上 下
5 / 6

第5話『比べ合い』

しおりを挟む
「では『お嬢さま道』に則りまして、『比べ合い』を申し込んだわたくしたち九州お嬢さま連合が先手番を頂戴いたしますわ。善子さま、よろしくてよ」

 皆さまもご存じの通り、『比べ合い』はそれぞれ4人ずつのお嬢さまが参加され、その中で最も高い評価を受けたお嬢さまの所属する側の勝ちとなります。

 まずは九州お嬢さま連合の1番手の善子お嬢さまが、大変お上手にお歌いになられました。

「98.9点。さすがは善子さま、良いお歌でしたわね」

 麗華お嬢さまがご満悦の表情でお褒めになります。

「ではこちらは佐知子さまに1番手をお願いいたしますわ」

 対して関西お嬢さま連合は、1番手として佐知子お嬢さまがお歌いになります。
 佐知子お嬢さまは世界的に有名な声楽コンテストで優勝されたこともある歌のスペシャリストにございます。

 この日も佐知子さまはとても庶民のカラオケルームにはそぐわない、いと素晴らしきお歌をご披露なされました。
 当然100点かそれに近い高得点が出ると思われたのですが――、

「96.8点……そんな、どうして……」

 自分の点数を見た佐知子お嬢さまが愕然とされました。
 先ほどお歌いになった善子お嬢さまと比べますと、なんと2点以上も低かったのですから当然の反応にございます。

「ズルをしておりますわ! だって誰が聞いても佐知子さまのお歌の方がお上手でしたもの!」

 雅お嬢さまがとても我慢がならないご様子で、ややはしたなく抗議をなされます。
 けれど佐知子さまも内心では同じ思いにあられました。

 こと歌にかけて、日本どころか世界中のお嬢さまを見渡してみても佐知子お嬢さまの右に出るお嬢さまはそうはおりませんから。

 けれど桜子お嬢さまだけは違っておりました。

「なるほど、左様でございますか。機械による採点だから、というわけですわね?」

「ほほほ、さすがは桜子さま。もうお気づきになられましたか。つまりはそういうことですわ」

「桜子さま、一体どういうことですの?」

 まだ理解が及んでおられない雅お嬢さまがご質問なされました。

「佐知子さまのお歌はどなたがお聞きになっても心震わされる素晴らしいお歌でしたわ。ですが今回採点をしているのは人ではなく機械。採点基準は人の感性ではなく、あくまで機械のプログラムによるもの。機械が良いと判定する歌い方をしなければ、良い得点とはならないのですわ」

「その通りですわ。このカラオケという庶民の遊戯は、機械採点に合うように歌わなければ決して高得点は出ませんの」

「そんな……そのような下々の下々による下々のための歌い方を、わたくしたちは存じ上げませんわ……」

 佐知子お嬢さまがお声をお震わせなされました。
 そのお顔はたいそう青ざめておられます。

「そしてこの日のために、わたくしどもは機械採点で高得点となる歌い方を徹底して練習してまいりましたのよ」

「なんと卑劣な! あなた方はどこまで堕ちれば気が済むのでしょうか!」

 佐知子さまが再び正義感を元に、そのお嬢さまらしからぬ卑劣な行いを糾弾いたしました。

「佐知子さま、一度『比べ合い』をお受けした以上は文句を仰ってはなりませんわ。それは『お嬢さま道』にもっとも反する行いにございますもの。それにまだ『比べ合い』は始まったばかりですわよ。さあどうぞ麗華さま、次はそちらの番ですわ」

「良い心がけですわね。ですが一番お歌がお上手な佐知子さまより高い点数を、そちらは一体全体どうやってお出しになるのかしら?」

 麗華お嬢さまのお言葉の通り、それ以降の誰も更なる高得点を出すことはおできになりませんでした。
 そしてついに最後の1人であられます桜子お嬢さまの順番が回ってきてしまわれました。

 しかし絶体絶命の危機であるにもかかわらず、

「では参りますわね」

 桜子さまはエレガントな笑みを浮かべたまますっくとお立ちになると、それはもう優雅に歌い始めたのでした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

貧乏神の嫁入り

石田空
キャラ文芸
先祖が貧乏神のせいで、どれだけ事業を起こしても失敗ばかりしている中村家。 この年もめでたく御店を売りに出すことになり、長屋生活が終わらないと嘆いているいろりの元に、一発逆転の縁談の話が舞い込んだ。 風水師として名を馳せる鎮目家に、ぜひともと呼ばれたのだ。 貧乏神の末裔だけど受け入れてもらえるかしらと思いながらウキウキで嫁入りしたら……鎮目家の虚弱体質な跡取りのもとに嫁入りしろという。 貧乏神なのに、虚弱体質な旦那様の元に嫁いで大丈夫? いろりと桃矢のおかしなおかしな夫婦愛。 *カクヨム、エブリスタにも掲載中。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

妻への最後の手紙

中七七三
ライト文芸
生きることに疲れた夫が妻へ送った最後の手紙の話。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

処理中です...