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第二章

第20話 精霊ばぁやの、洞くつ(4)

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 転がってくる大岩と大きな川を突破したボクとセフィは、さらに奥へと精霊の洞くつを進んでいく。

 すると奥に門がある部屋にたどりついた。
 そしてそこには、とあるモノが置いてあった。

「ねぇ、セフィ。これって……」
「はい、これって……」

「あれだよね」
「あれですよね」

「もぐら叩き、だよね?」
「もぐら叩き、ですよね?」

 そこにはもぐら叩きのゲーム台が、置いてあったんだ!

 もぐら叩きっていうのは、台に穴がいくつも空いていて、そこから顔を出したもぐらを、ぴこぴこハンマーで叩くっていう体感ゲームだ。

 叩いていくうちにもぐらが出てくるスピードがどんどん速くなって、難しくなっていくのだ。

「ここにあるってことは、これもトラップなんだよね?」
「きっとそうだと思います」

「つまり、これをクリアしろってことだよね?」

「はい、そういうことじゃないかと。クリアするときっと奥にある門が開くんじゃないでしょうか?」
 セフィもちょっとだけ、困った顔をしている。

 そりゃあ、そうだよね。
 いきなりもぐら叩きをすることになったんだから。

 ほんと、なんでもぐら叩きなんだろう?
 まぁ楽しそうだからいいんだけど。

「ねぇねぇセフィ。ボクが先にやってみていいかな?」
 ボクはワクワクを隠せないままで言った。

「ぜひお願いします。わたしは体を動かすのはあまり上手じゃないので」
「任せて! パパっとクリアしちゃうよ!」

 というわけで。
 ボクはぴこぴこハンマーを持つと、もぐら叩きをスタートした。

 初めのうちはもぐらもゆっくり出てくるので、とても簡単だ。
 だからボクは出てくるモグラを、次から次へと叩いていくんだけど――、

「こっち、そっち、あっち! こっち、じゃないあっち――うわっ! ううっ、また失敗だ……」

 ボクはもうちょっとでクリアできそう、というところで何回もミスをしてしまっていた。
 最後らへんになると、もぐらがものすごいスピードで出てくるからだ。

「ねぇセフィ、これちょっと速すぎない?」

 何度も何度も失敗してしまって、ボクもう疲れちゃったよ。
 こんな速かったら、大人でもクリアできないんじゃないかなぁ……。

 ただ、それでも。
 ボクは諦めるわけにはいかなかったんだ。

 絶対に精霊ばぁやに会って、精霊剣プリズマノワールの本当の力を使えるようにならないといけなかったから。

「よしっ!」
 ボクはもう一度、気合いを入れなおした。
 すると、

「ハルトくん、次はわたしがやってみてもいいでしょうか?」
 セフィが小さく手をあげると、ちょっと控えめにそう言ってくる。

「いいけど、でもセフィは運動が苦手だったよね?」

 もぐら叩きは反射神経が大切だから、セフィにはクリアは難しいんじゃないかなって、ボクはそんな風に思ったんだけど、

「それなら大丈夫です。もぐらが出てくるパターンは全部覚えましたので」
 セフィがちょっと自信げに言った。

 ドヤ顔っていうやつだ。
 いつも控えめなセフィがこんな風に自信満々なのは珍しいな。
 ってことは、相当な自信があると見た!

 でも、

「ええ──っ!? もぐらの出てくるパターンを全部覚えたって!?」
「はい」

「そんなことできるの!?」
「わたし、覚えるのはとっても得意ですから」

「ってことは――」
「どの穴からもぐらが顔を出すのか、わたしには分かるということです」
「っ! すごいよセフィ!」

 ボクは心の底からビックリしていた。
 ビックリしすぎて、心臓が止まりそうなくらいビックリしていた。

 ほんとセフィは頼りになるお姫さまだよね!

「ではいきます!」
 もぐら叩きがスタートすると、セフィがすごく真剣な顔になった。

 こ、これは!
 これは戦いに向かうときの、覚悟を決めた者の目だ!

 セフィが最初の10匹を叩く。
 運動が苦手というのはほんとみたいで、あまり上手くはない。

 まだ始まったばかりでもぐらもゆっくりなのに、どうにかギリギリだった。
 でも――!

「分かりました。これはパターンAですっ!」
 セフィが、よしっ! という顔になる。

 もぐら叩きのスピードが少しずつ早くなっていく。
 でもセフィはどれだけもぐらがはやく出てきても、その全部を狙いうちして、もぐらを叩いていった。

「すごいよ、セフィ!」

「ふふん、どれだけ速くてもどの穴からもぐらが顔を出すか分かっていれば、これくらい、どうと言うことはありませんっ!」

 か、かっこいい!
 今のセフィ、すごくかっこいいよ!
 ブラボー!

 そしてセフィは、そのままもぐらたたきをあっさりとクリアしちゃったのだった。
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