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―最終章―
第79話 クロ
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「そうか、ボクはそういう存在だったのか――」
「クロ……?」
俺の問いかけに対して、しかしクロは自分の心と向きあっているかのように、自分自身と語らうような独り言を紡いでいく。
「やっとわかった――」
「分かったってなにがだよ?」
「ボクは幼いユウトの逃げたいっていう想いと、君のお姉さんがユウトを守りたいと願った想いが合わさってできた《想念》だったんだ――」
「は? お前なに言って――」
クロは俺の肩の上でぴょこんと立ち上がると、ふわっと宙に浮き、そのままふわふわと進むとやっと俺へと向き直った。
「ユウト、今までありがとうね。どうやらボクはここでお別れみたいだ」
「だからクロ、さっきからお前なにを言って――」
混乱する俺の言葉尻に被せるようにして、クロが言葉を続ける。
「記憶はないのに、ボクはユウトの子供の頃のことをよーく知っていた。剣部の宗家に関わることも、退魔士としての知識も、もともとは剣部の宗家に生まれたユウト以上に知っていた。なぜだろうとは思ってたんだ。でも今やっと理解ができたんだ」
「なぜも何も、お前は俺が生み出した《想念》だからだろ?」
「それは半分正解。だけど半分不正解」
「意味が、わからない――」
「ボクの半分はユウトのお姉さんの代わりになるべく生みだされた――お姉さんの知識を一部与えられた――無茶ばかりする君を守り育てるための――そのための《想念》だったんだよ」
「な、ちょっと待ってくれよ! さっきからお前なに言ってんだよ! お前は俺の生み出した《想念》で、大切なパートナーで、これからも一緒に戦う――」
「ボクは昔の君の心が生み出した逃げるための《想念》だ。でも同時に、ユウトのお姉さんが生み出した君を守りたいという《想念》でもあるんだよ」
「俺と姉さんの二つの《想念》が合わさってできた存在――」
それがクロだってのか……?
確かにそれなら剣部のことに詳しかったり俺の幼いころを知っていたつじつまは合うけど――。
「君は過去を、心の傷をちゃんと乗り越えることができた。そして見事に一族の仇を取って未来を切り開いたんだ。本当に強くなったねユウト」
「いやだから――」
「だからもうボクの役目は終わりなんだ――君は強くなったしボクに守られる存在でもなくなった。逃げる必要だってない。ボクの《想念》としての存在意義は、もうないんだよ」
「だからそんな急に言われても――」
あまりに急すぎて、こんなの頭の整理が追い付かないじゃないか――!
「それにほら、ユウトにはもうマナカっていうかけがえのないパートナーがいるだろう? 過去の象徴であるボクはもう必要ない」
「どっちが必要とかってそういうことじゃないだろ――」
俺にとってはどっちも大切な存在なんだよ!
「違わないよ。ボクの役目はもう終わり――だって君は、前に進むことを決めたんだろう? だったら君の隣にいるのは、もう過去であってはならないんだから」
小さな子を優しく教え諭すようにそう言ったクロは、俺から視線を外すと今度はマナカの方を見やった。
「クロ……?」
俺の問いかけに対して、しかしクロは自分の心と向きあっているかのように、自分自身と語らうような独り言を紡いでいく。
「やっとわかった――」
「分かったってなにがだよ?」
「ボクは幼いユウトの逃げたいっていう想いと、君のお姉さんがユウトを守りたいと願った想いが合わさってできた《想念》だったんだ――」
「は? お前なに言って――」
クロは俺の肩の上でぴょこんと立ち上がると、ふわっと宙に浮き、そのままふわふわと進むとやっと俺へと向き直った。
「ユウト、今までありがとうね。どうやらボクはここでお別れみたいだ」
「だからクロ、さっきからお前なにを言って――」
混乱する俺の言葉尻に被せるようにして、クロが言葉を続ける。
「記憶はないのに、ボクはユウトの子供の頃のことをよーく知っていた。剣部の宗家に関わることも、退魔士としての知識も、もともとは剣部の宗家に生まれたユウト以上に知っていた。なぜだろうとは思ってたんだ。でも今やっと理解ができたんだ」
「なぜも何も、お前は俺が生み出した《想念》だからだろ?」
「それは半分正解。だけど半分不正解」
「意味が、わからない――」
「ボクの半分はユウトのお姉さんの代わりになるべく生みだされた――お姉さんの知識を一部与えられた――無茶ばかりする君を守り育てるための――そのための《想念》だったんだよ」
「な、ちょっと待ってくれよ! さっきからお前なに言ってんだよ! お前は俺の生み出した《想念》で、大切なパートナーで、これからも一緒に戦う――」
「ボクは昔の君の心が生み出した逃げるための《想念》だ。でも同時に、ユウトのお姉さんが生み出した君を守りたいという《想念》でもあるんだよ」
「俺と姉さんの二つの《想念》が合わさってできた存在――」
それがクロだってのか……?
確かにそれなら剣部のことに詳しかったり俺の幼いころを知っていたつじつまは合うけど――。
「君は過去を、心の傷をちゃんと乗り越えることができた。そして見事に一族の仇を取って未来を切り開いたんだ。本当に強くなったねユウト」
「いやだから――」
「だからもうボクの役目は終わりなんだ――君は強くなったしボクに守られる存在でもなくなった。逃げる必要だってない。ボクの《想念》としての存在意義は、もうないんだよ」
「だからそんな急に言われても――」
あまりに急すぎて、こんなの頭の整理が追い付かないじゃないか――!
「それにほら、ユウトにはもうマナカっていうかけがえのないパートナーがいるだろう? 過去の象徴であるボクはもう必要ない」
「どっちが必要とかってそういうことじゃないだろ――」
俺にとってはどっちも大切な存在なんだよ!
「違わないよ。ボクの役目はもう終わり――だって君は、前に進むことを決めたんだろう? だったら君の隣にいるのは、もう過去であってはならないんだから」
小さな子を優しく教え諭すようにそう言ったクロは、俺から視線を外すと今度はマナカの方を見やった。
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