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第5話『比べ合い』
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「では『お嬢さま道』に則りまして、『比べ合い』を申し込んだわたくしたち九州お嬢さま連合が先手番を頂戴いたしますわ。善子さま、よろしくてよ」
皆さまもご存じの通り、『比べ合い』はそれぞれ4人ずつのお嬢さまが参加され、その中で最も高い評価を受けたお嬢さまの所属する側の勝ちとなります。
まずは九州お嬢さま連合の1番手の善子お嬢さまが、大変お上手にお歌いになられました。
「98.9点。さすがは善子さま、良いお歌でしたわね」
麗華お嬢さまがご満悦の表情でお褒めになります。
「ではこちらは佐知子さまに1番手をお願いいたしますわ」
対して関西お嬢さま連合は、1番手として佐知子お嬢さまがお歌いになります。
佐知子お嬢さまは世界的に有名な声楽コンテストで優勝されたこともある歌のスペシャリストにございます。
この日も佐知子さまはとても庶民のカラオケルームにはそぐわない、いと素晴らしきお歌をご披露なされました。
当然100点かそれに近い高得点が出ると思われたのですが――、
「96.8点……そんな、どうして……」
自分の点数を見た佐知子お嬢さまが愕然とされました。
先ほどお歌いになった善子お嬢さまと比べますと、なんと2点以上も低かったのですから当然の反応にございます。
「ズルをしておりますわ! だって誰が聞いても佐知子さまのお歌の方がお上手でしたもの!」
雅お嬢さまがとても我慢がならないご様子で、ややはしたなく抗議をなされます。
けれど佐知子さまも内心では同じ思いにあられました。
こと歌にかけて、日本どころか世界中のお嬢さまを見渡してみても佐知子お嬢さまの右に出るお嬢さまはそうはおりませんから。
けれど桜子お嬢さまだけは違っておりました。
「なるほど、左様でございますか。機械による採点だから、というわけですわね?」
「ほほほ、さすがは桜子さま。もうお気づきになられましたか。つまりはそういうことですわ」
「桜子さま、一体どういうことですの?」
まだ理解が及んでおられない雅お嬢さまがご質問なされました。
「佐知子さまのお歌はどなたがお聞きになっても心震わされる素晴らしいお歌でしたわ。ですが今回採点をしているのは人ではなく機械。採点基準は人の感性ではなく、あくまで機械のプログラムによるもの。機械が良いと判定する歌い方をしなければ、良い得点とはならないのですわ」
「その通りですわ。このカラオケという庶民の遊戯は、機械採点に合うように歌わなければ決して高得点は出ませんの」
「そんな……そのような下々の下々による下々のための歌い方を、わたくしたちは存じ上げませんわ……」
佐知子お嬢さまがお声をお震わせなされました。
そのお顔はたいそう青ざめておられます。
「そしてこの日のために、わたくしどもは機械採点で高得点となる歌い方を徹底して練習してまいりましたのよ」
「なんと卑劣な! あなた方はどこまで堕ちれば気が済むのでしょうか!」
佐知子さまが再び正義感を元に、そのお嬢さまらしからぬ卑劣な行いを糾弾いたしました。
「佐知子さま、一度『比べ合い』をお受けした以上は文句を仰ってはなりませんわ。それは『お嬢さま道』にもっとも反する行いにございますもの。それにまだ『比べ合い』は始まったばかりですわよ。さあどうぞ麗華さま、次はそちらの番ですわ」
「良い心がけですわね。ですが一番お歌がお上手な佐知子さまより高い点数を、そちらは一体全体どうやってお出しになるのかしら?」
麗華お嬢さまのお言葉の通り、それ以降の誰も更なる高得点を出すことはおできになりませんでした。
そしてついに最後の1人であられます桜子お嬢さまの順番が回ってきてしまわれました。
しかし絶体絶命の危機であるにもかかわらず、
