精霊の国の勇者ハルト

マナシロカナタ✨ねこたま✨GCN文庫

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第一章

第3話 勇者カゼ・ハルト

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 だけど同時にボクには疑問があった。

「どうしてボクがこの世界に召喚しょうかん、えっと召喚って呼びだすってことだよね? されたの?」

「それなのですが……」

 セフィロト姫は少し下を向くと、表情をくもらせた。
 それだけで大変なことになってるってことが、ヒシヒシと伝わってくる。

「実は今この桃源郷とうげんきょうは、闇の精霊たちによる突然の攻撃を受けているんです」

「ええっ!?」
 闇の精霊だって!?

「闇の精霊たちはどれもとても強大で、わたしたちはこのセフィロト城まで追いつめられてしまいました」

「まさか……ボクを召喚したのって……」

「お願いです勇者さま! どうか勇者さまの力でもって、わたしたちをお救いねがえませんか?」

 セフィロト姫が真剣な顔でそう言った。

「いちおう確認なんだけど……」
「なんでしょうか?」

「さっきから気になってたんだけど、勇者さまってボクのこと……?」

「はい、勇者さまです! えっとそういえば、まだお名前をお聞きしていませんでしたね」

「あ、ボクの名前は加瀬かぜ大翔はると、小学5年生なんだ」

「カゼ・ハルトさま! すごいです、伝説の勇者カミカゼ・ハルトとほとんど同じ名前です!」

「うっ、そうなんだけど。その、えっと、名前は一緒でもボクは戦ったことなんてないし、ケンカだってしたこともなくて――」

「そうなんですか……」

 ボクの答えを聞いたセフィロト姫が、しょんぼりと肩を落とした。
 そんなセフィロト姫を見て、ボクの心がざわざわっとざわめいた。

 この女の子を泣かせちゃいけない――そんな風にボクは思ったんだ。
 だから――、

「やるよ」
 ボクはそう言った。

「――え?」
「ボクがやるよ」

「いいんですか?」
「もちろん。ボクにやらせて」

 だって本の中の精霊騎士カミカゼ・ハルトは、困っている人を見たらいつだって助けてあげてたじゃないか。

 今ボクの目の前でセフィロト姫が――女の子が泣きそうな顔をしてるんだ。

 しかもボクにしかできないことだって、そう言ってくれてるんだ。

 もしカミカゼ・ハルトだったら、泣いている女の子を絶対にそのままになんかしやしないから!

 なによりセフィロト姫はボクを頼ってくれた。
 友だちもいなくて1人で本を読むだけだったボクを、勇者さまって呼んで頼ってくれたんだ!

 ボクはその気持ちに応えたい!

 それにボクは戦ったことなんてないけど、もしここが本にある通りの世界だったのなら――!

 この世界にはきっと、助けてくれる精霊がたくさんいるはずだから。

 ううん、いる!
 今だってたくさんの精霊たちが、ボクを見てくれているじゃないか――!

 カミカゼ・ハルトがそうだったように、ボクもきっと精霊を使うことができる!
 そんな確信がボクにはあった!

 ボクは試しに周りにいる精霊の一体に呼びかけてみた。

「君は風の精霊・シルフィードだよね?」

 ボクの呼びかけに風の精霊が1体、姿を見せる。

 精霊は普段は空気と同じで透明になっていて。
 だから普通の人からは見えないんだ。

 そして、

『はーい♪』

 風の精霊・シルフィードはボクの周りをくるくると飛び回りながら、笑顔で返事をしてくれた。

 よしっ、やっぱりそうだ!
 精霊と会話ができる!

 これなら――!

「さすがです勇者さま! もう精霊とお話ができるなんて!」
「これくらい朝飯前さ! だってボクは勇者なんでしょ?」

 そうだよ。
 ボクは勇者カゼ・ハルトなんだ!

「この子たちの、精霊の力を借りればボクは戦えるんだ!」

 勇者として召喚されて。
 目の前に困っている女の子がいて、その子が綺麗なお姫さまで。
 そんな子にお願いですって頼られて――!

 ずっとボクが憧れていた世界が、今ボクの目の前にあるんだ。

 だったらボクはこの世界で、みんなを助ける勇者ハルトに――勇者カゼ・ハルトになってみせる!

「だからセフィロト姫。これからどうすればいいか教えてくれないかな? 闇の精霊たちの目的は何なの?」
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