上 下
122 / 214
第7章

第120話 傭兵王グレタ(中)

しおりを挟む
「はい、絵を見てみたいなって。あの、どうしたんですかケースケ様?」

「絵……絵か……絵な……絵だ!」

「はぁ……えっと?」

 『絵』という言葉を聞いて、俺の中に小さな違和感が生まれ落ちていた。
 理由は分からないんだけど、何かが俺の頭の片隅でほんのわずかに引っかかったのだ。

 俺は本に載っていた傭兵王グレタの絵を思い出してみる。
 でも何が気にかかっているかまでは、思い至ることはできなかった。

 なんだ?
 俺はいったい何が気になっているんだ?

「本によって傭兵王グレタの身に着けている服や鎧は違ってた。当然だ。戦場では無骨な鎧を装備するし、プライベートでは動きやすい質素な服を着るし、王になってからは王冠をかぶって綺麗に着飾るものだ。そこには何の問題もない」

 俺は違和感の種を探り当てるべく、頭の中に思いついた事を片っ端から列挙していきながら、ぶつぶつと自問自答を始める。

「ですねぇ」

 そこにアイセルが、俺の思考を邪魔しないように――いやむしろ俺の思考を助けるように、タイミングよく相づちを入れてくる。

 これは地味にありがたいな。
 思考がうまい具合に整理される感じがする。

「一次資料と二次資料を分けて考える必要もあるか。後世のいわゆる二次資料は話を膨らませるための創作が入ることも多いもんな。だから絵についても、二次資料はあまり信用はできないかも」

「かもですねぇ」

「仲間との絆。これが遺言であり今回のキーワードだ。傭兵王グレタは、死後に仲間と同じところに埋めて欲しいと言い残すほど、最初から最後までずっと変わらない仲間思いの王さまだった」

 そんな感じで、俺はここまで知り得た傭兵王グレタにまつわる出来事をあれこれ構わず、それこそ思い付いた順に片っ端からあげていき、

「偉くなっても変わらない仲間とのつながり、素敵ですよねぇ」

 そこにアイセルが絶妙に合いの手を入れていく。

 俺はあれこれと言葉にしていきながら、同時にいくつかの資料をペラペラとめくっては、傭兵王グレタの絵を見て違和感の正体を探しにいった


 俺はいったい何が気になったんだ?
 なにが引っ掛かっているんだ?

 でも届きそうで、届かない。
 俺は違和感の正体になかなかたどり着けないでいた。

「なんだか間違い探しの遊びをしてるみたいですね」

 そんな風に絵を見てぶつぶつ呟く俺を評して、アイセルが小さく笑いながら言ってくる。

「ははっ、確かにな。こうやって2つの絵を見比べてると、子供の頃に戻ったみたいだ――ん? 間違い探しだって?」

「はい? えっと、どうしたんですか?」

「そうか――間違い探しだよ」

「ええっと?」

「いや間違い探しじゃない――間違いじゃない探しだ!」

 その言葉を発した瞬間、俺の頭の中に「とあるアイテム」が浮かび上がっていた。

「間違いじゃない探しですか?」

 よく分からないといった感じで小首を傾げるアイセルに、

「アイセル、傭兵王グレタの絵をよーく見比べてみてくれ。何か気付くことはないか?」

 俺はそう言うと、傭兵王グレタの挿絵が載っている本や資料を次々に開いては、机の上に並べていく。

 まだ傭兵王グレタがどこにでもいる一介の傭兵だった頃の絵。
 大きな戦で獅子奮迅の大活躍をして、一躍名をあげた時の絵。

 一番古株の仲間でグレタの半身とも言える盟友を失い、天を仰いで子供のように号泣する絵。

 そしてついには自分たちの国を作り、初代の王になった時の絵。
 生き残った仲間が天寿を迎えて1人、また1人と減っていくのを悲しむ晩年の絵。

 様々な年代の傭兵王グレタの絵を、俺はアイセルに並べて見せた。

「ええっとどれどれ……ええっと、ええと……」

「ヒントは左手」

「左手ですか? 左手、左手、ひだり……あっ!? 腕輪です! ケースケ様、どの絵でも必ず左手に同じ腕輪をしています!」

 アイセルがグレタの左手に付けられた腕輪を指差しながら、興奮を隠し切れずに俺を見た。

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

【完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

一家処刑?!まっぴら御免ですわ! ~悪役令嬢(予定)の娘と意地悪(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

処理中です...