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第六章「《蒼混じりの焔》ブルーブレンド」
第62話 最愛の姉を見捨てて逃げた俺の罪を! 俺以外の誰が分かる!
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「なぜ本気を出さないのかと、聞いているのだよ」
「あぁ? なに言ってやがる? 俺は殺したいくらいに本気だ。仇を前にして、俺が本気にならない理由がどこにある!」
「ふむ、そうか、自分でも気が付いていないのかい――」
「だからさっきから何を言ってやがる!」
「ふむ、このまま勝ってしまっては余りに味気ない。何より我にとって意味がない。いいだろう、少し話をしようじゃないか」
言って、構えを解いた《蒼混じりの焔》。
まるで無防備そのものだが《絶対剣域》という対抗技が存在する以上、俺ももううかつには飛び込めないのだった。
それに話を聞くだけならタダだからな。
いい時間稼ぎになる。
この隙に、攻略の糸口を見つけるんだ――!
俺の内心を知ってか知らずか《蒼混じりの焔》は滔々と自説を語り始める。
「その黒猫の《想念獣》は、2つの《想念》が混じり合わさった特異な個体だろう?」
「なんだそりゃ? そんなこと考えたこともねーよ。クロはクロだろうが」
「気付いていないか。まぁいい。なんにせよ我もそんな特殊事例はいまだかつて見聞きしたことがない。あの日、見事に我を出し抜き君を逃げきらせたその特異極まりない《想念獣》。それがまさか相手の認識に干渉して惑わせるだけ、などという陳腐な手品ではあるまいて?」
「俺は出し惜しみなんぞしちゃいない。今この瞬間だって、どうやってお前を討滅するか、考えに考え続けているんだからな――!」
「――そうか。出さないのではなく、出せないのか。であるなら――実に、実に残念だ」
「なん、だと――?」
「確かに君は強い。よくぞここまで己を高めた。技術だけでなく、度胸も覚悟も申し分ない――だが悲しいかな、いかんせん君には天賦の才が欠落している」
はぁ?
それがどうした?
んなことはいちいち言われなくても、俺自身が一番よく分かっていることだ!
「170センチに満たない小柄な体躯では、最高出力はどうしても見劣りする。元から優れた天然の高級素材と比べて、まさに君は凡夫の行き着く最高傑作と言えるだろう。そんな君が他者に誇れる唯一と言ってもいい、君だけが持つ最高の武器たるその《想念獣》を、全くと言っていいほど使いこなせていないのはなぜだい?」
「……うるさい口だな」
「高度な自我をも有した特異個体ともいえる《想念獣》を、なぜ君はもっと上手に使わないのか? 相手の認識に干渉して逃げ隠れするだけの隠蔽能力と、一体化することによる単純な体力強化。その《想念獣》の力はそんなものじゃないだろう!」
「……黙れ」
「かつて至近にいた我すらも欺いてみせたその力じゃあないか! それとも君は恐れているのか? ――ああ、そうか、そういうことか。その力を使用することは、すなわち過去の自分を肯定――仲間を、家族を、姉を見捨てて逃げ隠れたかつての自分を肯定するから――だから力を使えない。なるほど、そういうことか――」
「ぺらぺらぺらぺらと本当にうるさい口だな――!」
「実に残念だよ。まさに《弱者が至る最強》のために必要な要素を全てやりつくした、弱者の到達点である君が――そんな君だからこそ期待していたのだが――実に、実に残念だ。それほどの努力を重ねながら――」
「黙れと言ってるのが聞こえないのか――!」
黙れ黙れ黙れ黙れ! 黙れ!!
「ダメだ、ユウト、熱くならないで――」
一体化を一部解除したクロが慌てて止めに入るが、心の奥底に土足で踏み入られた俺の激情は、荒れ狂う冬の日本海のごとくもはや留まることを知らなかった。
「純然たる加害者のお前に、俺の何が分かる! 何もかもを一瞬にして奪われ、大切な人を見捨てた贖罪の意識に苛まれ、逃げた自分を誰よりも俺自身が許せない! そんな俺の気持ちが、化け物なんぞにわかってたまるものか――っ!!」
「ユウト!!」
「お前も引っ込んでろ!」
全てを見捨てて逃げた俺の罪を、最愛の姉を見捨てて逃げた俺の罪を!
俺以外の誰が分かる!
「討滅する討滅する討滅する討滅する討滅する討滅する――! 《蒼混じりの焔》を討滅する! おおおぉぉぉっっっっ――――!!」
復讐心という炎に、怒りという薪を一気にくべる。
燃え上がるのは、全てを覆い尽くすただひたすらのどす黒い闘争心。
それを剥きだしにしながら俺は全力で大地を蹴りとばした――!
