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第4話『お嬢さま道』

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「な、何というハレンチな振る舞いでしょうや……! わたくし達お嬢さまは常に優雅に、エレガントに振る舞わなくてはなりませんわ。そうであるにもかかわらず庶民の遊戯で『比べ合い』をなさろうだなんて。麗華さま、あなたにはお嬢さまとしてのプライドがございませんの? 恥を、恥というものをお知りあそばせなさいませ!」

 それをお聞きになられて、人一倍正義感がお強くあられる佐知子お嬢さまが、義憤にかられて麗華お嬢さまを厳しく糾弾なされました。

「何とでも言えばよろしいですわ。負け犬の遠吠えはとても心地よいですもの」

 ですが麗華お嬢さまは柳に風といった様子で、まったく意に介そうとはされないのです。

「麗華さま、あなたという人は──!」

「佐知子さま、どうかお止めになって下さいませ」

 けれど桜子お嬢さまがそっと佐知子お嬢さまを押し止めなされました。

「桜子さま、何ゆえお止めになるのでしょうか」

「佐知子さま、そのように大きなお声をお出しになるのはお嬢さまに相応しくありませんわ」

「ぁ……」

 佐知子お嬢さまが恥ずかしそうに顔を赤らめます。

「それにわたくしは今の佐知子さまのお顔よりも、佐知子さまがいつもお見せになって下さるそよ風に揺れるユリの花のようなたおやかな笑顔の方が、ずっと好みですもの」

「桜子さま……申し訳ございませんでした」

「いいえ、佐知子さまは何も悪くはございません。ですのでお謝りになるのではなく、またいつものようにお笑いになったお顔をわたくしに見せてはいただけませんかしら?」

「はい、喜んで」

 さすがは桜子お嬢さまにございます。
 佐知子お嬢さまのお怒りをいとも簡単にお鎮めになられただけでなく、笑顔にまでさせてしまわれました。

「ですがこれで納得がいきましたわ。中国お嬢さま連合があなた方九州お嬢さま連合にお負けあそばしたのは、このような『お嬢さま道』にもとる卑劣な『比べ合い』を挑まれたからだったのですわね」

「なんとでもお言いになればよろしくてよ。勝てばよろしいのですわ。それでは早速カラオケで『比べ合い』をいたしましょう」

「いたしませんの! 桜子さま、このような『お嬢さま道』から外れた卑怯なやり方に、わざわざ乗る必要なんてありませんの!」

 雅お嬢さまが正論を仰られました。

「あらあら? よもや関西お嬢さま連合筆頭お嬢さまをお努めあそばされる西園寺桜子さまともあろうお方が、『お嬢さま道』に反して『比べ合い』からお逃げになるなんて。まさかそのようなことはございませんわよね?」

 しかし麗華お嬢さまもまた正論を仰られたのです。

「麗華さまの仰る通りですわ。この『比べ合い』をお受けいたします」

「桜子さま、ですが!」

「雅さま、わたくしたち関西お嬢さま連合の深い絆は、このようなことで揺らぐほど弱くはございませんわ」

「桜子さまがそうまで仰られるのでしたら……」

「それでは話がまとまったところで、早速『比べ合い』を始めるといたしましょう」

 こうして関西お嬢さま連合と九州お嬢さま連合の、カラオケによる『比べ合い』が幕をお開けになったのでした。
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