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第六章「《蒼混じりの焔》ブルーブレンド」
第54話 終わりの始まり
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それは何の前触れもなく、青天の霹靂――まさに唐突としかいえないタイミングでのことだった――、
「ユウトくん、最近はいつにもまして気合入ってるね」
「最近は心が軽いっていうか、心身ともに調子がいい――」
――いつものように《想念獣》を討滅してマナカとおしゃべりしていた俺の目の前を、一筋の蒼い炎が通り過ぎたのは。
ほんの一瞬で霧散するように消え失せたそれは、しかし――!
「ついに――! ついに見つけたぞ――!」
決して忘れはしない、あの日見た蒼炎だ――!
「クロ! 探知しろ! 絶対に逃がすな!」
「もうやってるよ。うん、かなり近い。この先の右手にある空き地の奥にいるみたいだ」
「でかした――!」
さすが頼りになる相棒だぜ。
そして、
「マナカ、悪いな」
「ふえ?」
俺はマナカを抱き寄せるや否や小脇に抱えると、空き地の入口まで全力疾走、そこで右足を強烈に踏み込むと、大きく上へと跳躍した。
「んにゃあ、みにゃああ、ふんぎゃあああ――!」
そのまま俺は木の幹にあるわずかな節、大ぶりの枝を蹴って跳躍を重ねながら、樹齢百年はありそうなクスノキの大木をぐいぐいと駆け上がっていく。
そして一際大きな枝の上にマナカをおろすと、
「マナカ、ここを絶対に動くな」
「えぇぇえぇ!? ちょ、ここってば、地上15メートルくらいある木の上なんですけどっ!?」
「高いところは得意なんだろ。太い枝だ、折れはしない」
言いながらも俺の視線はずっとヤツの姿を捉え続けていた。
「ここであったが百年目だ……! 絶対に逃がしはしない、絶対にな……!」
「ねぇ、ユウトくん、雰囲気がいつもと違うよ……今のユウトくんは、なんだかちょっと――怖い、かも……あの、ユウトくんは《正義の味方》、なんだよね?」
少し怯えたようなそぶりを見せながら、マナカがおずおずと尋ねてくる。
知らず知らずのうちに、殺気立っていたようだ。
マナカを怖がらせてしまった。
――だけど今はそんなことはどうでもいいんだ。
心の奥から湧き上がるどす黒い歓喜を前に、逸るなという方が無理というものだろう?
だから。
その問いへの答えは決まっていた。
なぜなら、俺は――、
「俺が《正義の味方》だって? いいや違うな。俺は《リベンジャー》、復讐者だ……!」
「えっ――」
「いいから黙って大人しくしてろ、あとで迎えに来る」
「ちょ、待って――」
抗議の声が上がるものの、もはや俺の意識はマナカには欠片も向いていなかった。
見据えるのはただ、時おり蒼い炎の入り混じった、業火をまといし《想念獣》。
そう。
4年間、待ちに待った瞬間が、今まさに訪れたのだから――!
大樹から飛び降りて――待ち構えているのだろう――こちらを向いたまま、しかし微動だにしない《蒼混じりの焔》の元へと向かってゆく。
「クロ、行くぞ――」
「……わかった」
短いやり取りと同時にクロの身体が黒い霧となって、俺の身体を覆うようにまとわりついてゆく。
本邦初公開、《想念》との完全一体化だ。
普段は過呼吸を呼び起こすせいでほとんど使うことができないこの奥の手は――、
「マナカがあの時助けてくれたおかげだな。今日は全然、発作が出ない――これなら殺れる――!」
――身体中から禍々しい漆黒のオーラを立ち昇らせていて、まるで悪鬼のように見えることだろう。
どす黒く染まった俺の心を、そのまま映しこんだかのように――。
「ユウトくん、最近はいつにもまして気合入ってるね」
「最近は心が軽いっていうか、心身ともに調子がいい――」
――いつものように《想念獣》を討滅してマナカとおしゃべりしていた俺の目の前を、一筋の蒼い炎が通り過ぎたのは。
ほんの一瞬で霧散するように消え失せたそれは、しかし――!
「ついに――! ついに見つけたぞ――!」
決して忘れはしない、あの日見た蒼炎だ――!
「クロ! 探知しろ! 絶対に逃がすな!」
「もうやってるよ。うん、かなり近い。この先の右手にある空き地の奥にいるみたいだ」
「でかした――!」
さすが頼りになる相棒だぜ。
そして、
「マナカ、悪いな」
「ふえ?」
俺はマナカを抱き寄せるや否や小脇に抱えると、空き地の入口まで全力疾走、そこで右足を強烈に踏み込むと、大きく上へと跳躍した。
「んにゃあ、みにゃああ、ふんぎゃあああ――!」
そのまま俺は木の幹にあるわずかな節、大ぶりの枝を蹴って跳躍を重ねながら、樹齢百年はありそうなクスノキの大木をぐいぐいと駆け上がっていく。
そして一際大きな枝の上にマナカをおろすと、
「マナカ、ここを絶対に動くな」
「えぇぇえぇ!? ちょ、ここってば、地上15メートルくらいある木の上なんですけどっ!?」
「高いところは得意なんだろ。太い枝だ、折れはしない」
言いながらも俺の視線はずっとヤツの姿を捉え続けていた。
「ここであったが百年目だ……! 絶対に逃がしはしない、絶対にな……!」
「ねぇ、ユウトくん、雰囲気がいつもと違うよ……今のユウトくんは、なんだかちょっと――怖い、かも……あの、ユウトくんは《正義の味方》、なんだよね?」
少し怯えたようなそぶりを見せながら、マナカがおずおずと尋ねてくる。
知らず知らずのうちに、殺気立っていたようだ。
マナカを怖がらせてしまった。
――だけど今はそんなことはどうでもいいんだ。
心の奥から湧き上がるどす黒い歓喜を前に、逸るなという方が無理というものだろう?
だから。
その問いへの答えは決まっていた。
なぜなら、俺は――、
「俺が《正義の味方》だって? いいや違うな。俺は《リベンジャー》、復讐者だ……!」
「えっ――」
「いいから黙って大人しくしてろ、あとで迎えに来る」
「ちょ、待って――」
抗議の声が上がるものの、もはや俺の意識はマナカには欠片も向いていなかった。
見据えるのはただ、時おり蒼い炎の入り混じった、業火をまといし《想念獣》。
そう。
4年間、待ちに待った瞬間が、今まさに訪れたのだから――!
大樹から飛び降りて――待ち構えているのだろう――こちらを向いたまま、しかし微動だにしない《蒼混じりの焔》の元へと向かってゆく。
「クロ、行くぞ――」
「……わかった」
短いやり取りと同時にクロの身体が黒い霧となって、俺の身体を覆うようにまとわりついてゆく。
本邦初公開、《想念》との完全一体化だ。
普段は過呼吸を呼び起こすせいでほとんど使うことができないこの奥の手は――、
「マナカがあの時助けてくれたおかげだな。今日は全然、発作が出ない――これなら殺れる――!」
――身体中から禍々しい漆黒のオーラを立ち昇らせていて、まるで悪鬼のように見えることだろう。
どす黒く染まった俺の心を、そのまま映しこんだかのように――。
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