上 下
72 / 83
―最終章―

第72話 《心剣》

しおりを挟む
「ふむふむ、これはきっとマナカの力だね」

「ふぇ? わたし?」
 クロの言葉に、マナカが自分の顔を指さしながら可愛く小首をかしげた。

「ねぇマナカ、何か心当たりはないかな? 例えば、ユウトに何かしなかった?」
「なにかって、だってわたしは普通の高校生で何もできないし――って、うにゃっ!? ほぁぁぁぁぁぁっっっ!!??」

 いきなりマナカが素っ頓狂すっとんきょうな大声を上げた。

「あ、その様子だとなにか心当たりがあるみたいだね」
「死んだはずの俺を生き返らせたんだぞ? いったい何をしたんだ? 俺も気になる、教えてくれ」

 特に深い意味があるわけでもなく、純粋に何をやったのか知りたくて聞いたんだけど、

「お、おおお教えられませんから!? 秘密のマナカちゃんですから!?」
「いや今はイケズする場面じゃないだろ」

 なぜかマナカはひどく動転していた。
 っていうかなにが秘密のマナカちゃんだよ。秘密のアッコちゃんかっつーの。

「イケズじゃないし!? これはプライバシーの問題だし!?」
「意味が解らん……なにかやましいことでもあるのか?」

「全然ちっともやましくなんかなかったもん! 純粋な善意だったもん! ピュアな心だったもん!!」

 あ、何かちょっとだけやましいことをしたんだな……。

「ああもうわかった、わかったから……マナカにはこれ以上は聞かないから。クロ、お前は色々分かってるんだろ? 分かってる範囲でいい、解説を頼む。なるべく端的にな」

「じゃあ単刀直入に言うね。これは剣部つるぎべの《心剣》だよ」
「《心剣》――これがか?」

「うん、間違いないよ。これは剣部つるぎべの《心剣》だ」
 クロはそう言うものの、

「だって《心剣》は己の魂を具現化して戦うための力だろ? ダメージを全快する《心剣》なんて、元宗家そうけの俺でも聞いたことがないぞ? そもそも俺には《心剣》を扱う力はなかったんだ。それ以前に剣部つるぎべの心剣に、マナカがなんの関係があるんだよ?」

「いいや、これは間違いなく《心剣》さ。強大な回復力と再生力を備えた不死鳥の権能――マナカがその身に宿していた異能の力を、ユウトが引き抜いたんだ。ユウトとマナカ。二人の心と心が深く繋がって、マナカの力をユウトが《心剣》として引き抜いたんだ」

「人の力を《心剣》として引き抜く? なんだそりゃ?」
 さっきから聞くこと聞くこと初耳続きなんだが。

「心が繋がった相手の異能を、想いを、祈りを、願いを、魂を――引き抜いて具現化する剣部つるぎべの異能の原初のすがた。開祖である剣部御剣つるぎべみつるぎだけが持ち、しかし以降、誰にも成し得なかった剣部つるぎべの《心剣》の真なる深奥――そして《心剣》とは魂の在りようであって、必ずしも剣の形をとるとは限らない――」

「繋がった相手の心で作る《心剣》の真なる深奥――」

「一人では何もできない、でも心をかわした大切な人と共にあることで、無限の力を生み出してゆく――それは剣部つるぎべの《心剣》が至る究極の到達点だ。ユウト、君は本当に本物の、天賦の才を受け継いでいたんだね――」

「俺が、天賦の才を――?」
 俺にとっては最も縁遠かった、天才という言葉。

 にわかには信じがたいその言葉も、奇跡というよりほかはないこの状況と、溢れんばかりに注ぎ込まれた力の奔流を実感すれば、納得せざるを得なかった。

 なによりこの4年間相棒としてともに戦ってきたクロが、今さら俺に嘘をつく理由はないわけで。

「マナカがユウトをいつでも見つけられたのにも、これで納得がいったよ。剣部つるぎべが《心剣》を受け継いできたように、マナカも先祖代々の異能の力を受け継いでいたんだ。昔から怪我一つしたことがないって言っていたのも、この再生能力が漏れ出たものだったんだね」

「そ、そうなの!?」

 マナカはまだ良く分かっていないみたいだが、子孫に伝承されていないだけで、異能の力そのものはずっと継承されていた――なんてことは、多くはないがそう珍しいことでもない。

 科学の発展とともに普通の人間にできることが増えていき、相対的に異能の力の必要性は低下して、伝え残す必要性が薄くなってきているからだ。

「マナカがユウトを見つけたんじゃない、二人が互いに引き合っていたんだ。磁石のN極とS極が引き合うように、名刀が名刀のためだけにこしらえらえた美しいさやに収まるようにね」

「ふぇーー……」

「他人から力を引き出すしかできないユウトと、強大な力をただ内に秘めていただけのマナカ。1人だけでは何もできない二人が、運命に導かれるようにして互いに互いを求め合ったんだ――」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫を愛することはやめました。

杉本凪咲
恋愛
私はただ夫に好かれたかった。毎日多くの時間をかけて丹念に化粧を施し、豊富な教養も身につけた。しかし夫は私を愛することはなく、別の女性へと愛を向けた。夫と彼女の不倫現場を目撃した時、私は強いショックを受けて、自分が隣国の王女であった時の記憶が蘇る。それを知った夫は手のひらを返したように愛を囁くが、もう既に彼への愛は尽きていた。

選ばれたのは美人の親友

杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。

十年目の離婚

杉本凪咲
恋愛
結婚十年目。 夫は離婚を切り出しました。 愛人と、その子供と、一緒に暮らしたいからと。

【完結】捨てられ正妃は思い出す。

なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」    そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。  人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。  正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。  人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。  再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。  デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。  確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。 ––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––  他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。  前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。  彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。  

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

【完結】王太子妃の初恋

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
カテリーナは王太子妃。しかし、政略のための結婚でアレクサンドル王太子からは嫌われている。 王太子が側妃を娶ったため、カテリーナはお役御免とばかりに王宮の外れにある森の中の宮殿に追いやられてしまう。 しかし、カテリーナはちょうど良かったと思っていた。婚約者時代からの激務で目が悪くなっていて、これ以上は公務も社交も難しいと考えていたからだ。 そんなカテリーナが湖畔で一人の男に出会い、恋をするまでとその後。 ★ざまぁはありません。 全話予約投稿済。 携帯投稿のため誤字脱字多くて申し訳ありません。 報告ありがとうございます。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

処理中です...