「では参りますわね」
桜子さまはエレガントな笑みを浮かべたまますっくとお立ちになると、それはもう優雅に歌い始めたのでした。
皆さまもご存じの通り、『比べ合い』はそれぞれ4人ずつのお嬢さまが参加され、その中で最も高い評価を受けたお嬢さまの所属する側の勝ちとなります。
まずは九州お嬢さま連合の1番手の善子お嬢さまが、大変お上手にお歌いになられました。
「98.9点。さすがは善子さま、良いお歌でしたわね」
麗華お嬢さまがご満悦の表情でお褒めになります。
「ではこちらは佐知子さまに1番手をお願いいたしますわ」
対して関西お嬢さま連合は、1番手として佐知子お嬢さまがお歌いになります。
佐知子お嬢さまは世界的に有名な声楽コンテストで優勝されたこともある歌のスペシャリストにございます。
この日も佐知子さまはとても庶民のカラオケルームにはそぐわない、いと素晴らしきお歌をご披露なされました。
当然100点かそれに近い高得点が出ると思われたのですが――、
「96.8点……そんな、どうして……」
自分の点数を見た佐知子お嬢さまが愕然とされました。
先ほどお歌いになった善子お嬢さまと比べますと、なんと2点以上も低かったのですから当然の反応にございます。
「ズルをしておりますわ! だって誰が聞いても佐知子さまのお歌の方がお上手でしたもの!」
雅お嬢さまがとても我慢がならないご様子で、ややはしたなく抗議をなされます。
けれど佐知子さまも内心では同じ思いにあられました。
こと歌にかけて、日本どころか世界中のお嬢さまを見渡してみても佐知子お嬢さまの右に出るお嬢さまはそうはおりませんから。
けれど桜子お嬢さまだけは違っておりました。
「なるほど、左様でございますか。機械による採点だから、というわけですわね?」
「ほほほ、さすがは桜子さま。もうお気づきになられましたか。つまりはそういうことですわ」
「桜子さま、一体どういうことですの?」
まだ理解が及んでおられない雅お嬢さまがご質問なされました。
「佐知子さまのお歌はどなたがお聞きになっても心震わされる素晴らしいお歌でしたわ。ですが今回採点をしているのは人ではなく機械。採点基準は人の感性ではなく、あくまで機械のプログラムによるもの。機械が良いと判定する歌い方をしなければ、良い得点とはならないのですわ」
「その通りですわ。このカラオケという庶民の遊戯は、機械採点に合うように歌わなければ決して高得点は出ませんの」
「そんな……そのような下々の下々による下々のための歌い方を、わたくしたちは存じ上げませんわ……」
佐知子お嬢さまがお声をお震わせなされました。
そのお顔はたいそう青ざめておられます。
「そしてこの日のために、わたくしどもは機械採点で高得点となる歌い方を徹底して練習してまいりましたのよ」
「なんと卑劣な! あなた方はどこまで堕ちれば気が済むのでしょうか!」
佐知子さまが再び正義感を元に、そのお嬢さまらしからぬ卑劣な行いを糾弾いたしました。
「佐知子さま、一度『比べ合い』をお受けした以上は文句を仰ってはなりませんわ。それは『お嬢さま道』にもっとも反する行いにございますもの。それにまだ『比べ合い』は始まったばかりですわよ。さあどうぞ麗華さま、次はそちらの番ですわ」
「良い心がけですわね。ですが一番お歌がお上手な佐知子さまより高い点数を、そちらは一体全体どうやってお出しになるのかしら?」
麗華お嬢さまのお言葉の通り、それ以降の誰も更なる高得点を出すことはおできになりませんでした。
そしてついに最後の1人であられます桜子お嬢さまの順番が回ってきてしまわれました。
しかし絶体絶命の危機であるにもかかわらず、
「では参りますわね」
桜子さまはエレガントな笑みを浮かべたまますっくとお立ちになると、それはもう優雅に歌い始めたのでした。
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