「あぁ? なに言ってやがる? 俺は殺したいくらいに本気だ。仇を前にして、俺が本気にならない理由がどこにある!」
「ふむ、そうか、自分でも気が付いていないのかい――」
「だからさっきから何を言ってやがる!」
「ふむ、このまま勝ってしまっては余りに味気ない。何より我にとって意味がない。いいだろう、少し話をしようじゃないか」
言って、構えを解いた《蒼混じりの焔》。
まるで無防備そのものだが《絶対剣域》という対抗技が存在する以上、俺ももううかつには飛び込めないのだった。
それに話を聞くだけならタダだからな。
いい時間稼ぎになる。
この隙に、攻略の糸口を見つけるんだ――!
俺の内心を知ってか知らずか《蒼混じりの焔》は滔々と自説を語り始める。
「その黒猫の《想念獣》は、2つの《想念》が混じり合わさった特異な個体だろう?」
「なんだそりゃ? そんなこと考えたこともねーよ。クロはクロだろうが」
「気付いていないか。まぁいい。なんにせよ我もそんな特殊事例はいまだかつて見聞きしたことがない。あの日、見事に我を出し抜き君を逃げきらせたその特異極まりない《想念獣》。それがまさか相手の認識に干渉して惑わせるだけ、などという陳腐な手品ではあるまいて?」
「俺は出し惜しみなんぞしちゃいない。今この瞬間だって、どうやってお前を討滅するか、考えに考え続けているんだからな――!」
「――そうか。出さないのではなく、出せないのか。であるなら――実に、実に残念だ」
「なん、だと――?」
「確かに君は強い。よくぞここまで己を高めた。技術だけでなく、度胸も覚悟も申し分ない――だが悲しいかな、いかんせん君には天賦の才が欠落している」
はぁ?
それがどうした?
んなことはいちいち言われなくても、俺自身が一番よく分かっていることだ!
「170センチに満たない小柄な体躯では、最高出力はどうしても見劣りする。元から優れた天然の高級素材と比べて、まさに君は凡夫の行き着く最高傑作と言えるだろう。そんな君が他者に誇れる唯一と言ってもいい、君だけが持つ最高の武器たるその《想念獣》を、全くと言っていいほど使いこなせていないのはなぜだい?」
「……うるさい口だな」
「高度な自我をも有した特異個体ともいえる《想念獣》を、なぜ君はもっと上手に使わないのか? 相手の認識に干渉して逃げ隠れするだけの隠蔽能力と、一体化することによる単純な体力強化。その《想念獣》の力はそんなものじゃないだろう!」
「……黙れ」
「かつて至近にいた我すらも欺いてみせたその力じゃあないか! それとも君は恐れているのか? ――ああ、そうか、そういうことか。その力を使用することは、すなわち過去の自分を肯定――仲間を、家族を、姉を見捨てて逃げ隠れたかつての自分を肯定するから――だから力を使えない。なるほど、そういうことか――」
「ぺらぺらぺらぺらと本当にうるさい口だな――!」
「実に残念だよ。まさに《弱者が至る最強》のために必要な要素を全てやりつくした、弱者の到達点である君が――そんな君だからこそ期待していたのだが――実に、実に残念だ。それほどの努力を重ねながら――」
「黙れと言ってるのが聞こえないのか――!」
黙れ黙れ黙れ黙れ! 黙れ!!
「ダメだ、ユウト、熱くならないで――」
一体化を一部解除したクロが慌てて止めに入るが、心の奥底に土足で踏み入られた俺の激情は、荒れ狂う冬の日本海のごとくもはや留まることを知らなかった。
「純然たる加害者のお前に、俺の何が分かる! 何もかもを一瞬にして奪われ、大切な人を見捨てた贖罪の意識に苛まれ、逃げた自分を誰よりも俺自身が許せない! そんな俺の気持ちが、化け物なんぞにわかってたまるものか――っ!!」
「ユウト!!」
「お前も引っ込んでろ!」
全てを見捨てて逃げた俺の罪を、最愛の姉を見捨てて逃げた俺の罪を!
俺以外の誰が分かる!
「討滅する討滅する討滅する討滅する討滅する討滅する――! 《蒼混じりの焔》を討滅する! おおおぉぉぉっっっっ――――!!」
復讐心という炎に、怒りという薪を一気にくべる。
燃え上がるのは、全てを覆い尽くすただひたすらのどす黒い闘争心。
それを剥きだしにしながら俺は全力で大地を蹴りとばした――!
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