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第9章 蒼太、決意の時

第168話 翌朝

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 翌朝。
 俺がいつものように普段より1本早いバスに乗ると――既にこのバスが俺の『普通』になりつつあるが――優香がいた。
 バスの乗り口をじっと見ている優香と視線が絡まる。

「おはよう優香」
「蒼太くん、おはよう。隣開いてるよ♪」

 先に俺が声をかけると、優香はいつもの20%増しのような素敵な笑顔で挨拶を返してきた。
 俺も自然と20%増しの笑顔になる。

「サンキュー」
 言って、優香の隣に腰を下ろすと、すぐに優香が恋人繋ぎをしてきた。

 指の間にするりと入って来た優香の指の柔らかい感触に、俺は朝から幸せの絶頂を感じずにはいられない。

「えへへ。いいよね? バスの中だけ」
「もちろん」

 バスの中には、同じ制服を着ている人間は少ないとはいえゼロではない。
 が、俺たちは2人席に隣り合わせで座っていたので、全然目立つことはなかった。
 もちろん断る理由なんてない。

 ……さすがに学校内だとちょっと恥ずかしいけどな。
 昨日はキスの流れもあったから学校内でも手を繋いだけれども。

 優香が『バスの中だけ』って言ったのは、優香も学校内で手を繋ぐのはやっぱり恥ずかしいからだろう。
 そこまでなオールレンジのバカップルは、優香も求めていないようだ。

 そしてカップルになったからといって、俺たちの関係がそこまで大きく変わるということは、ないようだった。

「昨日は嬉しくって寝れないかなぁって思ってたんだけどね? でもぐっすり寝ちゃって、気が付いたら朝だったの」

「実は俺も。最近ずっと湿度が高かったけど、昨日はカラッと涼しくて寝やすかったしな」
「だよね~。昨日すごく寝やすかったよね~!」

「ほんと朝までぐっすりだったよ」
「ふふっ、私たち気が合うよね」

 などと睡眠の話をしたかと思ったら、

「そういや、数学の宿題ってやった? というか問2って解けた?」
「やったよー。問2って、ああ、あれね――」

 今度は宿題の話をしたり、さらに天気の話をしたりと、今までと特に変わらない会話が続いていく。

 ま、俺と優香はこっそりお泊まりしたり、家族ぐるみ(美月ちゃんとだけど)でお付き合いがあったりと、普通のクラスメイトとは一線を画す仲良しな関係だったしな。
 今さらだけど、あれはもう実質付き合っていたようなものだろう。

 だから付き合ったからといって、そこまで大きく態度が変わったり、話す内容が変化したりってことはないのかもしれなかった。

 というかごくごく普通に考えて、通学のバスの中で朝から熱く愛を語ったり、イチャコラチュッチュしたり、肩に頭を乗せたりはしないだろう?
 そんなのはバカップルって言うんだ。

 もちろんデートで2人きりの時とかは、また話は変わってくる。
 彼氏となったからには、手とか繋ぎたいし、甘えられたりしてみたい。

 それでも楽しそうに普通の会話をする優香を見ていると、俺の心の幸福指数はどんどんと際限なく上がっていった。

 だって優香が――彼女が楽しそうに笑うんだもん。

 俺は多分、好きな子の笑顔を見るのが好きなタイプの人間なんだと思う。
 彼女の笑顔を見るのが嫌いなやつはそうはいないだろうけど、相対的にって意味で。

「どうしたの蒼太くん? 考え事?」
「ああ、ごめん。優香の楽しそうな顔を見ていたら、俺も幸せな気持ちになってくるなって、しみじみと実感してたんだ」

「もぅ、蒼太くんってば、朝からそんなこと言ってくれちゃって。恥ずかしいでしょー」

 とかなんとか、はにかみながら言った優香が、体重を預けるように身体を寄せてくる。
 こてんと、優香の頭が俺の肩に乗った。

「優香?」
「これくらいは、ありかなーって」
「……ありかも?」

 前言撤回。
 優香の笑顔のためなら、俺はバカップルな彼氏にでもなんでもなってやるぜ!
 守りたい、優香の笑顔!

 それでも優香はそれ以上のことはしてこなかったし、バスを降りて学校に向かい始めると、手を繋いでくることもなかった。

 俺たちはそのままいつもと同じように高校に着くと、教室に入った。
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