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第2章 変わり始めた関係

第15話 ウザデレ

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 翌朝、俺がいつものように高校へ登校すると、

「おい蒼太、聞いたぞ? 葛谷くずがやさんと別れたんだってな」

 校門の前で出会った服部健介――中学1年からずっとクラスメイトが続いている謎の腐れ縁だ――が挨拶も抜きに、いきなりそんなことを言ってきた。

「聞いたって誰にだよ?」

「新聞部のやつからラインで。葛谷さんがイケメン大学生とデパートで腕組んで買い物してたの見た奴がいたんだと」
「……なるほどな」

 そりゃそうか。
 あの2人は隠す気なんてまったくなくデートをしていたんだ。
 俺以外に見た奴がいても不思議じゃない。

「蒼太と葛谷さんが付き合ってたのは有名だったからな。だから多分もう学校で噂になってるぞ。で、別れたのはほんとなのかよ?」

 健介はそこでチラリと周囲に視線を向けると、他人に聞かせる話でもないと思ったのか声量を落とした。

「ほんとだよ」
「蒼太が振った……わけはないよな。あんなに葛谷さんに入れ込んでたんだから。振られたのか?」
「まぁ……そうだよ」

 ラブホから出てきたところをまさに見て「ごめんなさい」されたとは言わなかった。
 どうも健介の話ぶりでは、そこまでは噂になっていないみたいだから。

 ……別に葛谷をかばったわけじゃない。
 ちょっとだけ見栄を張ってしまっただけだ。
 俺も男の子でプライドがあるから、親友の前で彼女を寝取られたとは情けなくて言いづらかった。

 健介が話している感じだと多分、葛谷が他の男とデートしていたから必然的に俺が振られたはず、ってことになってるっぽいし。

「げっ、マジかよ!?」
「マジのマジだ」

「そうか……」

 小さく呟いた健介が沈痛な面持ちで目を伏せた。
 そこには俺を馬鹿にして笑うような雰囲気は微塵もありはしない。

「にしても、みんな噂話が好きなんだなぁ」
「そりゃお前、男女問わず高校生なんてみんな他人のコイバナは大好物だろ?」
「そりゃそうか」

 健介のあけすけなセリフに俺は思わず苦笑する。

 実のところ、俺自身はあんまり他人の色恋沙汰は興味がないタイプだ。
 だけど普段の教室でも、そういう話題が聞こえてくることは少なくなかった。
 誰それが付き合ってるとか、誰それが別れたとか。

 今度はそれが俺の失恋話になっただけのことだ。

「ま、あんまり気にするなよな? 新しい話題が出たらみんなすぐに忘れるだろうし。人の噂も七十五日って昔から言うからよ」
「前から思ってたんだけど75日って地味に長くないか? 2カ月半だぞ? その頃には1学期も終わりかけだぞ?」

「言われてみればそうだな。今の情報に溢れた社会なら1/10して1週間ってとこか?」
「まぁそれくらいなら仕方ないか……っていうか新聞部ってこんな個人情報まで昨日の今日で入ってくるのかよ? 情報収集能力が正直怖すぎなんだが……」

「情報なら何でも集めるのがジャーナリズムの基本なんだと」
「平凡な公立高校の新聞部とは思えない志の高さだな」

 在学中は新聞部を敵に回すのだけは絶対に止めておこうと、俺は心に誓った。

「大手マスコミに就職したOBもいるしな。それにほら、葛谷さんは美人だっただろ? その分だけ情報バリューも格段に高いわけよ。俺もなんでお前が葛谷さんと付き合えるんだって思ってたし」

「おいこら健介、さらっと酷いこと言ってんじゃねーよ。俺が悲しみの余り自殺したらお前のこの発言のせいだからな? お前の名前を理由とともに遺書に名指しで書き残すからな? 覚えとけよ?」

「だはは、ワりいワりい。でもそんな軽口を言える元気があるなら、意外とそこまで思い詰めてないってことか?」

 と、軽口から一転、健介が今日一番ってくらいに妙に優しい声色で聞いてきた。

「……なんだ健介、もしかして俺を元気づけようとしてくれてたのか?」
「そりゃなあ。美人な彼女に振られたことで人生に絶望して、夜の海に身投げでもされたら大事おおごとだしよ」

「お前あれか、『ウザ絡みしてくる悪友だと思ってたら、実は心配性のいい奴』枠だったのかよ? ウザデレかよ?」

「ウザデレってなんだよそりゃ。でも心配もするだろ? 1年も付き合ってた彼女に捨てられた親友がいたらさ」

 なんだよ健介、お前マジでいいやつかよ。
 俺の心の涙腺が完全崩壊しそうだぞ?

「ま、見ての通りさ。割と大丈夫な感じだから心配はいらない。あとありがとな、心配してくれて」

「蒼太とは長い付き合いだし、俺もたまには親友らしいことをしないとな」

 健介が超キメ顔でウインクしながらグッと親指を立てる。
 でも容姿が俺と大差ないモブなので、残念ながら全然似合ってはいなかった。
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