上 下
20 / 214
第2章

第20話 ウ"グッ、オ"エ"ッっぷ!?

しおりを挟む
「ケースケ様、申し訳ありませんでした! 2匹ほど取り逃してしまいましてそちらに向かったんですけど、ご無事だったみたいでなによりです――ってウ"グッ、オ"エ"ッっぷ!?」

 アイセルは俺の近くに来るなり、鼻と口を抑えてエンガチョって感じで飛びのいた。
 真っ青な顔で目を見開いていて今にも吐きそうな雰囲気だった。

 その気持ちはほんと分かるんだけど、10才も離れた若い子にそういう態度をとられると若干傷つくよね……。

 それでもそこはよくできたアイセルである。
 今の態度はやっぱりまずいと感じたのか、決意も露わに再び俺の近くに来ようとして、

「げぷ、お"ぇ"ぇ"ぇ"ぇ"……、やっぱり無理です、今一瞬意識が飛びかけましたごめんなさい」

 そう言うと俺から6,7メートルの距離まで逃げるように後ずさっていった。

「いや謝る必要はないよ、エルフは感度の高い種族だから余計に臭うだろうしな」

「ず、ずみまぜん……」

 必死に鼻をつまんで吐き気をこらえながらも健気に謝るアイセルは、完全に涙目になってしまっていた。

「悪いなアイセル、大変臭いところを申し訳ないんだけど、そこで伸びてる2体を始末してほしいんだ。俺の力じゃ時間がかかり過ぎるからさ」

 それだけ言うと俺はその場から距離をとる。
 この強烈な異臭の爆心地は俺だから、俺が離れれば少しは臭いもマシになるだろうし。

「わ、わかりました……げほっ、ごほっ」

 アイセルは鼻をつまみながら気絶している2体のキングウルフをさっくり始末すると、三度こっちに近づこうとして、

「げほごほっ、おえっぷ……うげぇ……。でもほんと一体なんなんですか、このとんでもない臭いは……」

 やっぱり無理って顔をして立ち止まった。

「クサヤ・スカンクのフンを濃縮・発酵させたものをばらまいたんだ。キングウルフは鼻がいいから効果は抜群なんだよ」

「あ、昨日言ってた『この日のために用意した秘密兵器』って、これのことだったんですね……。納得です、ものすごく臭いです。あうっ、本気で吐きそう……うっ」

 アイセルが口を押えて、こみ上げてきた何か(あえては言わない)をのどの奥に押し戻すような素振りを見せる。

「これでもだいぶマシになったんだぞ? 使った瞬間は俺もマジで死ぬかと思ったくらいでさ」

 ちなみにかなり稀少なアイテムでその分値段も張るので、あまり多用はできないアイテムだった。
 使い捨てだし。

「ううっ、これでマシになってるんですか? だいぶ熟成の進んだ肥溜めの中に落ちたみたいなこの強烈な臭いが? あ、ある意味、命がけですね……」

 もはやアイセルは臭い俺に近づくのだけは死んでも嫌、みたいな顔をしていた。

 分かるよ、その気持ちは良ーくわかるんだけど、やっぱりちょっとだけ傷つくよね……。

「なんにせよ、このキングウルフの群れは完全に駆逐した。討伐クエストは大成功だ。長居をしても仕方ない、とっとと帰るとしよう」

 俺は猛烈な臭気を放ちながらも勝利宣言をした。

 とりあえず帰りたい。
 早く帰ってこの臭いのをどうにかしたかった、心の底から綺麗な身体になりたかった。

「他のキングウルフの群れはどうするんですか?」

 帰りはじめてすぐにアイセルが尋ねてきた。

 ちなみに俺からかなり離れた風上を歩いている……臭いからね、しょうがないよね、うん。

「とりあえずB地点の群れは討伐したから後はよそに任せよう。討伐報酬は貰えるし、間違いなく俺たちが一番乗りだ。パーティ『アルケイン』の名前も上がるからな、今回はそれで十分だ」

「あの、前から気になってたんですけど、パーティの名前が上がるとどうなるんですか? 結構こだわってますよね?」

「有名なパーティには、冒険者ギルドに特定のパーティを指名したクエストが入ってくるようになるんだ」

「指名クエスト……ですか? この前の絵のモデルみたいのですか?」

「ああ。それでそういうのはほとんどの場合、相手が金持ちなんですごく割がいい。しかもかかった経費は全部向こう持ちなことがほとんどだ。つまり名前を売れば楽して稼げるようになるってわけ」

「わわっ、そういうものなんですね。勉強になります!」

「世の中なにをするにしても金は要るからな。楽に稼げるに越したことはない」

 金に困るとヒキコモリもできないこんな世の中じゃ、ポイズン……。

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

【完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...