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第3章 学園のアイドルと過ごす日々

第42話 学園のアイドルと牛丼デート(1)

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 葛谷との関係を綺麗さっぱり清算し。
 また、自分の想いに改めて気付かされてから数日後。

「ねぇ、蒼太くんって牛丼屋さんに行ったことってあったりする?」

 優香と一緒に帰ることがすっかり当たり前になったとある放課後、高校を出てバス停に向かう途中で、優香がふと思いついたように尋ねてきた。

「牛丼屋さんっていうと吉野家とか松屋とかのこと?」
「うん、そういうところ」

「そりゃあ行ったことは何度もあるけど。それがどうしたんだ?」

 食欲とともに生きる食べ盛りの男子高校生にとって、安くて美味しくガッツリいける牛丼チェーン店は欠かすことのできない存在だ。
 牛丼チェーン店なくして男子高校生なしと言っても過言ではないだろう。

「あのね、お昼休みにお弁当を食べてた時に、外食の話になったんだけど。私が『牛丼屋さんって行ったことがないから一度行ってみたいなー』って言ったら、みんなして私には牛丼は似合わないーって言うの。食べに行くなら別のとこにしよーって」

 その時のことを思い出したのか、優香が小さく頬を膨らませる。

「あー、うん……」

「一緒に行こうよって言っても『絶対に連れて行かない。お願いだからイメージを壊さないで』って言うんだよ? 酷くない? 私だって牛丼屋さんに行ってみたいのに」

「あははは……。まぁでもその気持ちはちょっとだけ分かるかな」
「ええっ、蒼太くんまで~?」

 俺の答えが意外だったのか、目をぱちくりとさせる優香。

「だってお姫様が牛丼を食べる姿はシュールだろ?」

「別に私はお姫様なんかじゃないんだけど。生まれも育ちも一般庶民なんだけど。ちなみに蒼太くん的には、私ってどんなお店が似合いそうなイメージなの?」

「そうだな……優香なら牛丼チェーン店よりも、スタバでカスタマイズしまくった優香オリジナルコーヒーを片手に、BLTサンドとかエッグマフィンとかオープンサンドみたいな軽食を優雅に食べてるイメージかな?」

 俺はなんとなく思い描いた「オシャレな大人女子」のイメージを言葉にする。
 自分で言っておいてなんだけど、優香がそれをやるとバッチリ決まるんじゃないか?

「私、スタバでコーヒーのカスタマイズをしたことなんて、人生で一度もないんだけど……」
「あくまでイメージだよ。優香はほら、オシャレで上品なイメージがあるからさ」

 優香だって普通の1人の女の子だってことは、ちゃんともう理解はしている。
 だけど同時に、学園のアイドルであることもまた間違いないわけで。

 どうしても平凡な自分と比べたりもしてしまうし、そんな優香に似合いそうなイメージやシチュエーションをつい思い浮かべてしまうのを、俺はなかなか払拭しきれないでいた。

「うーん、そっかぁ。やっぱり私には牛丼は似合わないんだね……。お肉とご飯の組み合わせ、私すごく好きなんだけどなぁ」

 悲しそうな声でションボリと呟く優香。
 それがどうにも気になったから――ってわけでもないんだけれど。

「でもだからこそ、優香と一緒に牛丼を食べに行ってみたい気はするかな。姫なんて呼ばれることもある学園のアイドルが牛丼を食べるところを、一度見てみたい」

 俺はそう言葉を続けていた。

「なんだかすっごく微妙な誘われ方してるような気がするような? ま、いいけどね。一応は褒めてくれてるみたいだし?」

「もう褒め過ぎってくらいに褒め褒めだよ」
「本当?」

「ほんとほんと。じゃあせっかくだし、今から一緒に牛丼を食べに行かないか? 午後に体育があったからちょっと小腹が空いてたんだよな」

「えへへ、実を言うと私もだったり。たしかバスで帰る途中の停留所の近くに、有名な牛丼屋さんがあったよね?」

「あったな。ってことで決まりだな」
「決まりだね。ふふっ、初めての牛丼屋さん、楽しみ~♪ しかも蒼太くんと一緒だし」

「お、おう……」

 くっ、顔の前で両手の平を合わせて笑う優香の笑顔が、可愛すぎて困るんだが!?

  やっぱり優香は学園のアイドルなんだって、思春期の男子高校生には再認識せずにはいられないんだが!?

 スタバでコーヒーをカスタマイズしまくるのが、めちゃくちゃ似合いそうなんだが!?

 ふう……。

 ってなわけで。
 俺は優香と一緒に、バスで帰る途中にある牛丼チェーン店へと足を運んだ。

 まだ晩ご飯の時間には早いせいか、お客さんの少ない店内に入ると席に座る。
 タッチパネルを操作して俺は牛丼並盛を。優香は興味深そうにあれこれメニューを眺めてから、牛丼小盛を注文する。

 ハンバーガーと並ぶファストフードの代名詞だけあって、たいして待つこともなくすぐに牛丼が運ばれてきた。
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