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―最終章―

第72話 《心剣》

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「ふむふむ、これはきっとマナカの力だね」

「ふぇ? わたし?」
 クロの言葉に、マナカが自分の顔を指さしながら可愛く小首をかしげた。

「ねぇマナカ、何か心当たりはないかな? 例えば、ユウトに何かしなかった?」
「なにかって、だってわたしは普通の高校生で何もできないし――って、うにゃっ!? ほぁぁぁぁぁぁっっっ!!??」

 いきなりマナカが素っ頓狂すっとんきょうな大声を上げた。

「あ、その様子だとなにか心当たりがあるみたいだね」
「死んだはずの俺を生き返らせたんだぞ? いったい何をしたんだ? 俺も気になる、教えてくれ」

 特に深い意味があるわけでもなく、純粋に何をやったのか知りたくて聞いたんだけど、

「お、おおお教えられませんから!? 秘密のマナカちゃんですから!?」
「いや今はイケズする場面じゃないだろ」

 なぜかマナカはひどく動転していた。
 っていうかなにが秘密のマナカちゃんだよ。秘密のアッコちゃんかっつーの。

「イケズじゃないし!? これはプライバシーの問題だし!?」
「意味が解らん……なにかやましいことでもあるのか?」

「全然ちっともやましくなんかなかったもん! 純粋な善意だったもん! ピュアな心だったもん!!」

 あ、何かちょっとだけやましいことをしたんだな……。

「ああもうわかった、わかったから……マナカにはこれ以上は聞かないから。クロ、お前は色々分かってるんだろ? 分かってる範囲でいい、解説を頼む。なるべく端的にな」

「じゃあ単刀直入に言うね。これは剣部つるぎべの《心剣》だよ」
「《心剣》――これがか?」

「うん、間違いないよ。これは剣部つるぎべの《心剣》だ」
 クロはそう言うものの、

「だって《心剣》は己の魂を具現化して戦うための力だろ? ダメージを全快する《心剣》なんて、元宗家そうけの俺でも聞いたことがないぞ? そもそも俺には《心剣》を扱う力はなかったんだ。それ以前に剣部つるぎべの心剣に、マナカがなんの関係があるんだよ?」

「いいや、これは間違いなく《心剣》さ。強大な回復力と再生力を備えた不死鳥の権能――マナカがその身に宿していた異能の力を、ユウトが引き抜いたんだ。ユウトとマナカ。二人の心と心が深く繋がって、マナカの力をユウトが《心剣》として引き抜いたんだ」

「人の力を《心剣》として引き抜く? なんだそりゃ?」
 さっきから聞くこと聞くこと初耳続きなんだが。

「心が繋がった相手の異能を、想いを、祈りを、願いを、魂を――引き抜いて具現化する剣部つるぎべの異能の原初のすがた。開祖である剣部御剣つるぎべみつるぎだけが持ち、しかし以降、誰にも成し得なかった剣部つるぎべの《心剣》の真なる深奥――そして《心剣》とは魂の在りようであって、必ずしも剣の形をとるとは限らない――」

「繋がった相手の心で作る《心剣》の真なる深奥――」

「一人では何もできない、でも心をかわした大切な人と共にあることで、無限の力を生み出してゆく――それは剣部つるぎべの《心剣》が至る究極の到達点だ。ユウト、君は本当に本物の、天賦の才を受け継いでいたんだね――」

「俺が、天賦の才を――?」
 俺にとっては最も縁遠かった、天才という言葉。

 にわかには信じがたいその言葉も、奇跡というよりほかはないこの状況と、溢れんばかりに注ぎ込まれた力の奔流を実感すれば、納得せざるを得なかった。

 なによりこの4年間相棒としてともに戦ってきたクロが、今さら俺に嘘をつく理由はないわけで。

「マナカがユウトをいつでも見つけられたのにも、これで納得がいったよ。剣部つるぎべが《心剣》を受け継いできたように、マナカも先祖代々の異能の力を受け継いでいたんだ。昔から怪我一つしたことがないって言っていたのも、この再生能力が漏れ出たものだったんだね」

「そ、そうなの!?」

 マナカはまだ良く分かっていないみたいだが、子孫に伝承されていないだけで、異能の力そのものはずっと継承されていた――なんてことは、多くはないがそう珍しいことでもない。

 科学の発展とともに普通の人間にできることが増えていき、相対的に異能の力の必要性は低下して、伝え残す必要性が薄くなってきているからだ。

「マナカがユウトを見つけたんじゃない、二人が互いに引き合っていたんだ。磁石のN極とS極が引き合うように、名刀が名刀のためだけにこしらえらえた美しいさやに収まるようにね」

「ふぇーー……」

「他人から力を引き出すしかできないユウトと、強大な力をただ内に秘めていただけのマナカ。1人だけでは何もできない二人が、運命に導かれるようにして互いに互いを求め合ったんだ――」
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