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第六章「《蒼混じりの焔》ブルーブレンド」
第58話 試練の獣
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「本当に素晴らしい。まさに積み上げた努力の結晶が、その鋭く速い戦闘スタイルなのだろう。さすが、さすがは試練を乗り越えただけのことはある」
「試練だと? ピーチクパーチクうるさい上に、いきなりなに意味不明なことを言ってやがる」
「そうとも、試練だ。《コンビ想念獣》、《ケンタウロス》、《ウイザード》。我の用意した試練の獣たちを、君は次々とクリアしてきた。であればこそ、君は我と戦うに足るまでへと至ったのだ」
「なん……だと……? 我の用意した、だと?」
連携をとっていたライオン型とヒグマ型の《コンビ想念獣》。
強力なケンタウロス型《幻想想念獣》。
そして俺がもっとも苦手とする遠距離タイプ《ウィザード》。
やつらは他の《想念獣》とは違って、俺に対して明確な敵意のような攻撃意志を有していた。
なんでかと思っていたが――、
「あいつらをけしかけてたのはお前ってわけか。でもちょっと待て、試練だと? 俺をテストしたっていうのか? そんなことをして一体お前に何のメリットがあるってんだ?」
「メリット? それはもちろん君が試練を乗り越え強くなることだ。我は強者にしか興味がない。弱者を狩ったところで、そこに何があるというのか? 全ては、全てはそう――君を《弱者の至る最強》へと導くため――」
芝居がかった、どこか小馬鹿にしたようなセリフ回し。
「我が希求するは、ただただ究極至高の闘争の果て――そこから生まれる唯一無二の《最強》よ。同じく《最強》を誇る数多の強者と対峙し、互いの死力を振り絞って相争い、そして勝つ。そうして初めて、我は真の《最強》へとなりうるのだ――」
まるで世間知らずの子供を諭す大人のような口ぶりに――、
「《最強》の敵が得意とする戦い方で、その類い稀なる技の数々を存分に受け止めながら――しかし、最後は絶対的な力と、無比なる技巧でもって完膚なきまでに捻じ伏せる。それこそが《最強》――我の求めるたった一つの存在価値なのだから!」
――ふつふつと抑えきれない怒りが煮えたぎり始める。
じゃあなんだ……?
「お前は俺を強くするために、あの《想念獣》どもを俺に差し向けたってことかよ? 俺を強くして、お前が戦うと認めただけ強くなった俺と戦うために――」
「その通り! 我の《想念獣》たる存在意義はただ《最強》と戦うことのみ。そして真なる《最強》へと至ること。それ以外には何もないのだから。そして我の見立ては正しかった。君は試練を乗り越え、我と相まみえるにふさわしい位階へとたどり着いた――!」
「はっ、はは――っ」
なんだそりゃ?
思わず乾いた笑いが漏れ出でたぞ――ふざけやがってクソが。
人が死ぬ思いで戦ってきたのを、高みの見物でもしていたってか?
それも俺が強くなるように、だと?
「本当にてめぇは、何様のつもりだ……!」
怒りのあまり噛みしめた奥歯がギリっと嫌な音をたてた。
簡単に命を奪うだけでは飽き足らず、見下して敵に塩を送るような真似まで――それもただ《最強》とやらを目指すためだけに――!
そんな、昂りすぎて煮えたぎった俺の頭を冷やしてくれたのは、
「やれやれユウト、ダメだよ熱くなりすぎちゃ。気持ちを落ち着けて。はい深呼吸」
数々の修羅場をともに潜り抜けてきた、頼れる相棒の一声だった――。
「試練だと? ピーチクパーチクうるさい上に、いきなりなに意味不明なことを言ってやがる」
「そうとも、試練だ。《コンビ想念獣》、《ケンタウロス》、《ウイザード》。我の用意した試練の獣たちを、君は次々とクリアしてきた。であればこそ、君は我と戦うに足るまでへと至ったのだ」
「なん……だと……? 我の用意した、だと?」
連携をとっていたライオン型とヒグマ型の《コンビ想念獣》。
強力なケンタウロス型《幻想想念獣》。
そして俺がもっとも苦手とする遠距離タイプ《ウィザード》。
やつらは他の《想念獣》とは違って、俺に対して明確な敵意のような攻撃意志を有していた。
なんでかと思っていたが――、
「あいつらをけしかけてたのはお前ってわけか。でもちょっと待て、試練だと? 俺をテストしたっていうのか? そんなことをして一体お前に何のメリットがあるってんだ?」
「メリット? それはもちろん君が試練を乗り越え強くなることだ。我は強者にしか興味がない。弱者を狩ったところで、そこに何があるというのか? 全ては、全てはそう――君を《弱者の至る最強》へと導くため――」
芝居がかった、どこか小馬鹿にしたようなセリフ回し。
「我が希求するは、ただただ究極至高の闘争の果て――そこから生まれる唯一無二の《最強》よ。同じく《最強》を誇る数多の強者と対峙し、互いの死力を振り絞って相争い、そして勝つ。そうして初めて、我は真の《最強》へとなりうるのだ――」
まるで世間知らずの子供を諭す大人のような口ぶりに――、
「《最強》の敵が得意とする戦い方で、その類い稀なる技の数々を存分に受け止めながら――しかし、最後は絶対的な力と、無比なる技巧でもって完膚なきまでに捻じ伏せる。それこそが《最強》――我の求めるたった一つの存在価値なのだから!」
――ふつふつと抑えきれない怒りが煮えたぎり始める。
じゃあなんだ……?
「お前は俺を強くするために、あの《想念獣》どもを俺に差し向けたってことかよ? 俺を強くして、お前が戦うと認めただけ強くなった俺と戦うために――」
「その通り! 我の《想念獣》たる存在意義はただ《最強》と戦うことのみ。そして真なる《最強》へと至ること。それ以外には何もないのだから。そして我の見立ては正しかった。君は試練を乗り越え、我と相まみえるにふさわしい位階へとたどり着いた――!」
「はっ、はは――っ」
なんだそりゃ?
思わず乾いた笑いが漏れ出でたぞ――ふざけやがってクソが。
人が死ぬ思いで戦ってきたのを、高みの見物でもしていたってか?
それも俺が強くなるように、だと?
「本当にてめぇは、何様のつもりだ……!」
怒りのあまり噛みしめた奥歯がギリっと嫌な音をたてた。
簡単に命を奪うだけでは飽き足らず、見下して敵に塩を送るような真似まで――それもただ《最強》とやらを目指すためだけに――!
そんな、昂りすぎて煮えたぎった俺の頭を冷やしてくれたのは、
「やれやれユウト、ダメだよ熱くなりすぎちゃ。気持ちを落ち着けて。はい深呼吸」
数々の修羅場をともに潜り抜けてきた、頼れる相棒の一声だった――。
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