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第7章 優香のお泊まり大作戦

第118話 蒼太、まんじりともせず!!

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(ね、寝れねぇ……!!)

 電気を消して真っ暗になった部屋の中で、しかし俺の目はらんらんと冴え渡っていた。

 蒼太、まんじりともせず!!
(この古い表現、なんとなくカッコよくて好きなんだよな)

 それはそれとして。
 優香と同じ部屋で寝るってことで、気持ちが変にたかぶってしまっているからなのは間違いなかった。

 なにせ真っ暗で何も見えないけれど、同じ暗がりの中に優香がいるのだ。
 しかも無防備に眠っているときた。

『優香、俺もう限界だ、我慢できない……』
『蒼太くん、いいよ。来て……』
『優香、痛かったら言うんだぞ』
『うん、蒼太くん――』

 さっきの妄想が、再び頭をよぎっていく。

(いやいや、落ちつけよ俺。部屋で2人きりで寝ているからって、何を馬鹿なことを考えているんだ。正気をしっかりと保つんだ。じゅげむじゅげむ、ごこうのすりきれ……)

 俺はゼロに近づきつつあったSAN値を回復させるために、小学校の頃に変に流行った呪文を心の中で詠唱した。

 だけど俺が眠れないのは、優香と同じ部屋で就寝しているからだけ、というわけではなかった。
 俺には大きな心当たりがあった。

(寝れないのって、絶対さっきぐっすりと昼寝をしたからだろ。優香に膝枕してもらってあれだけぐっすり眠ったら、そりゃ夜は寝れないだろうよ。くそ、やっちまった!)

 マジのガチで、ぜんぜんちっとも眠くないんだが?
 むしろ意識が冴え渡っているんだが?

 今ならヘーゲルとかアリストテレスの超難解な哲学書だって、スラスラと読めちゃいそうな気分なんだが?

 しかしだからといって、電気をつけて何かをするわけにはいかなかった。

「すー……、すー……」

 真っ暗なので姿こそ見えないが、外から聞こえる雨音の中をよーく耳を澄ませてみると、すぐ隣から優香の規則正しい寝息が聞こえてくる。

 テスト勉強で疲れていただろうに、俺を心配して晩ご飯を作りに来てくれた優香。
 しかも大雨で帰れなくなって急遽きゅうきょ、俺の家にお泊まりすることになってしまったのだ。

 心身ともに疲れ果ててぐっすりと寝入っている優香を、俺の都合で起こしてしまうなんて選択肢は、俺の中には存在しなかった。
 このまま朝までしっかりと寝かせてあげたい。

 となると、俺もなんとかこのまま眠りにつかないとな。

 俺は、優香の寝息を聞いてこれ以上、良からぬことを考えないようにと、寝息に聞き耳を立てるのを止めた。
 再びザァァという雨音だけの世界が戻ってくる。

(さてと、こういう時はあれだな。羊でも数えよう)

 羊が1匹、羊が2匹、羊が3匹、羊が4匹……

 俺は有名な睡眠導入法にのっとって、かすれるような小声で羊を数え始めた。

 ……
 …………
 ………………羊が334匹。

(くっ、だめだ! 寝れそうな気配がまったくないどころか、数を数えてたらよけいに目が冴えてきた気がするぞ!? 完全に逆効果なんだが!?)

 俺はサッパリ寝付くことができないでいた。

 だいたいなんで羊なんだよ?
 羊の何が眠気を誘発するって言うんだ?
 例えばトラとかカモメだったら駄目なのか?
 わけが分からないよ。

 あと『ひつじ』って微妙に言いにくいんだよな。

 しかし眠りに入るための特別なテクニックを、俺はこの方法しか知らなかった。

(うーん、『羊』はちょっと発音しにくいから、アメリカ式でSHEEPでやるか)

 1SHEEP(羊が1匹)、2SHEEP(羊が2匹)、3SHEEP(羊が3匹)……むむっ?

 俺はとあることに気が付いてしまった。

 もしかして『羊が1匹~』のおまじないって、SHEEP(シープ)とSLEAP(スリープ)を掛けてるんじゃね?

 SHEEP(シープ)・SHEEP(シープ)言ってたら、脳がSLEAP(スリープ)と誤認するとかそういうアレじゃね?
 それしか考えられないよな?

 これに気付くとか、俺ってもしかして言語の天才なんじゃないだろうか?

 まぁそれに気付いたからといって、非英語圏の俺はスリープとかシープといった単語から、ダイレクトに眠りをイメージしたりはしないんだけど。

 少なくともそんなことをつらつらと考えてしまうくらいに、俺は目が冴え渡っていた。
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