ様にございますので」
「ってことは、この土下座自称王子、ほんとに王子さまだったのね……」
「はい、ほんとに王子さまだったんです」
「あの、失礼を承知で言うんだけど、全然そうは見えないっていうか。威厳とか風格とか貴族のオーラとか、そういう高貴な感じが全然感じられないっていうか……」
「それはその、ジェイク様には色々と事情がありまして……」
エルフの少女が苦笑いのような表情を浮かべた。
ふむ。
どうやらこの土下座王子、たいそうな訳あり王子らしかった。
そしてこの女の子は助けた時に少し話をしたんだけど、すごく素直ないい子だったの。
王都にあるエルフの自治組合で、事務官として働いてるとか言ってたっけ。
だから多分だけど、嘘は言っていないって思う。
ってことはこのジェイクなる土下座王子は、本当にエルフの国エルフィーナの王子さまで。
そしてエルフィーナではヴァルスが蔓延しているのだろう。
ここまでのやり取りを思い起こしながら、わたしはそう結論付けると、
「そうね、わかったわ。あなたと一緒にエルフィーナに行きましょう」
簡潔にそう言った。
「そう言わずに、どうかオレと来てくれ――って! 本当か、ミレイユ!? 一緒に来てくれるのか!?」
土下座王子――ジェイクが目を輝かせて見上げてくる。
「ええ、聖女に二言はないわよ。まぁ元・聖女だけどね」
ジェイクのことはまだ完全には信用はできないけれど、このエルフの少女についてはそれなりに信用はできる。
ま、2人で「合わせて一本」ってところかな。
「ありがたい! 聖女ミレイユの英断に心よりの感謝を!」
ジェイクは土下座から立ちあがると、わたしの手を両手で握ってぶんぶんと上下に振ってきた。
まったくもう、嬉しいのは分かるけど、なんだか子供に懐かれてるみたいなんだけど……。
――とまぁ、そんなこんながあって。
わたしは婚約者を第二王女に寝取られて、長年勤めてきた『破邪の聖女』を解任されたあげく、王都を追放されてしまったんだけど。
突如として現れたハーフエルフの王子さまに請われて、エルフの国エルフィーナに招かれることになったのだった。
「いいぞ、何でも聞いてくれ」
「ジェイクは一応、王子さまって設定なのよね? なのにこんな土下座なんかしてプライドとか誇りはないのかしら?」
王侯貴族っていうのは基本的に自分大好きなナルシストで、メンツとプライドのかたまりだ。
だから格下だと思った相手に頭を下げることを、何よりも嫌うものなのだ。
この1週間ほども、わたしが婚約破棄&聖女解任されて庶民に戻ったと知ったとたん、今までのうっぷんをはらすかのように、いろんな貴族たちから嫌味を言われまくったし。
なにが、
『長年に渡る聖女のおつとめご苦労様でした。あとはヴェロニカ王女にお任せになって、ミレイユ殿はゆっくりとお過ごしください』
だ。
これ見よがしにヴェロニカ王女の名前を出すってことは、なにがどうなったのかほんとの経緯を知ってるくせに!
くっそー、思いだすだけでも腹が立ってくるし。
覚えておきなさいよね。
おっとっと、話が逸れちゃった。
で、まぁ、わたしもあまりプライドとかはない方なんだけど、そんな王侯貴族のプライドをかなぐり捨ててひたすら土下座を続ける姿を見せられて、さすがに気になって聞いてみたんだ。
すると、
「プライドを守りながら民を守れればいいさ。だけど残念なことに、オレのちんけなプライドなんぞでは、とても民を守りきれないんだ。オレにはもう、『破邪の聖女』であるミレイユの力を借りるしか、手は残されてないんだ」
ものすっごく真剣な声でそんなことを言うんだ。
「あと設定じゃないからな? 俺は正真正銘エルフィーナ王国の王子だから」
すごくすごく真剣な答えが返ってきて。
だからわたしも、少しだけ心が揺れ動きはしたんだけれど。
「うーん……そうは言ってもねぇ……」
見知らぬ男の言葉を信じてついていくには、まだもうちょっと足りないって言うか……。
テコでも動かないって感じの土下座王子に、わたしが心底困り果てていると。
見るに見かねたって様子で、一人の少女がわたしたちのところに近づいてきた。
「ジェイク様、そんなやり方じゃダメダメですよ」
そう言って土下座する青年ハーフエルフに声をかけたのは、
「あれ? あなたって確か、この前2人組のよっぱらいに路地裏に連れ込まれそうになってた女の子――」
わたしが助けたエルフの少女だったんだ。
「その節はありがとうございました、『破邪の聖女』ミレイユ様」
「いえいえ、人として当たり前のことをしただけだから気にしないで。ところで今、この人のことをジェイク様って呼んだよね?」
「はい、こちらで見事な土下座を披露しておられるのは、エルフィーナ王国第一王子、ジェイク・ミストラル・フォン・エルフィーナ様にございますので」
「ってことは、この土下座自称王子、ほんとに王子さまだったのね……」
「はい、ほんとに王子さまだったんです」
「あの、失礼を承知で言うんだけど、全然そうは見えないっていうか。威厳とか風格とか貴族のオーラとか、そういう高貴な感じが全然感じられないっていうか……」
「それはその、ジェイク様には色々と事情がありまして……」
エルフの少女が苦笑いのような表情を浮かべた。
ふむ。
どうやらこの土下座王子、たいそうな訳あり王子らしかった。
そしてこの女の子は助けた時に少し話をしたんだけど、すごく素直ないい子だったの。
王都にあるエルフの自治組合で、事務官として働いてるとか言ってたっけ。
だから多分だけど、嘘は言っていないって思う。
ってことはこのジェイクなる土下座王子は、本当にエルフの国エルフィーナの王子さまで。
そしてエルフィーナではヴァルスが蔓延しているのだろう。
ここまでのやり取りを思い起こしながら、わたしはそう結論付けると、
「そうね、わかったわ。あなたと一緒にエルフィーナに行きましょう」
簡潔にそう言った。
「そう言わずに、どうかオレと来てくれ――って! 本当か、ミレイユ!? 一緒に来てくれるのか!?」
土下座王子――ジェイクが目を輝かせて見上げてくる。
「ええ、聖女に二言はないわよ。まぁ元・聖女だけどね」
ジェイクのことはまだ完全には信用はできないけれど、このエルフの少女についてはそれなりに信用はできる。
ま、2人で「合わせて一本」ってところかな。
「ありがたい! 聖女ミレイユの英断に心よりの感謝を!」
ジェイクは土下座から立ちあがると、わたしの手を両手で握ってぶんぶんと上下に振ってきた。
まったくもう、嬉しいのは分かるけど、なんだか子供に懐かれてるみたいなんだけど……。
――とまぁ、そんなこんながあって。
わたしは婚約者を第二王女に寝取られて、長年勤めてきた『破邪の聖女』を解任されたあげく、王都を追放されてしまったんだけど。
突如として現れたハーフエルフの王子さまに請われて、エルフの国エルフィーナに招かれることになったのだった。
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