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第3章 学園のアイドルと過ごす日々

第30話 ざわざわざわ……

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「あ、蒼太くんおはよう!」

 校門になぜか優香がいた――と思ったら、俺の姿を見た途端に素敵な笑顔とともに優香が手を振ってきた。

「優香、おはよう」
 俺は校門で優香が待っていることを不思議に思いつつも、最近教室で挨拶をしているように、何気なく優香に挨拶を返したんだけど――、

「お、おい見ろよあれ」
「えっ、姫宮さんじゃん。なんで姫宮さんが男に手を振ってんだ?」
「あいつを校門で待ってたってことか?」
「あんな冴えないモブを、姫宮さんがか?」
「つーか誰だよアイツ?」
「2年の紺野じゃない?」
「紺野ってあれだよな、美人に捨てられたやつ」
「そういやあったな、そんな噂」
「え、ってことは今度は姫宮さんに乗り換えたってこと?」
「さすがにそりゃないだろ? なんであいつ程度で、極上の美人ばっかり立て続けに仲良くなれるんだよ」

 周囲の生徒たちがそれはもう盛大にざわつき始めたのだ。

 ……まぁそうなるよな。
 学園のアイドル姫宮優香が、冴えない俺なんかに手を振っているんだから。
 しかも犬が嬉しくて尻尾をぶんぶん振るみたいに、どこかはしゃいだ様子で手を振っているときた。

「なぁ健介。どうも優香が俺を待っていたように見えなくもないんだけど、どういうつもりなのかな?」
 俺はまず、隣にいる健介に意見を求めようとしたんだけど、

「蒼太……爆発しろやこのクソリア充めが! だが今度こそ末永く幸せにな!!」

 健介は涙声で支離滅裂なことを叫ぶと、俺からダッシュで離れて一目散に校舎の中へと駆け入っていった。

「あ、おい……」

 親友の突然の奇行に、唖然としたまま取り残されてしまった俺のところに、優香がちょこちょこと小さく駆け足でやってきた。

「服部くん、走って行っちゃったね。どうしたんだろ? なにか急な用事でも思い出したのかな?」

「ああいや、別にそう言うんじゃないと思うんだけど……」

 ちなみに「服部」は健介の名字だ。
 服部健介16歳、絶賛彼女募集中(宣伝しておいてやったぞ)。

「そうなの?」
 優香が不思議そうに小首をかしげるものの、だがしかしハテナマークで頭がいっぱいなのはむしろ俺の方だった。

「それよりさ。もしかして俺のことを待っててくれたりした? 一緒に行く約束とかしてたっけ?」

 優香が俺を待っていた――さすがにそれ以外の状況は考えつかなかったので、ここはストレートに尋ねることにする。

「ううん、そんな約束はしてないよ」
「だよな。でもじゃあなんで待っててくれたんだ?」

「えっと、その……話せば長くなるんだけどね? 私がいつも乗っている時間のバスが、今日は盛大に遅れちゃったの」

「あ、そうだったんだ」

「それで着くのがだいぶ遅くなっちゃったから、もしかしたら蒼太くんが次のバスに乗ってるかなって、ふと思って。それで校門の辺りで振り返ってみたの。そうしたらちょうど蒼太くんが歩いてくるのが見えたから、せっかくだから待ってみようかなって思ったの。ほ、ほら。私たちってクラスメイトだし、一緒に登校するのは全然変じゃないよね?」

 優香が妙に説明口調で、やけに長々と俺を待っていた理由を語ってくれた。

 つまり優香の話を要約するとだ。

 最初から俺を待とうと思っていたわけでもなんでもなく。
 バスの遅延でたまたまの偶然が重なった結果、最近仲良くなったクラスメイトを見かけたから、無視する理由もないし待ってみただけだったようだった。

「なるほどな。バス通学はどうしてもバスの遅延が悩みの種だよな」
「でしょう!?」

 ちょっとした信号の加減や予想外の渋滞、乗り降りのもたつきでバスが遅れるのはよくあることだ。
 だからそれについては俺は特に気にはならなかった。

 俺もバスが遅れて1時間目に遅刻しそうになり、バスを降りた瞬間にダッシュで登校した経験が何度もある。
 そのたびにもう一本早く行くようにしようと思っては、バス1本分早く起きるのが辛くてやっぱり止めようってなるんだよな。

 だからバスが遅れたことは何の問題もなかった。
 問題なのは――、

「なんていうかその、待っててくれたのは嬉しいんだけど。だけどその……今の俺たちって変に目立っちゃってるよな……?」

 今も道行く生徒たちが皆、校門前で話す俺たちを驚いた顔でガン見していることだった。

「うん、そうみたいだね……もしかして迷惑だった?」
 申し訳なさそうにか細い声で尋ねてくる優香に、

「まさか、そんなことはないよ。むしろ嬉しかったし」
 俺は素直な気持ちを伝えた。

 優香みたいな可愛い女の子に校門前で待ってもらって、嬉しくない男がいるだろうか?
 上目遣いで「迷惑だった?」なんて聞かれて、顔がにやけそうにならない男子がいるだろうか?
 いいや、そんな男子は存在しない。

 だけどそうは言ってもだ。
 こうも目立ってしまうとさすがに恥ずかしいわけで。

 だけどそれもこれも、優香から笑顔を向けてもらえる特別さの代償と思えば、全然ちっとも大したことなんてなかった。
 それくらい、俺は自分の心がぴょんぴょんウキウキと弾んでいることを自覚していた。

「ほんと? 良かったぁ……」
 俺の返事を聞いた優香が嬉しそうに微笑む。

「う――っ」

 そのとびっきりの笑顔を目の前で見せられた俺の頭に、またもや「優香って俺のことが好きなんじゃね?」などというアタオカな妄想がよぎってしまう。


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