上 下
41 / 57
第3章 新1年生の親睦バスケットボール大会

第41話 勝利の瞬間

しおりを挟む
「うぉああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――!!!!」

 試合をひっくり返すビクトリーショットを見届けた僕は、本能のおもむくままに獣のような雄たけびを上げると、渾身のガッツポーズをした。

 1度きりではなく、2度、3度、4度、5度と、僕は握った拳をブンブンと上下させる。

 感情がたかぶって、燃え盛って、爆発してしまって、それが自分で分かっているのに抑えることができない。

 こんなにも感情が溢れたのは、いったいいつ以来だろうか?

 たかが親睦球技大会のシュート1本。
 成績にもなんにも関係しない、記録すらされない2得点。

 だけど今のシュートは僕にとって、これ以上なく重くて、大切で、意味があって、何よりも想いのこもった1本だった。

 喜びを爆発させる僕の所に、チームメイトたちが一斉に駆け寄ってくる。

「やりやがったな神崎兄!」
「ナイシュー!」
「今のマジヤバイって!」
「さすがにこの結末は、詰将棋で鍛えた俺の頭脳でも予測できなかったよ」

 僕は首にガシッと腕を回され、背中をバシバシと叩かれ、髪の毛をワシャワシャっと荒っぽく撫でられてと、一瞬でもみくちゃにされる。

「みんな、ありがとう! それもこれも、みんなが一丸になって気合でボールを回してくれたおかげだよ!」

 手洗い祝福を受けながら、僕はチームメイトたちに最大限の感謝の言葉を伝えた。

 あのシュートは、決して僕だけの力で決められたシュートじゃない。
 みんなの必死のプレーでボールを奪い、そこから繋がって、最後はひまりちゃんの声援も後押ししてくれて。

 つまりみんなの力が合わさって、僕にあのシュートを決めさせてくれたのだ。

「謙遜すんなってーの。見ててバチクソヤバかったからよー! 俺、声出ちゃってたもん。イケーって!」

「そうそう! リングに当てて跳ね返ったのを空中で取ってそのままシュートとか、なかなかのエンターテイナーっぷりだったじゃんか。もうお前、ラノベ作家目指せよ!」

「一人アリウープでブザービーター逆転ゴールとか、おまえ漫画の主人公かよって思ったぜ!」

「まさに神の一手だったね。例えるなら、竜王戦で見せた藤井聡太の▲4一銀。賞賛以外の言葉では語れないよ」

 最後の例えだけちょっと意味が分からなかったけど、みんなも僕と同じようにテンションが上がっていることは、これでもかと感じられる。

「あれは狙ったわけじゃないんだけどね。むしろ最初のシュートが入ってくれたら、全然それでよかったんだけど」

 僕は苦笑いを返すと「って、それより石崎は怪我は大丈夫なのか?」と、さっきボールを空中でコート内に戻す時に、ちょっと怖い落ち方をした石崎に尋ねた。

 あの時はせっかく繋いでくれたボールを、なんとかゴールに繋げるんだって必死だったから後回しにしてしまったけど、石崎が骨折でもしていたら大変だ。

「そういや興奮しすぎてすっかり忘れてた。うん、痛いは痛いけど、わりと大丈夫だな。骨とかは折れてないっぽい」

 しかし石崎はケロッとした顔で、落ちた方の肩をグルグル回しながら元気な返事を返してきたので、僕は一安心した。
 大事には至らなかったようで、なによりだ。

 勝ったのは嬉しいけど、そのためにチームメイトが大怪我をしていたら喜びも半減というものだ。

「あっと、そろそろ整列しないとだよ。行こう」

 僕たちは興奮冷めやらぬままに試合終了の礼をすると―─負けた5組のメンバーからも興奮気味にお褒めの言葉を頂いた――コートを後にして、今度は1組のクラス席へと向かう。

 すると同じように喜びはしゃぐクラスメイト達の中から、ひまりちゃんがスルスルッと抜け出て話しかけてきた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...