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第7章 優香のお泊まり大作戦

第126話 50年後の蒼太&優香

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「なんだか蒼太くん、お年寄りみたいかも?」

 そんな俺を見て優香がクスクスと楽しそうに笑う。
 さっきから優香は本当に楽しそうだ。

 俺が山盛りのフレンチトーストを完食したのが、そんなに嬉しかったのかな?
 料理人冥利に尽きるってヤツ?

 料理を作って一番嬉しいことは、全部食べてもらうことだってのはよく言われてるもんな。

「そうだな。今の気持ちはそんな感じかも。多分だけど、お爺ちゃんが縁側でのんびり日向ぼっこする気分って、こんな感じなんだろうなって思うから」

 我ながらいい例えだと思う。

「じゃあお爺ちゃん蒼太くんと同い年の私は、お婆ちゃんってことかな?」
「俺がお爺ちゃんなら、必然的にそうならざるを得ないよな」

「うーん、お婆ちゃんになった自分なんて想像もできないなぁ」
「何十年も先のことだもんな」

「私たち、今16歳でしょ? ってことは、半世紀が経った50年後でも『まだ』66歳だもんねぇ」
「そう考えると人生って長いよなぁ」
「長いよねぇ」

 50年。
 言葉にすると一言だけど、高校2年生の俺たちにはこれっぽちも想像できない、遠すぎる未来。
 この先、何がどれだけ待ちうけているのか、とても想像なんてつきやしない。

「……ところで、俺たちなんでこんな話をしてるんだっけ?」
「ええっと、なんでだっけ?」

 俺と優香は思わずと言ったように顔を見合わせると、どちらからともなく笑い合った。

 とりとめもない話をしながら、くったくのない笑顔を向け合う。
 朝の食卓を、ゆったりとした時間が流れていった。

 俺と優香はほのぼのとした空気のまま食後のお茶を飲んで、まったりとした朝の時間を過ごしたのだった。



「泊めてもらったりお風呂に入れてもらったり、色々とお世話になりました」

 Tシャツ&ハーフパンツから、洗濯&乾燥が終わった高校の制服に着替えた優香が、玄関で深々と礼をした。

「こちらこそ。晩ご飯だけじゃなく朝ご飯まで作ってもらってありがとうございました。おかげでテスト疲れが綺麗さっぱり吹っ飛んだよ」

 俺は右腕で力こぶを作って見せる。

「元気になってくれて良かった」

「また月曜日に学校でな」
「中間テスト、いい点が返ってくるといいね」

「今回はちょっと楽しみなんだよな。優香との答え合わせも悪くなかったし。じゃあバス停まで送るよ」
「ううん、バス停まですぐだから1人で大丈夫」

「いやでも――」
「それにほら、朝から一緒に歩いていると、いろいろと邪推されちゃうかなって思うし」
「あー、そっか。それはあるな」
「でしょ?」

 土曜日の朝に制服姿の女の子と住宅地を歩く私服の男子がいたら、朝帰りのカップルだと思う人もいるだろう。
 いや、優香が朝帰りしていることは間違いないんだけど、ここでいう『朝帰り』とはそういう意味の朝帰りではなく『大人の朝帰り』ってことな。

 何よりこの辺りで出会う人は、俺や両親の知り合いの可能性が極めて高い。
 誰もいない女の子を家に泊めたことがご近所さんにバレて親から小言を言われるのは、俺としても避けたいところだった。

「なら、せめて門のところまで送らせてくれ。それくらいなら問題ないだろ?」
「うん。じゃあ門のところまでね」

 俺はサンダルに足を突っ込むと、優香を玄関の門まで見送る。
 そして優香の姿が見えなくなるまで手を振ってから、家の中に戻った。

 優香がいなくなった途端に、家の中が急に静かで寂しく感じてしまう。
 さっきまではいいようのない幸せを感じていたっていうのに、テンションはすっかり下がっていた。

「優香がいるといないで、こんなにも世界が変わって見えるなんてな」

 まるで世界から色が消えてしまったたようだ。
 とはいえ、意味もなく玄関で突っ立ているわけにもいかない。

「布団でも片づけるか」

 俺はのそのそと自分の部屋に行くと、優香のお泊まり用に使ったシーツと布団カバーを外して、洗濯機に入れて動かす。

 その後、少し経ってから健介から、『休みだしテスト明けにパーッと遊ぼうぜ』というラインが来たので、
『いいけど、健介のおごりな』と返す。

 すぐに『てめぇがおごれや!』と返って来たので、仕方ないので割り勘で遊ぶことにした。

 こうして1学期中間テスト最後の日の、優香との2人きりの突発お泊まり会は、特に何ごともなかったものの、なんともいい雰囲気のまま幕を閉じたのだった。
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